車椅子 構成部品

車椅子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 04:51 UTC 版)

構成部品

フレームや車輪には、主に加工性に優れて丈夫なクロモリ鋼)、軽量で錆びにくいアルミニウムが用途や予算に合わせて使われている。高価なものには軽さと強度を併せ持つチタン、軽量で振動吸収性の高いカーボンを使用している。低帯磁性からステンレスを使ったものはMRIなどの施設内で使用されたり、アルミ以上の耐腐食性により入浴用・シャワー用が製造されている。

フレーム
基礎となる部品。鉄やアルミのパイプなどで形作られ、これに他の部品を装着してゆく。ベッド・トイレなどへの移乗、車両への積み込みの為の折り畳み・可動・取り外し機構、また身長・体重などの変化や骨格・筋・関節の変形・硬縮などに対応するためのサイズ・角度調整機構つきのものもあるが(種類の項、シーティングの項参照)、重量増加による操作性の悪化や、強度・フレーム剛性の低下による歪み・たわみから座位の不安定化や駆動効率の低下(漕いだ力が歪み・たわみで逃げてしまう)が起こる場合がある(スポーツ型の項参照)。
主輪
一般的な構成はタイヤ部分も含め自転車ホイールとほぼ同じものがフレームの両側に配置される。自走式の場合22 - 25インチ程度の大きさで、リムの外側に付けられたハンドリムと呼ばれる輪を両腕で掴み回転させることで前進後退を行い、左右主輪を別々に動かすことで右左折、転回動作を行う。介助用は利用者が漕がないためハンドリムが無く、直径も12 - 16インチ程度(小さいタイヤは走破性が下がる為、もっと大きめなものもある(後述の介助用参照))。自転車のようにスポーク式ホイールが一般的だが、自動車のアルミホイール様の意匠や、カーボン素材を使ったものなど、軽量化重視やデザイン性重視のものもある(後述のスポーツ型も参照)。ホイールの部分に取り付ける薄いプラスチック製のホイールカバーもある(子供用などではキャラクターなどのイラストが描かれていたりするが、デザイン性だけではなくスポークへの指つめ対策でもある)。空気を入れないノーパンクタイヤ(ソリッド(むく)タイプやゲル封入タイプなど)もあり、公共施設・商業施設などで見かける。チューブタイヤに比べ、乗り心地は少々劣るがフリーメンテナンス性が採用理由と思われる。後方から見て「ハの字」になっているものを見かけると思う(いわゆるネガティブキャンバーが付いたもの。スポーツ用はその角度が顕著)が、理由としては各スポーツによって微妙に違う。後輪がハの字型である理由に詳しいので、参照されたい。
キャスター
方向転換を妨げない様、自在に向きを変える車輪。通常は前輪に使われ、フットサポート近傍に設置される。一般には無垢のゴムを使ったものだが、走破性・クッション性・静粛性向上の為、エアタイヤ・大径タイヤ・幅広タイヤ(ただし大径・拡幅は旋回性に影響する)が用意されていたり、サスペンション機構を取り入れたものもある。アライメント(トレッドキャスター角など)調整が可能なものもあり、旋回性や漕ぎ出しの軽さなど、利用者の好みに合わせられる。
シート
座面。一般的なものは布をリベットやビスでフレームに固定したものが多いが、洗濯や交換にも簡単に対応できるようにマジックテープで取り外し可能なものもある。長時間の乗用時には座面にクッションを敷くのが基本であるが、ある程度の堅さ(張り)のあるシートの方が疲れ難い(後述のシーティングも参照)。座面が後ろに傾いている種類がある。特にスポーツタイプに多いため、格好良くするためと思われがちだが、これは漕ぐことにより、徐々にお尻が前方へズレるという現象を防ぐ効果がある。腹筋・背筋が使えない利用者の場合、普通に座っているだけでもズレることがあり、体の変形や痛みを防ぐために役に立つものである。角度的にはほんの少しでも効果がある。
バックサポート
背面シート。座面シート同様に布製シートがフレームに留められているものが一般的。マジックテープでの着脱機能付きのものも座面と同様に存在し、洗濯や交換に便利である。クッション材やサポート材を用い、厚みや素材を工夫することにより、骨格変形進行に対応することを可能にしたものもある(後述のシーティングも参照)。車両への積み込みのし易さを考え、折り畳めるタイプも多い。上体の可動性、漕ぐ為の両腕稼動域を確保するため、肩部接触箇所(一般的には肩甲骨の下端ぐらいの高さ)を省略したり、腰部のサポートのみということもある。しかしあまりにバックサポート部が省略されると、ハンドル(グリップ)を取り付けるスペースが無くなり、突然の急坂・悪路など自力走行が不可能な場面で、サポートがお願いできないことになりかねないので、折り畳みタイプを採用し、普段自走の場合は折り畳んで、坂などでサポートを受ける場合は伸ばしてと、使い分けているユーザーも多い。
フットサポート
足置き(フットレスト・足台(あしだい)とも呼ばれる)と脚部の後方への脱落を防ぐ為の、サポートベルトなどからなる。一般的なタイプは足置き(プラスチックのプレートで作られている)が左右に分かれており、乗降時や折りたたみ収納の際に邪魔にならないよう、引き起こして立てることができる。逆に、仕舞い忘れたまま乗降しようと、これに足を掛けると車いす自体がひっくり返るなど事故に繋り大変危険である。足置きから座面までの距離は重要で、足置きに足を置いた状態でひざの裏近辺の腿と座面に、ほぼ指1・2本分のクリアランスが必要で、ピッタリくっ付いている場合、脚部への血行障害や痺れに繋がる場合がある。障害によっては脚部に全く力が入らない場合もあるので、ベルト・マジックテープなどで脚部を完全に固定するタイプもある。トイレやベッドなどへの移乗時に、より対象に近づく為、フレームごと取り外すタイプや外側に大きく開くタイプもある。
アームサポート
左右への体幹の安定性を確保するための肘掛け。シートベルトなどと併用し安定を保つにも大事な部分で、常に肘を突いて体を支えるユーザーの場合、素材に気をつけないと痛みなどに繋がることもある(後述のシーティングも参照)。両サイドのパネルやバックサポートのフレームに固定されているが、フットサポート同様、取り外し式・跳ね上げ式などを採用して、移乗時の邪魔にならないよう工夫されたものもある。階段や段差を持ち上げるサポート時、この取り外せる部分を掴まないように注意が必要である。
ブレーキ
以前は、レバー式ブレーキ(レバーを3ないし4ヶ所の凹にはめ込んで固定するタイプで、レバーを手前に引きながら外側に動かし凹にはめ込む動作に力が必要)と呼ばれるものが一般的だったが、現在はタックブレーキ(タックル・タッグルと色々呼ばれるが、機械構造の名前として正くはトグル。英語表記はtoggle)と呼ばれるタイプを装備したものが多く、以前のレバー式に比べると、はるかに力が要らなくなった。アームレスト前下方、主輪近傍に取り付けられ、駐停車・乗降時の不意な動き出し防止の為に使用する。レバー式・タック式ともに金属の小片を主輪のトレッド面に押し付けることで固定するが、構造的に制動力は主輪の空気圧と摩擦力に負う所があり、低圧またはタイヤの磨耗は制動力が低くなり大変危険である。また、タイヤが濡れた状態でも同様に制動力が低下するので、雨天時などは注意が必要である。介助型には介助者の利便も考え(タックブレーキは前方に回らないと操作しづらい)、介助者用ブレーキが個別に取り付けられる場合がある。一つはハンドブレーキで、ハンドルに取り付けた自転車用のブレーキレバーを操作して、主輪ハブ部分に設置されたドラムブレーキを操作するもので下り坂での減速に使用される。もう一つはフットブレーキで、使用法も構造もタックブレーキと同様で、後述のティッピングレバー付近に設置されたペダルを踏むとロック、跳ね上げると解除が行えるようになっている。
ハンドル(グリップ)
介助者が背後から押して移動する時に握る部分で、バックサポートの後部に付く。通常の移動介助以外にも、上り坂・下り坂・段差越え・階段の介助など、荷重が掛かる部分であり強度も大切であるが、低価格な自転車のグリップのような簡単な作りが多く見られる。しかし太さ長さ共に力の入り具合には重要なファクターであり、設置高さも低すぎると介助者の負担が増すことになる。介助を前提としていないユーザーのなかには上記のバックサポートの項にあるような理由でバックサポートが小さい場合があり、グリップが小さかったり位置が低かったり、そもそも付いていない物も見受けられる。
ティッピングレバー
ティッピングバー、前輪昇降バーとも呼ばれる。小段差などを乗り越える(その他にも後退しながら段差を降りる、砂利道・溝などを乗り越える)際、キャスターを地面より浮かせつつ(「「キャストアップ」と言う。いわゆるウイリー」)乗り越えるが、介助者側でこれを行うには、車いす後方最下部に飛び出しているパイプ(これがティッピングレバーである)を足で踏みつつハンドルを引く事で実現できる(操縦者自身でも体重移動だけで持ち上げることが可能で上達すれば暫くそのまま走行が可能な人もいる)。なお、段差を越えた後、キャスターを再び接地させる時には、ハンドルとともに慎重な操作をしないと、勢い余って搭乗者に大きな衝撃を与える危険性があるので注意が必要である。デザイン性からレバーが短いまたは付いていないタイプも増えている。レバーなしで持ち上げるのは大変なので無理せず複数人の協力(左右の人に前輪の上あたりのフレームを軽く持ち上げてもらいながら進む)を受けたほうがよい。レバーの延長用パーツや、後方への転倒防止用のゴムストッパーや小車輪が用意されている機種もある。

シーティング

身体障害者や高齢者が椅子・車いす、又は座位保持装置を適切に活用し自立的生活を築くための支援や、介護者の負担を軽減する技術のこと。1989年に身体障害者福祉法補装具交付基準の対象品目になった。シーティングシステムは、座位の保持が難しい重度身体障害者や高齢者(円背等の脊椎の変形を伴うなど)に安定した座位姿勢を確保し、また上肢機能へ配慮した適切な作業姿勢や活動姿勢を提供する概念である。

ベースとなるフレームは車いすや木製の椅子などさまざまだが、クッションやバックレストを変更して身体バランスの改善、筋緊張の軽減、座圧の減少などによって褥瘡(じょくそう=床ずれ)のような2次障害を防止し、快適さを追求していくことで、長時間の座(=生活の基礎姿勢)を維持する。


注釈

  1. ^ ここでいう一般的なものとはJIS規格(規格番号JIS T 9201)で定められている「手動車いす」のことで、車いす型式分類における「自走用標準型車いす」や「介助用標準型車いす」などのこと
  2. ^ JIS規格(JIS T 9203)で定められているもの
  3. ^ JIS規格(JIS T 9208)では「ハンドル形電動車いす」と呼ばれる。

出典

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