汚い戦争
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/18 14:50 UTC 版)
歴史
「汚い戦争」の始まりについてははっきりしない。1975年にキューバなどからの支援を受けた共産主義ゲリラの人民革命軍(Ejército Revolucionario del Pueblo(ERP))に対して、トゥクマン州を舞台に行われたアルゼンチン軍の弾圧が発端であるとする意見もある。
人民革命軍(ERP)はアルゼンチン国内でも特に貧しい山岳地帯であるトゥクマン州を「革命の本拠地」にしようと試み、州の3分の1を支配下に置いていた。ERPに呼応し、アルゼンチンのゲリラ組織「モントネーロス」も都市部におけるテロを繰り返していた。イサベル・ペロン大統領は「殲滅指令」を布告、「トゥクマン州における破壊分子を殲滅するために軍は全ての必要な手段をとる」よう命じた。軍は独立作戦 (Operativo Independencia) を実行し、特殊部隊を含めた歩兵と空軍を動員、ゲリラとの戦闘を開始し、その過程でゲリラの支配下にある町を破壊し住民に危害を加えた。
1975年9月、イザベル・ペロン大統領が病気療養のために一時的に職を離れると、イタロ・ルデール(スペイン語版)が大統領代行となった。翌10月、フォルモサ州の歩兵連隊宿舎が「モントネーロス」に攻撃され(Operation Primicia)、28人の死者がでた。ルデールは国内治安協議委員会を設立し、トゥクマン州で行われていたゲリラ鎮圧作戦を国内全体に拡大させることを決定した。国内は5つの軍管区さらにその下位地区に分けられ、それぞれの地域の治安を軍の司令官が実質的に掌握した。右派民兵組織であるアルゼンチン反共同盟も加わり、軍の弾圧とそれに対するゲリラ攻撃が繰り返された。
1976年3月24日に軍の高官によるクーデターが発生した。陸軍のホルヘ・ラファエル・ビデラ、海軍のエミリオ・エドゥアルド・マッセラ、空軍のオルランド・ラモン・アゴスティが権力を掌握した。
軍事独裁政権は自らを「国家再編成プロセス (Proceso de Reorganización Nacional)」 と称し、ビデラとその後の指導者であるロベルト・ビオラ、レオポルド・ガルチェリ、レイナルド・ビニョーネらによる各政権が多くのリベラル派のペロニスタや左翼と見なされた反体制派市民に対する違法な逮捕、拷問、殺害、強制拉致等の様々な弾圧を行なった。特に悪名高いのが「死のフライト」と呼ばれる政治犯を生きたまま空中の飛行機から海や川に突き落とすというものであった[2]。左右両派に対する批判者であった平和運動家アドルフォ・ペレス・エスキベルは、1977年に逮捕され拷問を受けたが、1980年にノーベル平和賞を受賞した[3]。
その後、フォークランド戦争の敗北により軍部の威信は失墜し、政権維持はもはや不可能であることが明らかになった。1983年10月30日に総選挙が行われ、軍政の処理を行なったラウル・アルフォンシンが当選した。
注釈
- ^ その後これらの不法活動が暴露され、フリーメイソンから破門された。
出典
- ^ 幡谷則子「ラテンアメリカの民衆社会運動 ; 抵抗 要求行動から市民運動へ」(PDF)『開発と社会運動 ; 先行研究の検討』第6巻、アジア経済研究所、2007年、139頁、CRID 1572824500604761600。
- ^ 多数の政治犯を生きたまま海に突き落とす、70年代独裁政権「死のフライト」機をアルゼンチンに返還(字幕・25日)ロイター 2023年6月26日
- ^ “汚い戦争とは?”. コトバンク. 2023年7月6日閲覧。
- ^ “軍事独裁下で赤ん坊を奪った罪で元大統領に禁錮50年、アルゼンチン”. CNN News. CNN (2012年7月6日). 2012年7月7日閲覧。
- ^ a b c Goni, Uki (2013年3月14日). “Pope Francis: questions remain over his role during Argentina's dictatorship”. The Guardian 2013年3月19日閲覧。
- ^ a b c Macintyre, Ben (2013年3月18日). “Pope must clean himself of history's stain”. The Australian 2013年3月19日閲覧。
- ^ Gamerro, Carlos (2013年3月15日). “Pope Francis, the Disappeared, and the Questions That Won’t Vanish”. Wall Street Journal 2013年3月19日閲覧。
- ^ BARRIONUEVO, ALEXEI (2007年9月17日). “Argentine Church Faces ‘Dirty War’ Past”. New York Times 2013年3月19日閲覧。
- ^ Romero, Simon (2013年3月17日). “Starting a Papacy, Amid Echoes of a ‘Dirty War’”. New York Times 2013年3月19日閲覧。
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