戦車砲 戦車砲の概要

戦車砲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/24 06:52 UTC 版)

44口径120mm滑腔砲の略図

戦車砲

戦車の誕生以来、現在に至るまで、その主要な武器火器である[3]。当初は機関銃榴弾砲が主流であったが、後に高初速の対戦車砲も用いられるようになった[4]

対戦車戦における装甲貫徹力の増大のため、当初は高初速化よりは口径砲弾の重量・寸法)の増大が重視されていたが、第二次世界大戦頃から長砲身・高初速化が重視されるようになった[5]。また歩兵支援も考慮すると、砲身の長さとともに、口径の大きさも依然として重要であった[3]。しかし長砲身・大口径を両立する砲は重量が重く、また駐退復座機など機構も複雑となり、戦車に搭載することは難しかったため、初期には任務ごとの戦車が作られた[3]。その後、大戦中期より戦車用の長砲身・大口径砲が登場したことで、一種類の戦車で様々な任務をこなせるようになり、主力戦車へと発展していった[3]

大戦後も、自緊処理 (Autofrettageなど技術的な改良が進められるとともに、長砲身砲が多く製作された[6]。このような高初速・長砲身砲では、射撃時に発生する熱や冷たい風、雨などによって生じる砲身の曲がり(ベンディング)が問題になりやすく、イギリスセンチュリオンでは砲身に被筒 (Thermal sleeveを装着することで直射日光や風雨からの保護を図った[7]。またセンチュリオンのオードナンス QF 20ポンド砲では、車内への発射煙の侵入を抑えるための排煙器も採用されており、これらはいずれも他国でも導入された[7]

一方、長砲身・大口径化に伴って反動が増大したことから、大戦末期より砲口制退器の装備が一般的になっていたが、駐退復座機の性能向上に伴って、1970年代頃からはあまり用いられなくなった[8]。また、従来の戦車砲はほぼ全てがライフル砲であったが、下記のように弾体を旋動させる必要がない砲弾が登場すると、特に主力戦車では滑腔砲が主流になっていった[8]。また、上記の砲身の曲がりは射撃精度において重大な問題であることから、後には砲口に設置したミラーに向けて砲身の基部からレーザーを照射し、その反射によって砲身の曲がりの程度を検知する砲口照合装置が開発されており、例えば日本では44口径120mm滑腔砲とともに90式戦車より導入された[9]

戦車砲弾

戦車砲の砲弾としては、それ自身の運動エネルギーによる破壊を目的とした実体弾(運動エネルギー弾)と、内部に炸薬などを詰めて爆発による破壊効果を狙う中空弾がある[3]

運動エネルギー弾については、上記のように高初速化が重視されるようになったのに伴って、1940年代初頭より、初速を向上させるための軽量・減口径弾の開発が盛んになっており、1944年には装弾筒付徹甲弾(APDS)が登場した[5]。またこれと並行して、成形炸薬弾(HEAT)を端緒とする対戦車榴弾(化学エネルギー弾)も登場した[5]

HEAT弾や粘着榴弾(HESH)といった化学エネルギー弾は、貫徹力が射距離に左右されないというメリットがある一方、ライフリングによって高回転数の旋動を与えられると貫徹力が大きく低下するという特性があり、ライフル砲から発射する場合、スリッピングバンドやベアリングなどによって弾体の旋動を抑える必要がある[6]。また運動エネルギー弾についても、L/D化が4以上になると旋動による弾道安定が難しくなるために翼安定式の砲弾(APFSDS)への移行が進むこととなったが[10][注 2]、これも弾体の旋動を抑える必要がある[6]


注釈

  1. ^ J型最後期仕様だが、復元車両のため、車台は前期仕様。ソミュール戦車博物館の展示品。
  2. ^ 運動エネルギー弾の貫徹力は単位面積あたりの質量に比例することから、長さ(L)と径(D)の比であるL/Dを大きくすることが望ましい[10]
  3. ^ 手前がAPFSDS弾、奥がHEAT弾。

出典

  1. ^ 防衛省 1992, p. 32.
  2. ^ 弾道学研究会 2012, p. 848.
  3. ^ a b c d e 樋口 2010.
  4. ^ Macksey 1984, p. 98.
  5. ^ a b c Macksey 1984, pp. 181–183.
  6. ^ a b c Macksey 1984, pp. 262–265.
  7. ^ a b Macksey 1984, pp. 270–274.
  8. ^ a b ワールドフォトプレス 1985, pp. 75–83.
  9. ^ 武若 2022.
  10. ^ a b 岡埜 1988.


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