外積代数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/01 07:18 UTC 版)
双対性
交代作用素
2 つのベクトル空間 V, X に対し、Vk から X への交代作用素 (alternating operator) あるいは反対称作用素 (anti-symmetric operator) とは多重線型写像
- f: Vk → X
であって、v1, …, vk が線型従属なベクトルならば
- f (v1, …, vk) = 0
を常に満たすもののことである。最も有名な例は行列式でこれは (Kn)n から K への交代作用素である。また、V の k 個のベクトルにその楔積となる k-重ベクトルを対応させる写像
- w: Vk → ⋀k (V)
も交代的である。事実として、この写像は Vk 上定義される交代作用素の中で「もっとも一般」なものである。つまり、交代作用素 f: Vk → X が与えられたとき、線型写像 φ: ⋀k(V) → X で f = φ ∘ w を満たすものが唯一つ存在する。この普遍性により ⋀k(V) を特徴づけられる。この普遍性を ⋀k(V) の定義とすることもある。
重線型交代形式
上記の特別の場合として X = K を基礎体とするとき、交代重線型写像
- f: Vk → K
は重線型交代形式と呼ばれる。重線型交代形式の全体の成す集合は、それらの和もスカラー倍も再び交代性を持つから、ベクトル空間を成す。 外冪の普遍性により、V 上の次数 k の交代形式の空間は双対空間 (⋀kV)∗ と自然同型である。V が有限次元なら後者は ⋀k(V∗) に自然同型である。特に Vk から K への反対称写像全体の成す空間の次元は n から k を選ぶ二項係数に等しい。
この同一視の元、楔積は具体的な形で 2 つの反対称写像から別の反対称写像を導く。ω: Vk → K と η: Vm → K を 2 つの反対称写像とする。重線型写像のテンソル積の場合と同様に楔積における変数の個数はそれぞれの写像の変数の個数の和になる。楔積は次のように
と定義される。ここで重線型写像の交代化作用 "Alt" は変数の置換全体を亘る符号付平均
で定義される。この楔積の定義は、K が有限標数をもてば矛盾無く定まる。上記と同値で階乗を使わないものとして
を考えることもできる。ここで Shk,m ⊂ Sk+m は (k, m)-シャッフル全体の成す部分集合である。(k, m)-シャッフルは {1, 2, …, k + m} の置換 σ であって、σ(1) < σ(2) < … < σ(k) かつ σ(k + 1) < σ(k + 2) < … < σ(k + m) なるものを言う[注 4]。
双代数構造
正確に言えば、次数付き代数 ⋀(V) の次数付き双対と V 上の重線型交代形式全体の空間の間に対応が存在する。上で定義した重線型代数の楔積は ⋀(V) 上に定義され、余代数の構造を定める余積の双対である。
この余積 (coproduct) は線型写像 Δ: ⋀(V) → ⋀(V) ⊗ ⋀(V) であって、分解可能な元の上では
によって与えられる。例えば
のようである。これを線型に拡張して外積代数全体で定義される演算を得る。余積の言葉で言えば、双対空間上の楔積はちょうど余積の次数つき双対
である。ここで右辺におけるテンソル積は線型写像としてのそれである(両立しない斉次次数の元については 0 で拡張する。もっとはっきり言えば α ∧ β = ε ∘ (α ⊗ β) ∘ Δ と定める。ここで ε は以下で定義する余単位射である)。
余単位射 (counit) は準同型 ε: ⋀(V ) → K で引数の 0-次成分を返すものである。余積および余単位射は楔積とともに外積代数に双代数の構造を定める。
内部積
V は有限次元とし、V∗ を V の双対空間とする。任意の α ∈ V∗ に対し、代数 ⋀(V) 上の反微分
が定義できる。この微分を α に関する内積あるいは内部積 (interior product) と呼ぶ。挿入作用素 (insertion operator) や α による縮約 (contraction) などということもある。
w ∈ ⋀k(V) とすると、w は V∗ から R への重線型写像であるから、k-重直積 V∗ × V∗ × ⋯ × V∗ における値によって定まる。V∗ の k − 1 個の元 u1, u2, …, uk−1 に対し、
が定義される。加えて、f が純スカラー(つまり、⋀0(V ) の元)であるときには iαf = 0 とする。
公理的特徴づけと性質
内部積は以下の性質
- 任意の k と任意の α ∈ V∗ についてである(規約により ⋀−1(V) = 0 とする)。
- v が V (= ⋀1(V)) の元ならば iαv = α (v) とする。
- 任意の α ∈ V∗ に対し、iα は次数 -1 の次数つき微分である。
を満足する。事実として、これら 3 つの性質は、内部積を特徴付けるのに十分で、一般の無限次元の場合においても内部積を同様に定義する。内部積のほかの性質としては
が挙げられる。
ホッジ双対性
V を有限 n-次元とすると、内部積はベクトル空間の自然な同型
を誘導する。幾何学的な設定で、(一次元ベクトル空間である)最高次外冪 ⋀n(V) のゼロでない元はしばしば体積要素と(あるいは多少紛らわしい用語だが orientation form とも)呼ばれる。体積要素 σ に関して上記の同型は
によって明示的に与えられる。体積要素に加えて、ベクトル空間 V が V と V∗ を同一視する内積を備えているならば、得られる同型
はホッジ双対、あるいは一般にはホッジ ∗-作用素と呼ばれる。∗-作用素とそれ自身の合成写像 ⋀k(V) → ⋀k(V) は常に恒等写像のスカラー倍である。ほとんどの応用においては、体積形式はそれが V のある正規直交基底の楔積であるという意味で内積と両立する。この場合は
になっている。ここで I は恒等写像で、内積は計量符号数 (p , q) (プラスが p 個、マイナスが q 個)を持つ。
注釈
- ^ Grassmann (1844) では拡大された代数 (extended algebra) として導入されている (cf. Clifford 1878)。おそらく現代的な線型代数学において定義されるところの outer product との区別のために、グラスマンは彼の定義した(今日では便利に外積 (exterior product) と呼ばれる)積 (produkt) を指し示すだけのために äußere(逐語訳すれば外の (outer) あるいは外部の(exterior))という言葉を用いた。
- ^ 注意すべきは、多元環 ⋀(V) の任意の元に対して成立が要請される結合性や双線型性とは異なり、ここに挙げられる 3 つの条件は、この多元環の部分空間である V 上でのみ制約として課せられているということである。ここで条件 (1) と条件 (3) は同値であり、条件 (1) と条件 (2) は K の標数が 2 でない限り同値である。
- ^ これは標準的な定義の一つ。See, for instance, MacLane & Birkhoff (1999).
- ^ 慣習的に、特に物理学では、楔積を
- ^ 主張のうち ⋀ が全射を全射に写すという部分はより一般に V と W が環上の加群である場合にも成り立つ。See Bourbaki (1989, Proposition 3, III.7.2).
- ^ このことは V と W が可換環上の射影加群である場合にのみ一般化できる。そうでない場合には ⋀ が単射を単射に写すことが一般には期待できない。See Bourbaki (1989, Corollary to Proposition 12, III.7.9).
- ^ このようなフィルトレーションはベクトル束や可換環上の射影加群についても取れる。これはしたがって、上述の直和に対する結果よりもっと一般的な結果である。実際、他のアーベル圏では必ずしも短完全列が分裂するとは限らない。
- ^ カネンバーグはグラスマンの仕事の英訳 (Kannenberg 2000) において Ausdehnungslehre を Extension Theory と訳している。
- ^ かつてはこの計算についてさまざまな呼び方が成されており、calculus of extension (Whitehead 1898; Forder 1941) とか extensive algebra (Clifford 1878) とか、近いところでは extended vector algebra (Browne 2007) などがある。
出典
- ^ この面積の公理化はレオポルト・クロネッカーとカール・ワイエルシュトラスによる; see Bourbaki (1989, Historical Note)。近代的な取り扱いについては、see MacLane & Birkhoff (1999, Theorem IX.2.2)。初等的な取り扱いについては、see Strang (1993, Chapter 5)。
- ^ このことのもっと一般な証明はたとえば Bourbaki (1989) に見ることができる。
- ^ See Sternberg (1964, §III.6).
- ^ Bourbaki (1989, III.7.1) および MacLane & Birkhoff (1999, Theorem XVI.6.8) を見よ。一般の普遍性に基づくより詳細な議論は MacLane & Birkhoff (1999, Chapter VI) およびブルバキの著作の至る所で見ることができる。
- ^ See Bourbaki (1989, III.7.5) for generalizations.
- ^ J. Itard (1970-1990). Biography in Dictionary of Scientific Biography. New York.
- ^ Bourbaki 1989, p. 661
外積代数と同じ種類の言葉
- 外積代数のページへのリンク