塔 近現代の塔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/26 19:36 UTC 版)

近現代の塔

近現代の塔は宗教塔や記念塔を除いて実用的な目的を帯びるようになった[12]。塔はその目的により、展望塔、監視塔、管制塔、広告塔、照明塔、通信塔、無線塔、テレビ塔、給水塔、吸気塔、排気塔、冷却塔、送電鉄塔、煙突など特定の限定された機能をもつものが多くなった[12]

しかし、エッフェル塔のように塔の存在は象徴的な意味を持ったり、さらに象徴性が増幅された例が多くみられる[12]

様式

19世紀に入るとイギリス発でゴシック・リヴァイヴァル運動が興り、そびえ立つ塔もまた見直される時代となった。とはいえ、従来のような鐘塔ではなく、近代的合理性の象徴とも呼ぶべき時計塔がそれに取って代わり置かれるようになった。

イギリス国会議事堂(1847- 1860年完成)
向かって右がビッグ・ベン、左がヴィクトリアタワー
サグラダ・ファミリア(1882年 - ) アントニ・ガウディ
アインシュタイン塔
(1920- 1924年)
エーリヒ・メンデルゾーン設計

1836年に再建が始まったイギリス国会議事堂(ウェストミンスター宮殿)には、高さ97mのビッグ・ベンで知られる時計塔、および、110mの高さを持つヴィクトリアタワーが設置された。

アメリカ合衆国では、19世紀から20世紀にかけて各都市にゴシック様式による教会が相次いで建築された。 これらの教会には高い塔が併設された。

カナダ国会議事堂(1865- 1927年の作) 火災の後に再建
建設中のエッフェル塔
(1889年完成)

ゴシック・リヴァイヴァルをよく表現している例として、カナダのオタワにあるカナダ国会議事堂(1865年~1927年)がある。 この建物は、一度火災により全てを失ったが、その後再建。中央にある塔の高さは約92mである。

アントニ・ガウディの代表作であるサグラダ・ファミリア(1882年 - )は、当初、東に「生誕の門」、西「受難の門」、 南に「栄光の門」の3つのファサードにそれぞれ4つの尖塔、計12の塔を持たせる計画であった。 現在完成しているのは「生誕の門」で、塔の高さは92mである[9]

技術

近代の塔の出現は産業革命による新しい製鉄法と新しい架橋技術がなければ訪れなかっただろうといわれている[12]

近代になって建築に取り入れられるようになった素材、すなわちガラスコンクリートは、塔にも新しいスタイルを与えた。

土木分野の技術革新では橋のほうが先行しており、架橋技術は18世紀末に鋳鉄アーチ橋が各地に建設されるようになるとライズ(アーチの頂点からアーチの両端を結ぶ鉛直距離)の大きい組積アーチの歴史は終焉を迎えた[12]。しかし、鋳鉄はもろく引っ張りに弱いためトラス橋の落橋事故が相次いで発生した[12]。真の鉄橋の時代は錬鉄が生産されるようになってから本格化し、メナイ吊橋やブリタニア橋などの建設での鉄の材料試験や箱桁の模型実験などが行われた[13]。さらに1851年の大英博覧会では鋳鉄トラス構造物の「クリスタルパレス」が発表され建築分野に本格的に鉄の時代が到来した[14]。1860年にベッセマーが転炉法を発明すると良質の鋼材が大量生産されるようになり、製鉄法や架橋技術の進歩とともに記念塔の構想が次々に発表されるようになった[14]

エッフェル塔(1889年)は、鉄骨による300m[注釈 5][9]の塔としてフランスのパリ市内に建設された。 この塔は第4回万国博覧会のモニュメントも兼ねて設計されたが、パリの美観を損ねるとして建設当初は不評であり、パリの芸術家から抗議がなされた。 しかし、時代を経るごとにパリのランドマークとして認知されるようになっていった。

エーリヒ・メンデルゾーンの処女作で、ドイツの表現主義の特徴を色濃く出したドイツのポツダムにあるアインシュタイン塔(1920- 1924年)がある。 この塔は文字通り相対性理論を実測検証のための施設で、鉄筋コンクリート造に見えるが構造はレンガ造である。

ドイツのダルムシュタットに建てられたヨゼフ・マリア・オルブリッヒ設計のルートヴィヒ大公結婚記念塔(1908年)も、頂部に手をイメージした丸い屋根を持つ特異な形状をしている。

オーギュスト・ペレの作であるフランスのデュ・ランシーのノートルダム教会(1924年)も鉄筋コンクリート製。 コンクリート剥き出しの塔が特徴的である。

クライスラー・ビルディング(1928- 1930年) 完成後に世界一を奪還するため、36mの尖塔を追加した。

20世紀以降

20世紀初頭の塔の建築には技術的に注目される提案がある一方で荒唐無稽な計画案もみられた混乱の時期といわれている[15]

19世紀末に発明されていたエレベーターは、高層建築の居住性を大幅に改善した。 1900年代に入ってニューヨークでは、第一次世界大戦による好景気で高層ビルの建築ラッシュが訪れた。 その嚆矢(こうし)となったのは、キャス・ギルバート設計のウールワースビル(1913年)である[16]。 先述したイタリアのサン・ジミニャーノと同様、ここでもまた、相次いで世界一の高さを目指す競争が発生し、摩天楼skyscraper)が出現した。

クライスラー・ビルディング(1928- 1930年)は、高さ283mでアメリカのアールデコ様式の完成形として評価された。 しかし、ビル完成直後にウォールタワーに世界一の高さを奪われた。 このため、36mの尖塔を追加してその座を奪還した。 世界恐慌の発生により、エンパイア・ステート・ビルディング(1930年)の完成をもって摩天楼の高さ競争は終止符が打たれた。

ソビエト連邦においてもまた、高さへ強調を試みる権威的な建築様式が発生している。 第二次世界大戦を前後して興ったソ連のゴシック・リヴァイヴァルは、スターリン様式(スターリン・ゴシック様式)とも呼ばれた。 1930年代から計画されていたソビエト宮殿は高さ415mでエンパイア・ステート・ビルディングを抜いて世界一になることを目指していた。 この宮殿を中心に、周囲にセブンシスターズと呼ばれる高層ビルを配置した都市設計が行われた。

ソビエト宮殿の建築は見送られたが、周囲の高層ビルは予定通り建設された。 これらのビルは高さを強調するように最上部に尖塔が設けられた。 モスクワ大学本館(1953年)とホテル・レニングラード(1953年)が代表的である。

20世紀にはRC構造のコンクリートの塔も実用化された[17]

第二次世界大戦後、1970年代ワールドトレードセンター・ビル(世界貿易センター・ビル)、シアーズ・タワー(現ウィリス・タワー)など、アメリカ以外でも世界各国に超高層ビルの建築ラッシュとなった。

1990年代以降は、東南アジア中国などで超高層ビルの建築が活発化している。


注釈

  1. ^ ただし、天守を英訳するときに tower をあてることがある。
  2. ^ 仮名転写はあくまで便宜上の表記であり、正確なものではない。以下同様。
  3. ^ 須達多(しゅだった)、須達(しゅだつ、すだつ)。常に孤独な者や貧しい者に慈善を施したため、「給孤独(ぎっ-こどく)長者」と尊称される。
  4. ^ 1970年日本万国博覧会においてこの塔は、古河パビリオン(鉄筋コンクリート製)として再現されている。
  5. ^ 後に324.0m

出典

  1. ^ a b c d 中村元編 『仏教語源散策』(第1版) 東京書籍、1977年、218-221頁(松本照敬著) :tupa の関連。塚の関連。初期仏教における塔についての記述。中国での仏塔の興り。
  2. ^ tower - Online Etymology Dictionary
  3. ^ a b c d 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、188頁。 
  4. ^ a b c d e f g h 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、50頁。 
  5. ^ a b c d e f 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、51頁。 
  6. ^ a b c 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、52頁。 
  7. ^ Claridge, Amanda 1998 Rome: An Oxford Archaeological Guide
  8. ^ a b c d e f g h i j k 堀越 宏一 「戦争の技術と社会」3.城と天守塔, 〜 15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史 ISBN 978-4-623-06459-5
  9. ^ a b c d 長さの比較資料:1 E2 m
  10. ^ cf. 律宗#日本の律宗
  11. ^ cf. 京都相国寺 - 日本の塔婆
  12. ^ a b c d e f 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、192頁。 
  13. ^ 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、192-193頁。 
  14. ^ a b 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、193頁。 
  15. ^ 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、194頁。 
  16. ^ Study for Woolworth Building, New York”. World Digital Library (1910年12月10日). 2013年7月25日閲覧。
  17. ^ 坪井善昭ほか『“広さ”“長さ”“高さ”の構造デザイン』建築技術、2007年、195頁。 






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