ユーカリ 利用

ユーカリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 08:46 UTC 版)

利用

オーストラリア先住民アボリジニ)は傷を癒すのに葉を利用した。葉から取れる精油は殺菌作用や抗炎症作用、鎮痛・鎮静作用があるとされ、医薬品やアロマテラピーなどに用いられる。また、健康等としても利用される。ただし、ハーブや精油としての利用は、サプリメント薬物との相互作用の懸念があると考えられている[37]

日本でも鑑賞用などとして栽培・出荷する農家が増えている。ユーカリの近くに植えた他の農作物で鳥獣の食害が減る効果もあり、ユーカリが放つ独特の香りが作用している可能性もある[38]。ユーカリは用土の乾燥を好む品種が多く、日本で良く見かける品種のほとんどが湿地帯に生息する湿潤を好む品種である。

初期成長が早いことが注目され、人工林の樹種として利用されてきた。ブラジルでは、植栽してから6年-7年で製紙用のパルプとして収穫が生産が可能であり、ユーカリの大規模な植林地が造られている[39]

パルプ原料

ローズガム(ユーカリプタス・グランディス)

ユーカリはオーストラリアの原産で、森の木の4分の3がユーカリと言われる。近年、ローズガム (Eucalyptus grandis) を中心に製紙パルプ用のチップ生産に使われ輸出もされているが、これによってユーカリの森林破壊が進み、有袋類の生息環境が危機にさらされている。

中華人民共和国広東省広西チワン族自治区海南省などでも、製紙用原料として広く植樹が行われている。ブラジルでは、ミナスジェライス州に本社を持つパルプ製造会社セニブラ社が10万ha以上の自社林にユーカリを植栽し、7年サイクルで伐採を行い自社製品の原料としている。

精油

ユーカリプタス・ラディアータ

サウザンブルーガムことユーカリプタス・グロブルス英語版から抽出されたユーカリ油英語版は、イギリスで医薬品として認証されており、気道のカタル性炎症(内服、外用)やリウマチの諸症状(外用)に利用される[40]。分泌腺の機能亢進、去痰、おだやかな鎮痙効果・局所的充血作用などの効能があり、のど飴や吸入剤、塗布剤、軟膏、消毒薬などに用いられる。咳を静め痰を減らす効果があるとして、気管支炎インフルエンザなどの時に、吸入などの方法で利用されることもある。

香料としても歯磨きや菓子などに調合されている。また、防腐効果が見られる。

ユーカリ油に含まれる成分はシネオールピネンシトロネラール、など。市販されるユーカリプタス・グロブルス、ユーカリプタス・ラディアータ英語版精油は非常に安価であるため、合成成分の添加などの偽和はほとんど行われない[40]。ユーカリプタス・グロブルス、ユーカリプタス・ラディアータ以外のユーカリ属の精油は、毒物学的な試験は行われていない[40]

禁忌・中毒

ヒトに外用に用いた場合、一般に毒性・感作性・光毒性はないとされるが、外用した場合に精油成分が呼吸器から吸収される可能性がある。内服や蒸気発生装置などでの利用で中毒が見られ、内服で複数の致死例が報告されている[40]喘息患者の気管支炎を悪化させる可能性がある。特に乳幼児への使用は危険であり、近くでの使用も避けるべきである。アメリカのメリーランド大学のMedical Centerは、6歳未満の幼児に精油を含むのど飴を与えたり、吸入させたり、顔の近くで精油を含む製品を使うこと、また大人が精油を内服するなどは、行うべきでないとして注意を促している[37]。ユーカリは精油・ハーブ共に医師の指導の下で使用すべきであり、特に喘息脳卒中肝臓病腎臓病低血圧、妊娠中、授乳中の人、抗がん剤フルオロウラシルを使用中の人は、医師や植物医学分野の有資格者に相談することなく使用しないよう警告している[37]

緑化

アルカリ性土壌でも強く育つため、土壌がアルカリ性になっている乾燥地帯の緑化に使われることが多い。また、土壌をアルカリ性から酸性へと移行する。そのため、酸性の土壌に育てた場合、土壌の酸性が強くなりすぎる場合がある。

コアラの食料

ユーカリを食べるコアラ

ユーカリはコアラの食料として知られる。コアラが食べるユーカリの種類は限られており[41]、新芽のみをエサとする。600種類以上あるユーカリのうち、コアラが食べるのは40種類ほど。それぞれのコアラが食べるのは、生育する地方に生える14種類ほどである[42][43](参照: コアラ#コアラが好むユーカリの種類について)。

木材

ユーカリのなかには木材としての利用価値のあるものが存在する。オーストラリアでは主要な材木であるという関係上、既に述べたパルプのほか建築用から燃料用に至るまで様々な用途に用いられている[4]。材質は樹種により軽軟-重硬、淡色-濃色と多様であるが、気乾比重0.65-1.10程度で重さが中庸-重硬のものが多い[4]。用いられる樹種の例としてはカリー(Eucalyptus diversicolor; 心材: 帯赤褐色、気乾比重: 0.88)、ジャラ(Eucalyptus marginata; 心材: 暗赤褐色、平均気乾比重: 0.82)、セイタカユーカリ(Eucalyptus regnans; 気乾比重: 0.62)といったものが挙げられる[26]


注釈

  1. ^ その標本はロンドン自然史博物館に所蔵されている(BM000081839)。

出典

  1. ^ a b Eucalyptus Tropicos
  2. ^ 松山亮蔵「ゆーかり」『植物界之智嚢』中興館書店〈新国民理学叢書 ; 第1編〉、1926年、223頁。NDLJP:979066 
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  4. ^ a b c d e f g h 緒方 (2000).
  5. ^ a b 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 123
  6. ^ 自然発火の仕組み | みんなのひろば | 日本植物生理学会
  7. ^ a b すごい自然のショールーム 火事と共に生きるユーカリ ネイチャーテック研究会, 東北大学大学院 環境科学研究科
  8. ^ a b c d 貴島, 岡本 & 林 (1977).
  9. ^ Flora of Australia 19: 511 (1988)
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  41. ^ 母親コアラの食性に準ずる
  42. ^ ユーカリのうた:コアラ来日25周年 毎日新聞 2009年10月21日 地方版
  43. ^ コアラの飼育 油家謙二 天王寺動物園





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