スラヴ神話 スラヴ神話の概要

スラヴ神話

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/04 18:52 UTC 版)

ズブルチの偶像の世界の構造。以下に、地球を保持している3つのクトニオスの神々が描かれている。


概要

スラヴ民族は文字を持たなかったため、伝えられた神話を民族独自に記録した資料は存在しない[2]。スラヴ神話が存在した事を記す資料として、9世紀から12世紀の間に行われたキリスト教改宗弾圧の際の「キリスト教」の立場から記された断片的な異教信仰を示す内容の記述が残るのみである[1]

スラヴ神話は地方により様々なバリエーションがあった[1]ことが近年の研究により明らかになっている。

スラヴ神話の神々

東スラヴの神々

キエフ・ルーシでもっとも古い年代記である『原初年代記(過ぎし年月の物語)』には、東スラヴで信仰されていた神々に関する記述がある。それによれば、980年頃、ヴラジーミルが宮殿近くの丘に下記の6柱の神々の像を設置させたという[3]

以下に、除村吉太郎訳の『原初年代記』の記述を引用する。

しかしてヴラヂミルは一人でキエフに君臨し始め、テレムの邸(やしき)の外の丘の上に偶像を建てた。銀の頭と金の髭を有(も)つ木造のペルーン、ホルス、ダージヂボグ、ストリボーグ、セマルグラ及びミコーシを《建てた》。しかして彼等を神と呼んで、彼等に礼拝し、おのが息子達と娘達を伴い来り、悪鬼共に礼拝し、おのれの生贄(いけにえ)によって大地を穢(けが)した。しかして《生贄》の血によってルーシの地とかの丘が穢された。 — 《ヴラヂミルがキエフおよびノヴゴロドに偶像を立てる》[4]

他に、以下の神々も知られている。

おそらく、スラブ神話には、天体の擬人化された神々(ペルーン、ダジボーグ、モコシ)とクトニオスの神々の両方が存在していた。[14]

西スラヴの神々

西スラヴで信仰されていた主要な神々は、『スラヴ年代記』などの資料に十柱ほどが記録されている[15]。この地域では軍神が主に信仰されていた[16]

南スラヴの神々

南スラヴでは下記の神が知られている[17]

英雄の神格化

歴史上の英雄を神格化したと考えられている下記の神々も知られている[17]

民間信仰

10世紀にスラヴにおいてキリスト教への改宗が進められ、主要な神々(神格)への信仰が失われた。しかし下記のような「小神格(ディイ・ミノーレス)」については、キリスト教徒となったスラヴ人の生活の中に民間信仰として残ってきた[18]。これらは自然現象などに由来した精霊と考えられている[17]

さらに、下記のような存在は昔話にも登場する[17]

スラヴの民間伝承で特に有名なのは、吸血鬼(シチシガ英語版)と人狼(ヴィルコラク英語版)に関するものである[20]


  1. ^ 時代による信仰の変化があり、多様な説があって分かっていない部分があるが、ロードは出産、運命、一族、父祖などを司る男性的な神であり、ロジャニツァは地母神で、出産と運命を司る。初期はロジャニツァ単独だったが、中世以降は通常「ロードとロジャニツァ」と併記される双神となり、夫婦神と言われることもある。「ウプィリとベレグィニャ」崇拝が盛んだった時期から、ペルーン崇拝が盛んになる時代の間の時代に、「ロードとロジャニツァ」が盛んに崇拝され、先祖崇拝と関連し、ロードは最高神と言われることもある。ロジャニツァが出産を司り、ロードが人の誕生に際して魂を吹き込むとされる。豊饒多産の祈願の対象となる双神である[6][7][8][9][10][11][12]。ロード崇拝の中心地の一つがロデニであり、「ロデニ」の名前はロードにちなむものである[13]
  1. ^ a b c 坂内 2004 p. 400.
  2. ^ 伊東 2002, p. 51.
  3. ^ ワーナー 2004, pp. 7-8.
  4. ^ 除村 1943, p. 62.
  5. ^ 和田 1997, pp. 151-152.
  6. ^ Hubbs, Joanna (1993-09-22) (英語). Mother Russia: The Feminine Myth in Russian Culture. Indiana University Press. p. 15. ISBN 978-0-253-11578-2. https://books.google.com/books?id=fVQz3I4FCWUC&pg=PA15 
  7. ^ Kalik, Judith; Uchitel, Alexander (2018-07-11) (英語). Slavic Gods and Heroes. Routledge. pp. 20-21. ISBN 978-1-351-02868-4. https://books.google.co.jp/books?id=ZbJjDwAAQBAJ&pg=PT21 
  8. ^ Goscilo, Helena; Holmgren, Beth (1996) (英語). Russia--women--culture. Indiana University Press. p. 155. ISBN 978-0-253-21044-9. https://books.google.com/books?id=s-g2_mK1oicC&pg=PA155 
  9. ^ 三浦 清美「中世ロシアの異教信仰ロードとロジャニツァ:日本語増補改訂版(前編 資料)」『電気通信大学紀要』第17巻1-2、2005年1月31日、 73-96頁、 ISSN 0915-0935
  10. ^ 三浦 清美「中世ロシアの異教信仰ロードとロジャニツァ:日本語増補改訂版(後編 分析)」『電気通信大学紀要』第18巻1-2、2006年1月31日、 59-88頁、 ISSN 0915-0935
  11. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “スラブ神話”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年6月11日閲覧。
  12. ^ 世界大百科事典. “Rod”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年6月11日閲覧。
  13. ^ Миронов, Владимир; Голубев, Сергей (2022-05-15) (ロシア語). Русь между Югом, Востоком и Западом. Litres. p. 134. ISBN 978-5-4250-9669-2. https://books.google.co.jp/books?id=nQ6BAQAAQBAJ&pg=PT134 
  14. ^ このような解釈は、文献学者グリゴリー・グリンカ(ロシア語)によって初めて提案された。"ДРЕВНЯЯ РЕЛИГИЯ СЛАВЯН" (スラヴ人の古代宗教、ロシア語)を参照。 ミタヴァ1840年
  15. ^ 和田 1997, p. 152.
  16. ^ 伊東 2002 , p. 54.
  17. ^ a b c d e f 坂内 2004 p. 401.
  18. ^ アレグザンスキー 1993, p. 26.
  19. ^ アレグザンスキー 1993, pp. 19-20.
  20. ^ 伊東 2002 p. 58.


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