悟り
★1a.禅の悟りを開く。
『無門関』(慧開)7「趙州洗鉢」 新来の修行僧が、趙州和尚に教えを請う。趙州の「朝飯は済んだか」との問いに、修行僧は「済みました」と答える。「では、茶碗を洗っておけ」と趙州が言うと、修行僧はたちまち悟った。
『和漢三才図会』巻第66・大日本国「上野」 宝生禅師は日光山に入り、「大法を明らめない限り下山しない」と誓った。ある日、粥を煮ていると、偶然に粥の鍋が破れ裂け、そこで豁然と大悟した。彼は泉龍寺の開山となり、応永21年(1414)、72歳で没した。
『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる)「大リーグボール」 星飛雄馬は鎌倉の寺で参禅するが、姿勢が定まらず、何度も警策(けいさく)で打たれる。老僧が、「打たれまいとすれば、よけいに固くなってがたがたする。その若さで、どうしてそうしゃちこばりなさる」と笑う。飛雄馬は腹を立て、「打つなら打て」と開き直る。すると老僧は、「ほほう! 五体の力が抜け、いい姿勢になった」と褒める。その言葉をヒントに飛雄馬は、打たれぬように投げるのではなく、打たせて凡打にする大リーグボール1号を開発する。
★2.悟りを求める男。
『夢十夜』(夏目漱石)第2夜 「お前は侍だ。侍なら悟れぬはずはなかろう。いつまでも悟れぬところをもってみると、お前は侍ではあるまい。人間の屑じゃ」と和尚が言う。けしからん。置時計が次の時刻(とき)を打つまでに悟ってみせる。悟ったら短刀で和尚の首を討つ。悟れなければ自刃だ。「自分」は全伽を組んで無を念じた。忽然、時計がチーンと鳴り始める。はっとして右手を短刀にかけた。時計が2つ目をチーンと打った。
『門』(夏目漱石)18~21 野中宗助は、病欠届けを出して役所の勤務を10日ほど休み、鎌倉の寺にこもって座禅を組んだ。老師から「父母未生以前の本来の面目は何か」という公案を与えられ、懸命に考えて見解(けんげ)を呈したが、老師は「もっと、ぎろりとしたところを持って来なければだめだ。そのくらいなことは少し学問をしたものなら誰でも言える」と、はねつけた。宗助は、何も得るもののないまま東京へ帰った→〔門〕4。
『座禅物語』(三島由紀夫) 悟りを求める坊主が、仏陀の化身の老人から「山奥の燻銀(いぶしぎん)の蕈を食べれば、悟りが開ける」と教えられる。坊主は蕈を、日頃世話になっている村人たちにも分け与える。村人たちは先に蕈を食べて死に、それを見た坊主は悟りを得て聖人となった。聖人が可愛がり、「お前の子孫が栄えるように」と遺訓を授けた男児は、後に財産家になる。しかし孫の世代は水車小屋の主におちぶれた〔*三島由紀夫が13歳の時に、学習院の「輔仁会雑誌」に発表した短編〕。
★4.女が自らの本性を悟る。
『刺青』(谷崎潤一郎) 江戸の刺青(ほりもの)師・清吉は、理想的な肌を持つ16~17歳の美女に、殷の暴君紂王の寵妃・末喜(ばっき)の絵や、若い女が歓びの瞳で男たちの屍骸を見下ろす絵を見せる。「この絵にお前の心が映っている。これはお前の未来を現す絵だ」と言って、清吉は美女の背中に巨大な女郎蜘蛛を彫る。己れの本性を自覚した美女は態度も一変し、「私はもう、今までの臆病な心をさらりと捨ててしまいました。お前さんは真っ先に私の肥料(こやし)になったんだねえ」と清吉に言う。
『さとりの化け物』(昔話) 夜中に山小屋で爺が1人、火に当たっていると、何物かがやって来て、爺が心の中で考えることを、すべて言い当てる。爺は「これは悟りの化け物だな。しかたがない。火を焚いて当たらせよう」と思い、柴を折る。すると柴がはね飛んで、化け物の鼻柱を打つ。化け物は「人間は考えてもいないことをするから恐ろしい」と言って、逃げ去る(福島県南会津郡)。
★6.「さとりの化け物」とは逆に、自分の考えていることが、すべて他人に筒抜けになってしまう。
『サトラレ』(本広克行) 心の中で考えていることがすべて、半径10メートル以内にいる他人に伝わってしまう、という特異な人間がいて、「サトラレ」と呼ばれる。ただし「サトラレ」は、自分が「サトラレ」であることを知らない。「サトラレ」は現在日本に7名おり、全員、天才的知能の持ち主である。政府は、「サトラレ」たちが国益に叶う仕事に従事するよう期待しつつ、多くの人員を配置して彼らを保護する。
*心の中の思いが言葉として他人に知られてしまう『サトラレ』とは異なり、心の中に観じたイメージが他人の目にも見える、というのが→〔観法〕の物語である。
★7.仏陀の悟り。
『ユング自伝』9「旅」 インドを訪れた「私(ユング)」に、仏教の新しい側面が見えてきた。仏陀の生涯は、自己(セルフ)の実現であることがわかった。自己が個人の生涯に侵入して、権利を主張したのだ。自己は、存在そのものの側面と存在の認識される側面とを、包括している。自己なしに世界は存在しない。仏陀は、人間意識の宇宙進化論的な尊厳を見ており、もし誰かがこの意識の光を消滅し尽くすならば、世界は無に帰すことを、はっきりと観じていた。
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