思想上影響を受けた人物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 04:56 UTC 版)
「ロベルト・マンガベイラ・アンガー」の記事における「思想上影響を受けた人物」の解説
アンガーの学問スタイルは、知の専門分化に抗しながら、実在の全体像に迫ろうする哲学者のそれである。その思想は、「尖鋭化したプラグムマティズム(radicalized pragmatism)」として、あるいは、キリスト教的西洋思想をギリシャ哲学(アリストテレス哲学)の思考範疇から解放しようとする試みとして、理解することができる。時間論においてはベルグソン哲学との親和性を持ち、また、その著作の多くに暗に示されているよう、ヘーゲル哲学からの影響が色濃い。実際、歴史意識の原理を世界史的規模で包括的に理解しようとするヘーゲルの野心はアンガーを魅了してきた。しかしながら、アンガーの思想は、ヘーゲルのそれとは異なり、精神の決定論的な進化と最終的な安息の場所といった「偽の必然性」に囚われた観念を断固として拒絶するものである。 また、「世界に対する闘争(the struggle with the world)」の思想としてのロマン主義と実存主義の流れに棹さしつつも、このロマン主義と実存主義が有す、闘争のみが実存の本質的生き方であるとする思想ー「構造」と「ルーティン・反復」に対する(最終的には負けることを運命付けられた)闘争のみが、人間を十全な人間とするという思想—については、これを峻拒する。アンガーにとっての最重要課題は、構造に抵抗し続けることにではなく、人間をより「神的な」存在(人間としての能力が開花したより人間らしい存在)とすることができる構造を創造することにあるからである。ショーペンハウアーにも強く惹き付けられてきたが、それは彼が、アンガー自身が信じる思想—生と実在の至上性の全き肯定—とはまさに正反対の思想を語る思想家であるからだという。しばしば類似性が指摘されるのがニーチェであるが、その「超克」の思想は、私たちがどのような存在であるか・どのような存在になりうるかについて誤った方向性と理解を与えるものであるとアンガーは考えるゆえ、最終的には袂を分かつ。 アンガーの理論は、1960年代と70年代、すなわち、大学の教室で教えられている伝統的な社会理論と法理論を、社会的抗争と革命に調和させるべく若い知識人や急進主義者が苦闘している時代において形成されたものである。既存のマルクス主義の限界を乗り越えようとした当時の若い知識人たちは、レヴィ=ストロース、アントニオ・グラムシ、ユルゲン・ハーバーマス、ミシェル・フーコーのような思想家に目を向け、官僚主義的な政策的学問の対象として法と社会を狭く理解するのではなく、支配的な社会秩序を正当化する、より広範な信念体系の中にあるものとして理解しようとしたのであった。しかしながら、コミュニケーション合理性に基づく合意を達成するための理想的な手続きを策定しようとするハーバーマスとは異なり、アンガーは、手続きも含め、永久的に改革と再建に開かれた制度とその取り決めの中に解決策を探し出そうとする。そして、社会が構築されたものであることを強調する点はフーコーと重なるが、アンガーは、社会に抜け出しえない権力を見出すのではなく、人間の創造性を解き放ち、自由を可能にする制度や社会的条件を模索しようとしているという点に、特徴があるといえる。 以上の西洋哲学に加え、社会構造を知的探究の課題にすえたカール・マルクスを中心とする社会理論の古典、および、人間の経験と自己理解についての鋭い洞察に富む19・20世紀のヨーロッパ文学作品らもまたアンガーの知の源泉である。
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