建築基準法施行令の一部改正(政令第242号)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 22:45 UTC 版)
「千日デパート火災」の記事における「建築基準法施行令の一部改正(政令第242号)」の解説
1973年(昭和48年)8月23日、建築基準法施行令の一部を改正する政令が公布され(政令第242号・第13次改正)、1974年(昭和49年)1月1日に施行された。ただし第136条の改正規定は公布日から施行とされた。 本件千日デパート火災と1973年3月の北九州済生会病院火災においては、建築構造や防火避難設備などの建築基準法令の規制に問題があったことから、煙によって多数の死傷者を出すに至った。本政令改正のおもな要点は、煙対策と避難施設の規定に関して行われ、それらを強化する内容となった。改正のおもな内容を以下にまとめた。 防火区画に関する規定強化 常時閉鎖式防火戸の導入を規定し、防火区画における防火戸の常時閉鎖を原則とした(防火区画・第112条)。 耐火建築物等の防火区画に用いる甲種防火戸または乙種防火戸は、面積が3平方メートル以内で常時閉鎖状態を保持する防火戸で、直接手で開くことができ、かつ自動的に閉鎖するもの、またはその他の防火戸は以下の各号の構造にしなければならない、とされた。(ア)随時閉鎖することができること。(イ)居室から地上に通じているおもな廊下、階段、その他の通路に設ける防火戸は、当該戸に近接して当該通路に常時閉鎖式防火戸が設置されている場合には、従来の規定は適用されない、とした。(ウ)当規定による区画に用いる甲種防火戸および乙種防火戸にあっては、建設大臣の定める規定に従って、火災により煙が発生した場合または火災により急激に温度が上昇した場合のいずれかに自動的に閉鎖する構造にすること、とした。また建築基準法令の規定による区画に用いる甲種防火戸、または建築基準法令の規定による区画に用いる乙種防火戸にあっては、避難上および防火上支障のない遮煙性能を有する構造とすること、とした。従来においても防火戸は「随時閉鎖、手動開閉可能、火災による温度急上昇で自動閉鎖」の規定はあったが、煙が発生した場合に自動閉鎖すること、煙を遮蔽する性能を有する構造に関してまでは規定していなかった。本件火災では、プレイタウンに直結していた特別避難階段「B階段」出入口の扉2枚は、ドアチェックが装備されていなかったとみられ(随時閉鎖機能がない扉)、2人の脱出者がB階段を使用して脱出したあと、扉2枚が開け放たれた状態になっていた。その影響で7階フロアから煙がB階段に逆流し、消防隊の内部探査や救出活動に支障をきたした。 「防火戸#防火設備としての防火戸」も参照 「防火戸#特定防火設備としての防火戸」も参照 防火ダンパーの材質、性能などを具体的に規定した(防火区画・第112条の16)。 空調ダクトが耐火構造の防火区画を貫通する場合に設ける防火防煙ダンパーは、以下の場合に自動で閉鎖する構造にすること、とされた。(ア)火災により煙が発生した場合。(イ)火災によりダクト内が急激に温度上昇した場合。 防火防煙ダンパーの構造は、前記(ア)(イ)以外に以下の構造にすること、とされた。(ア)鉄製であること。また鉄板の厚みは1.5ミリ以上であること。(イ)ダンパーが閉鎖した場合に防火上支障のある隙間が生じないこと。(ウ)建設大臣がダンパーとしての機能を確保するために必要があると認めて定める基準に適合する構造とすること。従来も防火防煙ダンパーの設置は規定されていたが、その技術基準があいまいで「防火上有効にダンパーを設けること」としか規定されていなかった。本件火災では、プレイタウン事務所前の廊下に設置していた空調ダクト吸入口から大量の煙が流入したことで多数の死傷者を出すに至った。ダクト内には防火防煙ダンパーが3か所設置されていたにもかかわらず、いずれも作動しなかった。 2以上の直通階段設置を義務付ける用途の範囲を拡大 2方向避難の原則から2以上の直通階段を設ける場合の適用範囲を拡大した(2以上の直通階段を設ける場合・第121条)。建築物の避難階以外の階が以下の各号に該当する場合には、避難階または地上に通じる2以上の直通階段を設けなければならない、と定められた。 酒場やキャバレー、ナイトクラブなどの用途に使用する階(新設)。ただし、5階以下の階で居室の床面積が100平方メートルを超えず、避難バルコニーまたは屋外通路などがあり、避難階から地上に通じる規定の直通階段が設けられており、避難階の直上または直下の5階以下の階で床面積が100平方メートルを超えないものは除外される、とした。 病院または診療所に対する規定に対し、新たに児童福祉施設などを加えた。病院または診療所の用途に使われる階で、その階における病室の床面積の合計または児童福祉施設などの用途に使われ、その用途の居室面積の合計が50平方メートルを超えるもの、とした。 6階以上の階に居室がある場合。ただし、1から3に掲げた用途に使用する階以外で、その階の居室床面積の合計が100平方メートルを超えず、その階に有効な避難バルコニーまたは屋外通路などおよび既定の地上へ通じる直通階段が設けられているものは除く、とした。従来は「6階以上の階」とは規定されていなかった。 5階以下の階で居室の床面積の合計が直上階で200平方メートル、その他の階で100平方メートルを超えるもの。従来は「5階以下の階」とは規定されていなかった。 避難階段および特別避難階段の構造を強化した(避難階段および特別避難階段の構造・第123条)。(ア)屋内に設ける避難階段の階段に通じる出入口には、常時閉鎖式防火戸である甲種防火戸もしくは乙種防火戸、またはこれ以外の法令が規定する甲種または乙種防火戸を設置すること、また直接手で開くことができ、かつ自動的に閉鎖する戸および戸の部分が避難する方向に開くことができるものとすること、と定められた。(イ)特別避難階段の出入口に設ける甲種防火戸または乙種防火戸の構造は、屋内からバルコニーまたは附室に通じる出入口には規定の甲種防火戸を、バルコニーまたは附室から階段に通じる出入口にも同じ甲種防火戸をつけること、と定められた。 地下街の区画の規定(地下街・第128条の3) 地下街の各構造が他の地下街の各構造と接する場合は、耐火構造の床もしくは壁、または法令で規定する常時閉鎖防火戸である甲種防火戸で区画しなければならない、と定めた。 地下道においても前項と同じ構造で区画する、とした。また新たに防火戸の技術基準を高めた規定を適用した。 内装制限の強化 特殊建物に対する内装制限を強化した(特殊建築物等の内装・第129条)。特殊建築物の居室の壁および天井の室内に面する部分の内装仕上げは、3階以上で不燃材料または準不燃材料であること、と定められた。ただし、3階以上に居室を有しない建築物は従来どおり不燃材料、準不燃材料または難燃材にすることができるとした。従来は「3階以上の階」という規定がなかった。 なお以下の改正項目について当記事では省略した。木造等の建築物の防火壁(第113条)、共同住宅の住戸の床面積算定等(第123条の2)、非常用の昇降機の設置を必要としない建築物(第129条13の2)、敷地内の空地および敷地面積の規模(第136条)。
※この「建築基準法施行令の一部改正(政令第242号)」の解説は、「千日デパート火災」の解説の一部です。
「建築基準法施行令の一部改正(政令第242号)」を含む「千日デパート火災」の記事については、「千日デパート火災」の概要を参照ください。
- 建築基準法施行令の一部改正のページへのリンク