内部構造から考えられる起源
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 02:59 UTC 版)
水星には半径 1,800 km 程度の核が存在する。これは惑星半径の3/4に相当し、水星全体では質量の約 70 % が鉄やニッケル等の金属、30 % がケイ酸塩で出来ている。 平均密度 5,430 kg/m3は地球と比べわずかに小さい。核の比率が大きい割に密度がそれほど高くないのは、地球は自重によって惑星の体積が圧縮され密度が高くなるのに対し、小さな水星は圧縮される割合が低いためである。地球中心部の圧力は366万気圧に達するのに対し、水星中心部は約25から40万気圧にとどまる。しかし、天体の大きさと平均密度の相関関係では、水星は唯一他の地球型惑星が示す傾向から60%程度重い方向に外れている。自重による圧縮を除外して計算された平均密度は、水星が 5,300 kg/m3、地球が 4,000-4,100 kg/m3となり、水星のほうが有意に高い値をとる。 水星の体積は地球の 5.5 % に相当する。しかし地球の金属核は 17 % にすぎないのに対し、水星の金属核はその 42 % を占める。核は地球の内核と外核のように、固体と液体に分離していると見られている。2007年、電波観測によって水星の核に液体の部分が存在することを示す磁場が観測された。2019年には、メッセンジャーの観測データとモデル計算から、核の中心に直径2,000kmにも及ぶ固体の核が存在することが示された 核の周りは厚さ 600km 程度の岩石質マントルで覆われているが、これは他の岩石惑星と比べごく薄いためマントルの対流が小規模となり、惑星表面に特有の影響を及ぼした可能性が指摘されている。地殻は、マリナー10号の観測結果から厚さ 100-300km と推測されている。 水星は太陽系の他のどの天体よりも鉄の存在比が大きい。この高い金属存在量を説明するために、主に3つの理論が提唱されている。 1つ目は、水星は元々ありふれたコンドライト隕石と同程度の金属-珪酸塩比を持ち、その質量が現在よりも約2.25倍大きかったが、太陽系形成の初期に水星の 1/6 程度の質量を持つ原始惑星と衝突したために元々の地殻とマントルの大部分が吹き飛んで失われ、延性を持つ金属核は合体したために比率が高い現在の姿になったという理論である。これは地球の月の形成を説明するジャイアント・インパクト理論と同様なメカニズムであり、「巨大衝突説」と呼ばれる。また、このような現象は原始惑星形成時から起こり、水星軌道では選択的に金属が集まりやすかったという「選択集積説」も有力な仮説として唱えられている。 2つ目は、水星が原始太陽系星雲の歴史のごく初期の段階に形成され、その時には未だ太陽からのエネルギー放射が安定化していなかったことが原因という理論である。この理論では、当初水星は現在の約2倍の質量を持っていたが、原始星段階の太陽が収縮するにつれて活動が活発化してプラズマを放出し、このために水星付近の温度が 2,500 - 3,500 K、あるいは 10,000 K 近くにまで加熱された。表面の岩石がこの高温によって蒸発して岩石蒸気となり、これが原始太陽系星雲風によって吹き飛ばされたために地殻部分が痩せ細って薄くなったという。これは「蒸発説」と呼ばれる。 3つ目は、原始太陽系星雲からの太陽風が水星表面に付着していた軽い粒子に抗力を生じさせ、奪い去る現象が重なったという理論である。他にも、水星は地殻部分がコアとマントルの冷却よりも先に形成されたため、これが影響したという説もある。 これらの各仮説では、水星表面の構成に異なった影響を与えると考えられている。 探査機メッセンジャーと水星に向けて航行中のベピ・コロンボは、この課題を観測する目的を担う予定である。
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