マーティン版『万国公法』系統
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「万国公法」の記事における「マーティン版『万国公法』系統」の解説
開成所(西周訓点)『万国公法』全6冊、老皀館、1865年巻数などの体裁そのままに翻刻された日本最初の『万国公法』。翌年には将軍徳川家茂に献呈されている。この翻刻が与えた歴史的影響は非常に大きく、ある研究では「此書は維新当初の開国方針を決するに重大なる参考書となり、また経典の如き権威を以て読まれた」と評している(尾佐竹1932)。この開成所版は、もとの『万国公法』に訓点を設けたものである。 呉碩三郎・鄭右十郎共訳、平井義十郎校閲『和解万国公法』、1868年訳者・校閲者たちは長崎唐通事出身。この本は刊行されなかった。 堤殻士志訳『万国公法訳義』御用御書物製本書版、1868年、全4冊、開成所版は漢語訳版に訓点を設けただけであったが、それを和訳(仮名文)することでより読みやすくしたのが本書である。ただ全訳ではなく、マーティン本の中途(第二巻二章十三節)までしか訳されていない。また日中両国は同じ漢字を使用するが、この本ではマーティンの訳語をそのまま移入せず、独自の訳語を採用した箇所がかなりある。たとえば“God”をマーティンは「上帝」としているが、この書では「造物者」と直している。このようにマーティンの訳に訂正を試みようとしているものの、「この法は天地の常理なれば、これに遵えば天地和合の気を受け無事なるべし」という風に、マーティンよりも国際法を自然法的に解釈している。 この書は御用御書物製本書版以外にも京都書林版・山城屋版などの異本が存在しており、そのことから普及したことがうかがえる。 重野安繹(鹿児島藩)訳注『和訳万国公法』全三冊、1870年これもマーティン本の第一巻二章までを訳した重訳本。時折重野の注釈が付されている。この書も自然法的理解が濃厚である。書中、重野の注釈には荀子や揚雄、韓愈といった儒者たちの論を引用し、儒教的な教えに引きつけて国際法を解釈していく。中には「按するに、虎哥か此の論、孟子の性善良知の説を本とし、終に王陽明か心を師とするの論に帰着す」(加筆者訳:思うにグロチウスのこの論は孟子の性善説・良知の説を基礎として、最終的には王陽明が説く心即理の説へと到達するものである。〔注:原文の片仮名は平仮名に変換〕)というように、グロチウスの自然法に関する説明部分では陽明学と同一視する部分すらある。 高谷龍州註釈・中村正直批閲及び序文『万国公法蠡管』(ばんこくこうほうれいかん)全八冊、済美黌、1876年重野本同様、マーティン本の訳注本である。重野本より注釈は多く、訳語に苦労したことがうかがえるが、内容は凡庸と評されている(住谷1973)。むしろ中村正直の序文から、彼の国際法観が自然法的なものであることがうかがえる点が興味深いとされる。
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