H8
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 00:51 UTC 版)
ターゲットは組み込み市場であり、様々な機能を内蔵した多様な製品群がシリーズ展開され、形態としてはマスクROM版・ROMレス版のほかに、EPROMを内蔵したZTAT版のほか、フラッシュメモリを内蔵したF-ZTAT版がある。ビット数が当初は8ビットだったのでH8と命名されたが、後に、名前はH8のまま16ビット・32ビットの後継シリーズが展開された。内部レジスタ幅は16ビットまたは32ビットで、データバスの幅によってビット数を分類している。
2013年現在、H8シリーズの生産・供給は続けられているものの、ルネサス エレクトロニクスの会社統合による製品ラインナップの整理により、今後の新製品の開発予定は無いとされる[1]。
2023年現在、8、16、32ビットのH8/300、H8S、H8SXが、IP製品として提供されている[2]。生産中止ということがなく、継続的に使用可能とされる[3]。H8/3048などの汎用マイコン機能のFPGA実装用IP(FPGAマイコン)も提供されている[4]。H8/3048FやH8/3052FのIPとして、H8S IPが利用可能とされる[5]。
概要
いわゆるCISCアーキテクチャで、R0~R7の16ビット汎用レジスタが8本あり、これらはR0H、R0Lなど8ビットレジスタ16本としても使用できる。なお、R7はスタックレジスタである。上位のシリーズではさらに各レジスタを32ビット幅に拡張してER0~ER7としている。
アドレッシングモードが豊富で直交性の高い命令体系を持つ。MC68000にも似ていて、同様に奇数アドレスをワードアクセスすることはできないが、エラーは発生しない。I/O空間はメモリマップドI/O。ロード命令ではソースを先にデスティネーションを後に書き、ビッグエンディアンである。
製品としてはCPUコアにROM、RAM、割り込みコントローラ、タイマ、入出力ポート、シリアルコントローラ(SCI)、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、DMAなどが統合されたパッケージで販売される。I2Cバス、スマートカードインターフェースや液晶コントローラなどを持つシリーズもある。また、ピン配置に互換性のない複数のシリーズに細かく分けられている。パッケージはQFPやPLCCなどの表面実装型が多く、シュリンクDIPなどの挿入型の品種も存在する。
開発環境としては純正のC/C++/アセンブラパッケージおよび統合開発環境HEW(High-performance Embedded Workshop/「Hitachi~」から改称)があるほか、各社からCコンパイラなどが発売されている。GCCでも対応している。
歴史
H8は、もともとは1980年代後半に日立が「Hシリーズマイクロコンピュータファミリー」構想のもとに開発したものであり、そのファミリーを8ビットのH8、16ビットのH16、32ビットのH32で構成し、8ビットのH8は制御用途だが、当初はその中でも主にプリンタやコピー機や自動車エンジン制御向けという位置づけであった[6]。 (なお、H16もやはり制御用途だが主にワードプロセッサやファクシミリや端末用途を、H32のほうはワークステーションやミニコン用途を想定していた。[6])
H8は独自命令セットアーキテクチャで開発された。日立はそれまでモトローラの、MC6800のセカンドソースHD6300シリーズ(HD6301・HD6303等)(及びMC6809を拡張したHD6309(en:Hitachi 6309))、MC68000のセカンドソースHD68000、ザイログのZ80上位互換のHD64180を製造・販売しており、その経験からか、H8はこれらの長所を取り入れたアーキテクチャとなっている。
ちなみにH16(HD641016)のほうも、68000に強く影響されているがやはり独自のプロセッサであり、MC68000のセカンドソースであるHD68000とは別物であり、32ビットのH32(GMICROシリーズの日立側名称)はTRONCHIPであった。なお、H16は「日立対モトローラ事件」(H8とH16についてモトローラが特許を侵害しているとして訴訟。日立は68000が日立の特許を侵害しているとして対抗。クロスライセンスで決着(事実上の日立勝利)[7]。訴訟の対象になった製品はH8とMC68030であるという説明もある[8]。)の影響もあり消滅し、H32はスーパー301条適用がほのめかされた圧力によるTRONプロジェクトの失速の影響で少数の生産に止まった結果、「Hシリーズマイクロコンピュータファミリー」構想の中ではH8のみが残った。
なお、後に同社が開発したSuperHシリーズ(特にSH1とSH2)は、H8とは別の用途、視点から開発され、当初はよりCISC的な仕様を取り入れることも検討されたが、動作クロックやパフォーマンスを考慮しRISC的なマイクロコントローラとしてデザインしたものである。このためHD64180やSuperHシリーズなどとのバイナリの互換性はない[9]。またルネサス移行後に発売されたR8C/Tinyシリーズは元三菱電機のM16C系統のCPUであり、やはり互換性はない。
H8は組み込み向けのマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ(マイコン)としては世界的に大きなシェアを有する。電子工作用や教材用としてもそれまでのZ80などに代わって、中規模のマイコンとして広く使われていて、秋葉原などでも容易に入手できる。また日立が支援していた「マイコンカーラリー」には古くから使われているほか、レゴのMINDSTORMSにも使われている。
近年はTinyシリーズのようにオンチップ・デバッキングインターフェースを内蔵して、廉価なオンチップ・エミュレータを使用できるシリーズに移行しつつある。また純正開発環境の無償評価版(一定期間経過後、64KBの限定版となる)の配布もWebや雑誌などで積極的に行われている。
- ^ H8はどうなるの ルネサスユーザコミュニティ「かふぇルネ」におけるメーカー担当者の回答より
- ^ “H8/H8S/H8SX IPセレクションガイド”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年1月12日閲覧。
- ^ “FPGAマイコンご紹介 ~FPGAにH8Sを組み込もう~”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年2月16日閲覧。
- ^ “FPGAマイコンの実現”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年1月12日閲覧。
- ^ “H8/3048のIPをさがしているお客様には、H8S IPをおすすめします”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年2月16日閲覧。
- ^ a b “Hシリーズマイクロコンピュータファミリー”. 株式会社日立製作所. 2023年3月24日閲覧。
- ^ “特許の戦略的活用”. RYUKA国際特許事務所. 2023年3月24日閲覧。
- ^ “マイコン独立戦争”. 一般社団法人半導体産業人協会歴史館委員会. 2023年3月24日閲覧。
- ^ SuperH 開発ストーリ
- ^ “H8SX,H8S,H8ファミリ用C/C++コンパイラパッケージ”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “H8SXファミリソフトウェアマニュアル”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “H8Sファミリセレクションガイド”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年2月9日閲覧。
- ^ “H8SXファミリセレクションガイド”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年2月9日閲覧。
- ^ “ニュースリリース”. 株式会社日立製作所. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “ニュースリリース”. 株式会社日立製作所. 2023年2月2日閲覧。
- ^ “H8/H8S/H8SXオリジナルマイコンの実現”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年2月2日閲覧。
- ^ “H8S CPU サブシステム (H8S C200) IP”. ルネサスエレクトロニクス株式会社. 2023年3月9日閲覧。
- ^ “H8S C200 IP”. 株式会社マクニカ. 2023年2月2日閲覧。
- ^ “「H8S C200」互換IPコアをアルティマが開発、アルテラ製FPGA向け”. EE Times Japan. 2023年3月16日閲覧。
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