防空壕
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/24 03:19 UTC 版)
概要
航空機による爆撃や機銃掃射だけでなく、対地ミサイル攻撃や砲撃から身を守る機能もあり[2]、敵の地上部隊が進撃・上陸してきた場合には、防衛戦における陣地や要塞を兼ねて使われることもある(2022年ロシアのウクライナ侵攻におけるアゾフスタリ製鉄所の戦い[3]など)。
地域紛争が起きている地域では、防空壕は日々の攻撃から住民の生命を守るための実用的なものとして作られ使われている。たとえばイスラエルは建国以来、周囲のイスラム諸国と全面戦争を複数経験(中東戦争)したほか、その後もガザ地区からロケット弾攻撃をしばしば受けており、防空壕はイスラエルでは「空襲警報のサイレンが鳴るたびに駆け込むもの」という位置づけである。
また核攻撃される可能性を危惧して、放射能汚染も想定した防空壕(核シェルター)を建造している政府がいくつもある。核兵器保有国ロシアに近い北欧では核攻撃される可能性はかなりありえる事態だと認識されているので、核攻撃に耐えるような防空壕が建造してある。アメリカ合衆国の民間人でも、核攻撃されることや第三次世界大戦が勃発する可能性を真剣に憂慮し、遅かれ早かれ起きるものとしてそれへの準備を怠らないプレッパーと呼ばれる人々は、自力でそうした核シェルターを用意し、シェルター内にかなりの量の備蓄物を蓄えている。
強度や規模は様々であり、日本で太平洋戦争中に民間人が自分の家族のために住宅の裏山や庭などを掘り作ったものは小さくて簡素な防空壕だった[4]が、政府が国家・政府機能や軍隊の指令系統を維持するために作る場合は、強固で大きななシェルターを作ることになる。アメリカ合衆国連邦政府は核攻撃にも耐えるよう山の下、分厚い岩盤の層の下に建造し、かなりの人数の人々が長期に渡り生き延びられるように相当な備蓄もしている(シャイアン・マウンテン空軍基地)。
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地下防空壕へ下りる階段(ドネツィク)
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地下の扉(ドネツィク)
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ドネツィクの地下壕内部
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ドネツィクにある別の防空壕への入口(建物脇から出入りできる)
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ドネツィクにある別の防空壕の内部
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ウクライナにある別の防空壕内部
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イスラエルの防空壕。日常的に使うので、ベビーベッド、冷蔵庫、テレビ、ソファーなども置いている例。
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イスラエルにある別の防空壕の内部
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スウェーデンの防空壕(内部へ向かう通路)
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スウェーデンの防空壕内部
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スウェーデンの防空壕内部
現代では地下鉄駅が防空壕としても利用されている。他国から侵略されることを意識せざるを得ない国々では、地下鉄駅を防空壕として使うことをかなり意識して、一部の駅は防空壕兼用で設計し、それ用の諸設備も備えている。
2022年ロシアのウクライナ侵攻では、地下鉄駅にウクライナ国民が多数、毛布、寝袋、キャンプ用マットレス、段ボールなどを持ちこんで1カ月以上耐えている。防空壕となった地下鉄駅では、戦争難民を支援する自国や各国のボランティア団体などが水や食料を配布している。
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防空壕として使われ、長期避難状態になった地下鉄駅構内(2022年、ウクライナ)
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避難者数が膨大で構内だけでは場所が足りないので、プラットホーム上にも避難者が座っている。列車の運行も行われ、乗降客もホームを歩いている(2022年、ウクライナの首都キーウの地下鉄駅にて)。
注釈
- ^ なお2022年4月時点では、日本は他の国に比べて、一般家庭用シェルターの準備があきらかに後手にまわっていて、国内メーカーがまだ育っておらず輸入品が中心となっているが、ウクライナ侵攻以降、与党自民党内でも「大切なのは国民の生命であり、国民が避難できるシェルターをもっと多数用意すべきで、それに向けた制度(法制度や補助金など)も検討すべきだ」という話はさかんにされるようになっているので、今後、仮にスイスのように国民の全人口以上の人数が避難できるシェルターを用意しておくことを目指すようになれば、あるいはそこまでいかなくてもたとえば、有事に日本国民の5割以上がシェルターに避難できるようにシェルターを用意しておく、と数値目標を設定するだけでも、日本国内の家庭用シェルターの市場規模がとても大きくなり、シェルターを日本で製造して十分に利益が出るようになるので、国内の会社がシェルターを大量に製造するための生産ラインを作るようになる。
出典
- ^ 『広辞苑』第六版【防空壕】
- ^ a b 「ウクライナ紛争、地下壕に身を潜めるドネツクの子どもたち」AFP(2015年2月15日)2022年9月20日閲覧
- ^ マリウポリの製鉄所の下、ソ連時代に建設の「地下要塞」…診療所や武器庫にカフェも 読売新聞オンライン(2022年4月19日)2022年9月20日閲覧
- ^ a b が、「庭先の防空壕 どう残す/個人所有、老朽化で維持難しく 記憶伝承へ公開模索も」「旧日本軍や自治体が建造 特殊壕8474カ所残存」『日本経済新聞』朝刊20229月3日(社会面)2022年9月20日閲覧
- ^ 「ようこそ、パリの地下世界へ」ナショナルジオグラフィック
- ^ “遊興飲食店になったウクライナのバンカー…「これで戦争に備えろと?」嘆き極限”. 中央日報 (2022年2月18日). 2022年2月23日閲覧。
- ^ Blair, Bruce G (2003年5月25日). “We Keep Building Nukes For All the Wrong Reasons”. The Washington Post 2009年2月28日閲覧。
- ^ a b c “日本の地下駅300超、有事の避難施設に指定…地上から浅くミサイルには弱く”. 読売新聞 (2021年4月21日). 2022年4月21日閲覧。
- ^ “空襲から家族救った自宅防空壕 できれば残したい、でも”. 朝日新聞デジタル. 2021年8月8日閲覧。
- ^ 電気協会九州支部 編『電気事業資料 第10号 防空諸法規並資料』電気協会九州支部、1941年、77-96頁。NDLJP:1141490/51。
- ^ 水島朝穂ほか著『検証 防空法 ―― 空襲下で禁じられた避難』(法律文化社、2014年)132~140頁
- ^ “<語り継ぐ記憶 戦後76年・四国>「四国初」防空壕 残せるか”. 読売新聞オンライン. 2022年4月1日閲覧。
- ^ “栗木 「防空壕」知る機会に 「きくらげ」で発信 | 麻生区”. タウンニュース. 2022年4月1日閲覧。
- ^ [探訪]佐世保「とんねる横丁」防空壕からの復興 市民の台所は戦争遺産『産経新聞』朝刊2023年9月17日(特集面)2023年10月3日閲覧
- ^ “危険な地下壕、全国487カ所 陥没で死者・家屋被害も - 環境”. www.asahi.com. 2022年4月1日閲覧。
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