部首 伝統的な部首分類と漢和辞典の改良

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部首

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/07 17:59 UTC 版)

伝統的な部首分類と漢和辞典の改良

昭和の始めまで、日本の漢和辞典は、意味による部首分類である康熙字典の分類を踏襲するのが普通であったため、部首を引くのは必ずしも容易ではなかった。たとえば、「」(りっしんべん)の字を引くには「心」部を見なければならず、「承」の字は「手」部を見る必要があった。これらは、字の成り立ちに由来していることが多い。また、1946年(昭和21年)の当用漢字表、1949年(昭和24年)の当用漢字字体表による新字体への変更により、旧字体との乖離への対応も必要となった。

字形主義と字義主義

『康煕字典』の部首の選択は字義主義(形声文字の意符を部首に選ぶ)と字形主義の折衷的な方式であり、何を部首として引いたらよいのかわからないことが少なくない。

長沢規矩也は、字の見た目から引けるように工夫をした『新撰漢和辞典』を1937年(昭和12年)に三省堂から刊行した。これは字形主義の代表である。この方式は戦後の『三省堂漢和辞典』(1971年初版)にも引き継がれた。三省堂の部首は以下のような原理に従っているという[1]

  • 意味を考慮せず、できるだけ偏や冠で引けるようにする
  • 多くの漢字の上半分・左半分に共通してある形で、従来の部首にないものについて、部首を新設する
  • 人偏(亻)や立刀(刂)・立心偏(忄)などは独立した部首として立てる
  • 匚部匸部土部士部などは統合する

海外の辞典で字形主義を採用している例では、Nelsonの英語圏で販売されている漢英辞典が挙げられる。この辞典では、採用している部首そのものは康熙字典の214部首体系であるが、一定のルールに従って部首を定められるようにしており、この辞典での部首決定法のルールは次の順序となっているという。そして結果的には12%ほどの漢字が、伝統的部首とは別の部首に配属されるという。

  • 1.全体→2.唯一→3.囲み(垂・繞・構)→4.偏→5.旁→6.冠→7.脚→8.北西→9.北東→10.南東→11.南西→12.あらゆる位置で部首を探す(a.最高→b.少画→c.最左)

逆になるべく字義主義を取ろうとしたのが角川『新字源』で、凡例で「検索に著しいさまたげがないかぎり、合理的な部首に移した」と言っているのは[2]、これを指す。『新字源』と『康煕字典』で部首の変更があったものを例示すると、以下のようになる。

康煕字典 新字源
人部8画 彡部7画
夕部2画 卜部3画
女部3画 口部3画
巛部4画 辵部3画
矢部3画 口部5画
舌部6画 亅部11画
食部4画 欠部8画

同一部首の変形の扱い

伝統的には、たとえば「心」の部には、「忘」の字など、「心」の形を保ったものの他に、「快」の字のように、で「」の形のもの、また「慕」の字など、で「」の形のものを収める。艸部の「艹」、辵部の「辶」、邑部の「阝」(おおざと)、阜部の「阝」(こざとへん)などのように、その部首に所属する漢字のほぼ全てが変形となっているものもある。

このような分類では、知識がないと部首を用いて漢字を検索できない。今日の漢和辞典では、「」を部首としたり、部首の索引で「」から「心」部に誘導するなど、何らかの工夫がされていることも多い。なお、部首索引での「」から「心」部への誘導は『字彙』ですでに行われている。

このような変形は幾つかあるが、「衣」部である「」は、「ころもへん」と呼ばれるなど、名称にも変形前の痕跡をとどめるものが多い。

歴史的には、初めて漢字を部首によって分類した『説文解字』では、親字が篆書体であったため、「心」も「」も同形であった。「心」と「」の字形の違いは、篆書体から隷書体に書体が変化した(これを「隷変」と呼ぶ)ときに生まれたものである。

楷書を使用するようになった現在でも、多くの字書では、部首が変形したものを本来の部首に所属させている。そのため、「胴」「胸」など「月(にくづき)」が付く字が、4画の「月部」でなく6画の「肉部」に属するなどの一見不自然な状態が生じている。これを回避するために、同じ字形に見えるものは分けない字書もある。逆に台湾活字フォントでは、字形のほうを変化させて部首の違いが容易に分かるようにしている。

中国では、部首としての変形後の字形を「附形部首」と呼んでいる。

新字体の扱い

現在の日本では、当用漢字常用漢字人名用漢字新字体によって大幅に字形が変わった漢字がある。それらの漢字の中には、従来の部首を全く含んでいないために検索に適さなくなったものが存在する。例えば旧字体が「萬」(艸部)であった漢字は新字体では「万」となり、「聲」(耳部)は「声」、「圓」(囗部)は「円」となった。

これらの漢字については、各漢和辞典により配置の方針が異なる。

  • 旧字体の部首・画数の位置に新字体をそのまま配置する。(万=艸部9画、声=耳部11画、円=囗部10画)
  • 新字体に適した部首・画数の位置に配置を変更する。(万=一部2画、声=士部4画、円=冂部2画)

2015年現在発売されている漢和辞典で言えば後者が主流であるが、『新字源』のように前者を採用しているものも存在する。また、『新選漢和辞典』のように改訂によって前者から後者に方針を変更したものもある。

新字体の部首は『康熙字典』のような統一的な基準がないため、各漢和辞典によって部首が異なることもある。例えば「巨」(旧字体は「」=工部)の部首は『漢字源』では二部、『漢辞海』では丨部、『新漢語林』『漢字典』では匚部、日本漢字能力検定協会では工部のままと様々である。

従来の部首を含んでいない新字体

  は、『康熙字典』に同様の字体が表れるもの。その字体の『康熙字典』での部首は太字。新部首は*で示す。
 
旧字
(正字)
従来の
部首
新字体
(俗字)
新字体の
部首の例
備考
0001 164酉部 023匸部 匸部を匚部と統合している辞書の場合は匚部
0002 087爪部 086火部
0003 086火部 215*ツ部口部
0004 031囗部 013冂部
0005 197鹵部 032土部
0006 073曰部 009人部
0007 026卩部 049己部
0008 077止部 050巾部刀部・*リ部
0009 134臼部 072日部
0010 048工部 048工部二部丨部匚部 中国では同一字体扱いで『康熙字典』に従い工部
匚部の場合、総画数が1画少なくなる
0011 032土部 032土部儿部十部 人名用漢字。Unicodeの配列は尢部
0012 121缶部 076欠部 本来別の意味の2つの字を「欠」にまとめたもので完全な新字体ではない
0013 120糸部 109目部
0014 012八部 012八部・*䒑部 ・*ソ部 中国では同一字体扱いで『康熙字典』に従い八部
0015 030口部 215*ツ部攴部 中国では厂部に属されることがある。Unicodeの配列も厂部。
0016 066攴部 019力部 当用漢字字体表で力部に分類
0017 141虍部 030口部
0018 040宀部 014冖部
0019 033士部 寿 041寸部
0020 066攴部 029又部
0021 129聿部 129聿部米部彐部 新字体にも聿部は含まれると見る辞書と含まれないと見る辞書がある
0022 141虍部 016几部夂部
0023 066攴部 029又部
0024 108皿部 044尸部
0025 128耳部 033士部
0026 011入部 011入部人部玉部 中国では同一字体扱いで『康熙字典』に従い入部
0027 208鼠部 208鼠部・*ツ部 常用漢字ではない。中国では丨部に属されることがある。大漢和辞典の補巻では几部
0028 172隹部 029又部
0029 087爪部 006亅部・*ク部
0030 047巛部 215*ツ部木部 中国では巛部に属されることがある
0031 133至部 030口部 本来別の意味の字を代替したもので完全な新字体ではない
0032 030口部 215*ツ部十部
0033 066攴部 019力部 当用漢字字体表で力部に分類
0034 203黑部 086火部
0035 102田部 042小部彐部
0036 203黑部 010儿部
0037 191鬥部 169門部
0038 011入部 011入部冂部
0039 154貝部 056弋部二部
0040 173雨部 146襾部 当用漢字字体表で襾部に分類
0041 154貝部 033士部
0042 113示部 115禾部
0043 117立部 001一部・*䒑部 ・*ソ部
0044 149言部 035夊部 夊部を夂部と統合している辞書の場合は夂部
0045
160辛部
瓜部
055廾部 本来別の意味の4つの字を「弁」にまとめたもので完全な新字体ではない
0046 013冂部 073曰部冂部目部 中国では同一字体扱いで『康熙字典』に従い冂部
0047 183飛部 124羽部
0048 140艸部 001一部
0049 134臼部 001一部
0050 152豕部 006亅部・*マ部 本来別の意味の2つの字を「予」にまとめたもので完全な新字体ではない
0051 184食部 009人部 本来別の意味の2つの字を「余」にまとめたもので完全な新字体ではない
0052 009人部 075木部
0053 154貝部 181頁部 新字体にも貝部は含まれるがおおむね頁部で扱う
0054 011入部 001一部

この他、「竜」(旧字:龍)は日本では龍部(竜部)の0画として扱うが、『康熙字典』では立部の5画に属している。また、「歯」(旧字:齒)は日本では齒部(歯部)の0画、「亀」(旧字:龜)は龜部(亀部)の0画、「斉」(旧字:齊)と「斎」(旧字:齋)は齊部の0画と3画として扱うが、いずれも『康熙字典』には表れない字形で中国の略字形とは異なり、「齒」「龜」「齊」「齋」と同一漢字として見られず止部の8画、乙部の10画、文部の4画と7画に属されることがある。「麦」(旧字:麥)は日本でも『康熙字典』でも麥部(麦部)の0画として扱われているが、中国では夊部の4画に属されることがある。

新部首の扱い

新字体が登場したことや、部首が引きにくい漢字を引きやすくすることなどのために、『康熙字典』の214部首に含まれない新部首を作った漢和辞典も少なくない。これらの新部首については『康熙字典』のような統一的な基準がないため各漢和辞典によって異なるが、概ね以下の新部首が存在する。

  • ツ部 - 単・営 (『漢字源』『新漢語林』『漢字典』)
  • 了部 - 了 (『漢字典』)
  • ク部 - 争 (『漢字典』)
  • 部 - 並・兼 (『漢字典』)

メ部・マ部(いずれも『漢字典』)など、所属する文字がないものの検索の便宜上作られた新部首もある。

また、現代の活字や楷書体では形状の差がないことから夂部と夊部、匚部と匸部はまとめられることが多くなった。日部と曰部、月部と「にくづき」(本来は肉部)をまとめ、行部の漢字を全て彳部に移動した『新漢語林』のような漢和辞典もある。

画数の扱い

漢字の画数を数えるときは一筆で書ける点画を1画と数える。これは、部首においても同様である。

部首の中には通常の明朝体活字と違う画数が定められているものがある。たとえば、「瓜部」は通常の明朝体活字の通りに画数を数えると6画になるが、康熙字典では5画の部首とされている。これを是正するために、日本の漢和辞典では中の部分を2画の「厶」に見えるようにした活字を使用することがある。

中国日本では、部首や部分の画数が違う場合もある。例えば、「こざとへん・おおざと()」は康熙字典では3画に数え、日本でもそれを踏まえるが、現在の中国では2画とする。なお、「」を初めて3画と数えた『字彙』の凡例には、2画部首の「卩」と区別するために3画と数えたという旨が書かれている。「鬼部」は康熙字典では10画の部首であり、日本では10画に数えるが、現在の中国では9画である。これは、中国では日本で4画目としている縦画と7画目としている左払いを繋げて書く字体が正式な字体とされているためである。

また、臣部は康熙字典では左の縦画と下の横画をつなげて6画に数え、現在の中国でも6画に数えているが、現在日本では7画に数えるため、漢和辞典によっては部首の位置を7画のところに移動させたり、部首の位置が6画のままでも常用漢字に限って7画に数えたりしている。


注釈

  1. ^ 『現代漢語詞典』部首検字表説明には188部首とあるが、実際の部首番号は189まである。

出典

  1. ^ 『三省堂漢和辞典』第四版(1993) p.5
  2. ^ 『角川 新字源』改訂版、1994年。凡例 p.4
  3. ^ 汉字部首表 GF0011-2009』中華人民共和国教育部http://www.moe.gov.cn/ewebeditor/uploadfile/2015/01/13/20150113090108815.pdf 
  4. ^ a b GB13000.1字符集汉字部首归部规范 GF0012-2009』中華人民共和国教育部http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/s230/201503/184493.html 
  5. ^ 教育部、国家语委发布《汉字部首表》和《GB13000.1字符集汉字部首归部规范》』中華人民共和国教育部、2009年2月27日http://www.moe.gov.cn/s78/A19/yxs_left/moe_810/s228/201202/t20120207_130121.html 
  6. ^ 角川書店、『角川最新漢和辞典』(1981年(昭和56年)1月20日103版発行





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