訓民正音 訓民正音の概要

訓民正音

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/29 02:01 UTC 版)

訓民正音
喜方寺版『月印釈譜』(1568年)の冒頭に収められている訓民正音諺解本。この版本は原刊本(1459年)ではなく覆刻本であり、一部に誤刻が見られる。
各種表記
ハングル 훈민정음
漢字 訓民正音
発音 フンミンジョンウ
日本語読み: くんみんせいおん
RR式 Hunminjeong-eum
MR式 Hunminjŏngŭm
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歴史

李氏朝鮮時代

訓民正音とは、「おしえるしい」という意味である。世宗は、それまで使用されてきた漢字が、朝鮮語とは構造が異なる中国語表記のための文字体系であるために、民草が学び用いる事が出来ぬ事実に鑑み、世宗25年(1443年[1])に、朝鮮語を表記するために新しい文字体系を作り、訓民正音と呼んだ。

世宗28年(1446年[2]鄭麟趾らが、世宗の命を受けてこの新しい文字について説明した漢文解説書を刊行したが、その本の名称が『訓民正音』である。

『訓民正音』は、例義篇と鄭麟趾序を記載した『朝鮮王朝実録』(世宗28年9月の条)や朝鮮語訳つきの例義篇(これを諺解本という)を記載した『月印釈譜』(1459年)などによって一部残存していたが、1940年慶尚北道の安東郡臥龍面周下洞の民家から注釈部分の解例篇を含んだ「解例本」が発見された。

李氏朝鮮時代はの従属下にあり、漢字が重視される一方、ハングルは書簡や詩歌での使用に限られ、公文書に採用されることはなかった。燕山君の時期にはハングル使用者への弾圧も行われた。李朝末期の1886年になって開化派井上角五郎の協力により朝鮮で初のハングル使用の新聞・公文書(官報)である『漢城周報』が発行された[3]。また、一般人(特に女子)のための教育機関は皆無で、大多数の朝鮮人は読み書きができない状況だった[4][5]

日本統治時代

日本併合時代の学校教育における科目の一つとしてハングルと漢字の混用による朝鮮語が導入されたため、朝鮮語の識字率は一定の上昇をみた[6]

1911年朝鮮総督府は、第一次教育令を公布し、朝鮮語は必修科目としてハングルが教えられることとなった[7]。朝鮮語の時間以外の教授言語としては日本語が使用された。総督府は1912年に、近代において初めて作成された朝鮮語の正書法である普通学校用諺文綴字法を作成し、1930年には児童の学習能率の向上、朝鮮語の綴字法の整理・統一のための新正書法である諺文綴字法を作成し、それを用いた。

内容

『訓民正音』は、世宗の書いた序と本文の部分である「例義」篇、集賢殿の学者達が書いた解説部分である「解例」篇、「鄭麟趾序」の3つの部分に分けられる。

例義

例義の内容は、ハングルを制作した目的を明らかにした序文、28の字母の音価を五音や漢字例によって初声17字・中声11字の順番で説明した部分、連書・並書・附書(複合字母の合成法)や成音(字母を合わせて1つの音節を表すこと)・加点(声調符号を加えること)といった運用法についての部分に分けられる。なお諺解本ではこれに朝鮮語にはない中国語歯頭音正歯音を表記するための字を設けた部分が加えられている。

以下に序文(世宗序とも言われる)のみを示す。

漢文
原文

現代語訳

諺解

和訳

わが国の語音は中国とは異なり、
漢字と噛み合っていないので、
愚かな民たちは言いたいことがあっても
書き表せずに終わることが多い。
予(世宗)はそれを哀れに思い、
新たに28文字を制定した。
人々が簡単に学習でき、
また日々の用に便利なようにさせることを願ってのことである。


解例

解例は世宗の命令に従って学者たちが書いた例義についての注釈である。これは字母の制作原理を説明した「制字解」、音節頭子音を表記する17字を説明した「初声解」、母音11字を説明した「中声解」、音節末子音を説明する「終声解」、初声・中声・終声が結合して音節を表記する方法を説明した「合字解」、ハングルによって単語を表記した例を載せた「用字例」の6つに分けることができる。

鄭麟趾序

鄭麟趾の書いた『訓民正音』の序文。ここで執筆に携わった人物の名前が載せられており、鄭麟趾・崔恒・朴彭年申叔舟成三問・姜希顔・李塏・李善老がいたことが分かる。


  1. ^ 世宗実録 二十五年(1443年) 102卷 25年 12月 30日 庚戌の条
    是月、上親制諺文二十八字、其字倣古篆、分為初中終聲、合之然後乃成字、凡干文字及本國俚語、皆可得而書、字雖簡要、轉換無窮、是謂訓民正音。
  2. ^ 世宗実録 二十八年(1446年) 113卷 28年 9月 29日 甲午の条
    是月、訓民正音成。御製曰: 國之語音、異乎中國、與文字不相流通、故愚民有所欲言、而終不得伸其情者多矣。 予為此憫然、新制二十八字、欲使人易習、便於日用耳。
    ㄱ牙音 如君字初發聲、竝書如蚪字初發聲。
    ㅋ牙音 如快字初發聲。
    ㆁ牙音 如業字初發聲。
    ㄷ舌音 如斗字初發聲、竝書如覃字初發聲。
    ㅌ舌音 如呑字初發聲。
    ㄴ舌音 如那字初發聲。
    ㅂ唇音 如彆字初發聲、竝書如歩字初發聲。
    ㅍ唇音 如漂字初發聲。
    ㅁ唇音 如彌字初發聲。
    ㅈ齒音 如即字初發聲、竝書如慈字初發聲。
    ㅊ齒音 如侵字初發聲。
    ㅅ齒音 如戌字初發聲、竝書如邪字初發聲。
    ㆆ喉音 如挹字初發聲。
    ㅎ喉音 如虚字初發聲、竝書如洪字初發聲。
    ㅇ喉音 如欲字初發聲。
    ㄹ半舌音 如閭字初發聲。
    ㅿ半齒音 如穰字初發聲。
    ㆍ如呑字中聲 ㅡ如即字中聲 ㅣ如侵字中聲 ㅗ如洪字中聲 ㅏ如覃字中聲
    ㅜ如君字中聲 ㅓ如業字中聲 ㅛ如欲字中聲 ㅑ如穰字中聲 ㅠ如戌字中聲 ㅕ如彆字中聲。 終聲復用初聲。 ㅇ連書唇音之下 則為唇輕音 初聲合用則竝書。 終聲同。ㆍㅡㅗㅜㅛㅠ附書初聲之下、ㅣㅓㅏㅑㅕ附書於右。 凡字必合而成音 左加一點則去聲 二則上聲 無則平聲。入聲加點同而促急。
  3. ^ 井上角五朗と『漢城旬報』『漢城周報』 : ハングル採用問題を中心に筑波大学 稲葉継雄
  4. ^ 姜在彦『日本による朝鮮支配の40年』朝日文庫
  5. ^ 姜在彦『朝鮮の歴史と文化』明石書店
  6. ^ 崔基鎬『韓国 堕落の2000年史』祥伝社
  7. ^ 水間政憲『朝日新聞が報道した「日韓併合」の真実』徳間書店 2010年。p150、ISBN 978-4-19-862990-8
  8. ^ Third Meeting of the International Advisory Committee of the "Memory of the World" Programme (CII-97/CONF.502.1)” (Microsoft Word Document). UNESCO, Information and Informatics Division. pp. 8 (1997年10月). 2007年11月10日閲覧。
  9. ^ 東亜日報「最高のコレクション、澗松美術館」2002年5月21日(日本語)
  10. ^ 解例序による
  11. ^ 趙義成「訓民正音」東洋文庫800, 2010.
  12. ^ ‘조선왕조실록’의 번역 国民日報 (2012.01.10) の記事を参照


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