膵癌 分類

膵癌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 02:12 UTC 版)

分類

発生する部位によって以下の通りに分類される。

  • 膵鉤部癌
  • 膵頭部癌 - 膵癌のうち60%は膵頭部に発生する[16]
  • 膵体部癌
  • 膵尾部癌

病理

膵癌は膵臓のいずれの組織からも発生しうるが、それぞれ全く異なる性質を示す腫瘍となる。

  • 浸潤性膵管癌(Invasive ductal carcinoma) - 膵癌の約90%を占める代表的な組織型で、通常型膵癌とも呼ばれる。膵管に由来する。
  • 膵内分泌腫瘍(pancreatic endocrine tumor[17]) - 内分泌腺(ランゲルハンス島)に由来し、約8割が何らかのホルモンを産生する。通常型膵癌と比較して抗剤が効きにくいが進行も緩やかである。
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(英語: intraductal papillary-mucinous neoplasms、略称:IPMNs)[18] - 膵管上皮から発生する腫瘍で、膵管内発育と粘液産生を特徴とする。一般に悪性度が低く経過観察が可能であるが、悪性化の所見があるものは手術治療の対象となる。
  • 粘液性嚢胞腫瘍(英語: mucinous cystic tumors、略称:MCTs) - 粘液を有する大型・多房性の嚢胞性病変で、中年女性に好発する。悪性度が高く、通常型膵癌に準じた治療が行われる。
  • 腺房細胞癌 - 腺房に由来する比較的稀な腫瘍である。
  • そのほか稀な組織型 - Solid-pseudopapillary carcinoma、未分化癌、漿液性嚢胞腺癌(きわめて稀)、転移性膵癌など。

検査

血液検査

画像検査

以下の画像検査を行うことで評価を行う。

超音波検査
一般に検診にて用いられる。典型的な膵管癌は境界不明瞭で不整形の低エコー域として描出される。膵頭部の癌では主膵管や胆管の拡張も認められる。
CT
非造影検査では臨床的に有用な情報が乏しいため、一般にダイナミック造影を行う。膵癌は血流に乏しいことが多いため、造影早期(動脈相)には膵実質よりも造影不良域として描出される。造影後期(平衡相)では膵実質と同程度の造影効果を示すため不明瞭となる。一方、膵内分泌腫瘍は血流に富むため造影早期から強く増強される。また、周囲への浸潤像やリンパ節転移、遠隔転移の評価も行える。
MRI
胆管・膵管を描出するMRCP画像では膵管の不整や狭窄、途絶を評価できる。造影MRIでも造影CTと同様の評価が可能である。
FDG-PET
癌に一致して異常集積が見られるが、炎症との鑑別はしばしば困難である。
内視鏡的逆行性胆道膵管造影(Endoscopic retrograde cholangio-pancreatography、略称:ERCP)
特殊な内視鏡胆管膵管を直接造影する方法である。膵管癌では膵管の不規則な狭窄や途絶が見られ細胞診が施行できる。合併症として膵炎を起こすことがある。
超音波内視鏡(Endoscopic ultrasonography、略称:EUS)
先端に超音波探触子がついた内視鏡を使用し、内や十二指腸内から観察する超音波検査。腫瘍の穿刺細胞診も行える。

検診

尾道方式による早期発見・治療

広島県尾道地区では、膵癌の危険因子が複数ある人に超音波検査をして異常所見があった場合、非侵襲的な検査をさらに受けてもらい、早期発見・治療につなげる取り組みを2007年から実施しており、他地域にも広がり「尾道方式」と呼ばれている[20]

アメリカ予防医学専門委員会の検診非推奨

アメリカ予防医学専門委員会(USPSTF)は2019年8月6日、膵臓癌検診に関する有益性と有害性をレビューした結果、症状のない成人に対する膵臓癌検診を推奨しないとする声明を発表した[21]

病期分類

膵癌の病期分類には、日本膵臓学会の膵癌取扱い規約と国際的なUICC分類の2つがあるが、膵癌取扱い規約は第7版からUICC分類との整合性を取る形で変更されている[22]。いずれもTNM分類をもとに、4段階の進行度(ステージ)に分けられる。

膵癌取扱い規約(第7版)
I期:大きさが20mm以下で膵臓内に限局するもの、または20mmを越えるがリンパ節転移のないもの。
II期:膵外への浸潤はないがリンパ節転移があるもの、または癌が膵外へ進展するが腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ばないもの。
III期:癌が膵外へ進展し、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ぶもの。
IV期:遠隔転移があるもの。

進行度により、手術、全身化学療法放射線療法、あるいはこれらの組み合わせが行われる。進行度は治療の観点から以下の3段階に分けられる。

  • 切除可能:癌が膵臓周囲に限局しており、重要な血管への浸潤や遠隔転移がない段階。膵癌取扱い規約によるStageIVa以下の膵癌で、腹腔動脈(膵頭部癌)や上腸間膜動脈に浸潤がないものが該当する。手術による切除が第一選択の治療法である。
  • 局所進行:癌が膵臓周囲に限局しているものの、重要な血管への浸潤や後腹膜への広範囲な進展によって根治切除不能とみなされる段階。化学放射線療法もしくは全身化学療法が行われている。
  • 遠隔転移あり:癌が膵臓周囲を超えて全身へ広がっている段階。肝臓への転移もしくは腹膜播種によるものが多い。この段階ではたとえ目に見える癌をすべて切除したとしても早期に再発するため、膵切除による治療上の利点はないと考えられている。全身化学療法が第一選択の治療法である。

  1. ^ WHO Disease and injury country estimates”. 世界保健機関(World Health Organization) (2009年). 2008年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月11日閲覧。
  2. ^ がん情報サービス「がん登録・統計」 (Report). 国立がん研究センター.
  3. ^ a b 小林正伸『やさしい腫瘍学』(南江堂)p.106
  4. ^ 膵がんの転移や再発を司るがん幹細胞を発見 〜がんの芽を標的とした新たな治療法開発に光明〜熊本大学(2023年7月5日閲覧)
  5. ^ 膵がん転移の原因「幹細胞」を発見/熊本大など 治療法開発のカギに朝日新聞』朝刊2023年7月5日くらし面(同日閲覧)
  6. ^ Pancreatic adenocarcinoma NOW@NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)2021年4月7日閲覧
  7. ^ 肥満指数・運動量、喫煙・糖尿病歴と膵がんとの関連について、―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―、国立研究開発法人 国立がん研究センター
  8. ^ 飲酒と膵がん罹患の関連について、―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―、国立研究開発法人 国立がん研究センター
  9. ^ 肥満指数・運動量、喫煙・糖尿病歴と膵がんとの関連について、―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―、国立研究開発法人 国立がん研究センター
  10. ^ Omura T, Tamura Y, Kodera R, Oba K, Toyoshima K, Chiba Y, Matsuda Y, Uegaki S, Kuroiwa K, Araki A (April 2019). "Pancreatic cancer manifesting as Sister Mary Joseph nodule during follow up of a patient with type 2 diabetes mellitus: A case report". Geriatr Gerontol Int. 19 (4): 364. doi:10.1111/ggi.13602. PMID 30932308
  11. ^ Pan, Bei; Lai, Honghao; Ma, Ning; Li, Dan; Deng, Xiyuan; Wang, Xiaoman; Zhang, Qian; Yang, Qiuyu; Wang, Qi; Zhu, Hongfei; others (2023). “Association of soft drinks and 100% fruit juice consumption with risk of cancer: a systematic review and dose:response meta-analysis of prospective cohort studies”. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity (Springer) 20 (1): 58. doi:10.1186/s12966-023-01459-5. https://doi.org/10.1186/s12966-023-01459-5. 
  12. ^ Howes N, Lerch MM, Greenhalf W, Stocken DD, Ellis I, Simon P, Truninger K, Ammann R, Cavallini G, Charnley RM, Uomo G, Delhaye M, Spicak J, Drumm B, Jansen J, Mountford R, Whitcomb DC, Neoptolemos JP (March 2004). "Clinical and genetic characteristics of hereditary pancreatitis in Europe". Clin. Gastroenterol. Hepatol. 2 (3): 252–61. doi:10.1016/S1542-3565(04)00013-8. PMID 15017610
  13. ^ Familial Atypical Multiple Mole Melanoma Syndrome NIH(アメリカ国立衛生研究所)2021年4月7日閲覧。
  14. ^ 糖尿病と癌に関する委員会『糖尿病と癌に関する委員会報告 (PDF) 』p.384(2021年10月20日閲覧)
  15. ^ 医師が膵がんを疑う最多のキッカケはこれだ・質問回答#103”. がん防災チャンネル・現役がん治療医・押川勝太郎. 2022年10月22日閲覧。
  16. ^ 伊佐地秀司監修『図解 決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法』
  17. ^ 消化器病学用語集(2021年12月29日閲覧)
  18. ^ 東海大学医学部外科学系消化器外科学 今泉俊秀『嚢胞性膵腫瘍の新しい概念 診断・治療の進歩と問題点 (PDF) 』(2021年9月22日閲覧)
  19. ^ Distinct methylation levels of mature microRNAs in gastrointestinal cancers nature communications(ネイチャー コミュニケーションズ)Published: 29 August 2019/2021年4月2日閲覧
  20. ^ 膵がんプロジェクト 尾道総合病院(2023年7月5日閲覧)
  21. ^ 膵臓がんの検診は「推奨しない」と米専門委”. 毎日新聞 (2019年8月25日). 2019年8月27日閲覧。
  22. ^ 伊佐地秀司「膵癌取扱い規約改訂第7版―大幅改訂のコンセプトと新規項目の解説―」『日本消化器病学会雑誌』第114巻第4号、2017年、617–626頁、doi:10.11405/nisshoshi.114.617 
  23. ^ a b HIFU(ハイフ)診療について|消化器内科|診療部門案内|東京医科大学病院”. hospinfo.tokyo-med.ac.jp. 2024年4月19日閲覧。
  24. ^ 膵臓診療ガイドライン 2016年版” (PDF). 金原出版. (2016). 2019年10月31日閲覧。
  25. ^ 八千草薫さんがすい臓がんで逝去 「たちの悪いがん」と言われる理由(山本健人)”. Yahoo!ニュース 個人. 2019年10月31日閲覧。
  26. ^ 沈黙の膵臓がん[出典無効]


「膵癌」の続きの解説一覧




固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「膵癌」の関連用語

膵癌のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



膵癌のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの膵癌 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS