膵癌 治療

膵癌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/13 07:42 UTC 版)

治療

外科的切除が根治的治療であるが、発見時には進行していることが多く、手術不能の場合が多い。

  • 臨床病期分類Stage 0からIIIのうち手術可能:術前化学療法(GEM+S-1療法)+手術加療にての根治的切除に術後補助化学療法を併用。
  • 臨床病期分類Stage IIからIIIのうち手術不能:化学放射線療法または化学療法
  • 臨床病期分類Stage IV:化学療法

外科手術

腫瘍を含めての膵切除術が行われる。最も侵襲が大きい手術の一つでもあるため、適応は患者の年齢や全身状態を考慮して検討される。高難度手術であるので、高度専門医療機関やハイボリュームセンター(手術件数の多い病院)での手術が望まれる。

また、膵全摘術は予後・QOLを考慮しあまり行われなくなってきている。また腹部大動脈周囲や上腸間膜動脈周囲のリンパ節郭清は、手術侵襲が大きい上に生存率に改善がないため、施行されなくなってきている。

ほか、不可逆電気穿孔法(IRE、通称:ナノナイフ)があり、こちらの場合、開腹と穿刺の2通りが考えられ、後者の場合侵襲度が低い。

血管に浸潤した、切除不能膵癌も治療できることが特徴。

化学療法

外科的切除後に行われる化学療法としては以下がある。

  • GEM(ゲムシタビン)単独療法:世界的には標準治療。CONKO-001試験で対照群のプラセボとの比較で優れていた。
  • S-1単独療法:日本での標準治療。JASPAC-01試験で対照群のGEM単独療法との比較で優れていた。
  • GEM+カペシタビン併用療法:ESPAC-4試験でGEM単独療法と比較して有意に生存期間を延長した。
  • modified FOLFIRINOX療法:対照群のGEM単独療法との比較で優れた成績であった。術前化学療法の効果を検討した試験では、行った群で有意に生存期間が延長したため、術前にGEM+S-1療法を行う。

Border line resectable症例については術前にS-1+RTまたはFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)またはGEM+nabPTX(アルブミン懸濁型パクリタキセル)療法を行う。

全身化学療法としては以下がある。

  • 5-FU単独療法
  • GEM単独療法:5-FU単独療法との比較で優越性を示した。
  • S-1単独療法(GEST試験):GEM単独療法との比較で非劣性を示した。同じ試験でGEM+S-1併用療法はGEM単独療法との比較で優越性を示せなかったため、標準治療とは見なされていない。

以下の3つはGEM単独療法と比較して優越性を示しており、後2レジメンが現在の標準的な一次治療である。

「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌におけるプラチナ系抗癌剤を含む化学療法後の維持療法」を適応症としてオラパリブが認可されている。

二次治療としてはGEMベースの一次治療を行った場合はフッ化ピリミジン系薬剤ベースのレジメンを、FOLFIRINOXなどフッ化ピリミジン系薬剤ベースのレジメンを行った場合はGEMベースのレジメンが選択される。一次治療にGEMベースのレジメンを選択した場合の二次治療としてNAPOLI-1試験の結果よりよりnal-IRI(オニバイド🄬)+5FU/LV療法が適応を有している。

放射線療法

他臓器への転移はないが動脈浸潤などのため切除不能な局所進行膵癌に対しては、化学療法(5-FUまたはS-1またはGEM)と放射線照射を同時に行う化学放射線療法が行われる。

また、開腹手術を行い病巣付近に集中的に放射線を照射する方法(術中照射)も行われることがある。

その他

  • 免疫療法:種々の方法で免疫系を賦活化させ、癌の進行を抑える治療法である。腫瘍特異的な抗原に対する細胞傷害性T細胞を誘導する方法などが試みられている。副作用が比較的軽微であるのが特徴で、他の抗癌療法との併用も行われている。未だ開発途中の治療法であり、一部の施設で臨床試験として行われている程度である。また民間において独自に活性化自己リンパ球移入療法を行っている施設もあるが、治療効果におけるエビデンスが乏しいため一般には推奨されていない。「切除不能膵癌」については、日本膵臓学会はその診療ガイドラインにおいて「切除不能膵癌に対して生存期間の延長を考慮した場合,一般臨床として免疫療法を行わないことを提案する」としている[23]
  • 支持療法:癌による諸症状を緩和するために行われる治療法である。痛みの緩和、消化器症状の緩和、栄養状態の改善、腹水のコントロール、精神的苦痛のケアなど、その範囲は多岐にわたる。症状コントロールにより抗癌治療の継続を可能にし、有効な抗癌治療がなくなった後でもQOLを保ち命を全うすることを可能とする。膵癌においてはほぼ全ての患者が癌により死亡するため、特に重要と考えられている。
  • 強力集束超音波治療法HIFU : これは2023年で治験の段階である。[要出典]

  1. ^ WHO Disease and injury country estimates”. 世界保健機関(World Health Organization) (2009年). 2008年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月11日閲覧。
  2. ^ がん情報サービス「がん登録・統計」 (Report). 国立がん研究センター.
  3. ^ a b 小林正伸『やさしい腫瘍学』(南江堂)p.106
  4. ^ 膵がんの転移や再発を司るがん幹細胞を発見 〜がんの芽を標的とした新たな治療法開発に光明〜熊本大学(2023年7月5日閲覧)
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  6. ^ Pancreatic adenocarcinoma NOW@NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)2021年4月7日閲覧
  7. ^ 肥満指数・運動量、喫煙・糖尿病歴と膵がんとの関連について、―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―、国立研究開発法人 国立がん研究センター
  8. ^ 飲酒と膵がん罹患の関連について、―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―、国立研究開発法人 国立がん研究センター
  9. ^ 肥満指数・運動量、喫煙・糖尿病歴と膵がんとの関連について、―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―、国立研究開発法人 国立がん研究センター
  10. ^ Omura T, Tamura Y, Kodera R, Oba K, Toyoshima K, Chiba Y, Matsuda Y, Uegaki S, Kuroiwa K, Araki A (April 2019). "Pancreatic cancer manifesting as Sister Mary Joseph nodule during follow up of a patient with type 2 diabetes mellitus: A case report". Geriatr Gerontol Int. 19 (4): 364. doi:10.1111/ggi.13602. PMID 30932308
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  12. ^ Howes N, Lerch MM, Greenhalf W, Stocken DD, Ellis I, Simon P, Truninger K, Ammann R, Cavallini G, Charnley RM, Uomo G, Delhaye M, Spicak J, Drumm B, Jansen J, Mountford R, Whitcomb DC, Neoptolemos JP (March 2004). "Clinical and genetic characteristics of hereditary pancreatitis in Europe". Clin. Gastroenterol. Hepatol. 2 (3): 252–61. doi:10.1016/S1542-3565(04)00013-8. PMID 15017610
  13. ^ Familial Atypical Multiple Mole Melanoma Syndrome NIH(アメリカ国立衛生研究所)2021年4月7日閲覧。
  14. ^ 糖尿病と癌に関する委員会『糖尿病と癌に関する委員会報告 (PDF) 』p.384(2021年10月20日閲覧)
  15. ^ 医師が膵がんを疑う最多のキッカケはこれだ・質問回答#103”. がん防災チャンネル・現役がん治療医・押川勝太郎. 2022年10月22日閲覧。
  16. ^ 伊佐地秀司監修『図解 決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法』
  17. ^ 消化器病学用語集(2021年12月29日閲覧)
  18. ^ 東海大学医学部外科学系消化器外科学 今泉俊秀『嚢胞性膵腫瘍の新しい概念 診断・治療の進歩と問題点 (PDF) 』(2021年9月22日閲覧)
  19. ^ Distinct methylation levels of mature microRNAs in gastrointestinal cancers nature communications(ネイチャー コミュニケーションズ)Published: 29 August 2019/2021年4月2日閲覧
  20. ^ 膵がんプロジェクト 尾道総合病院(2023年7月5日閲覧)
  21. ^ 膵臓がんの検診は「推奨しない」と米専門委”. 毎日新聞 (2019年8月25日). 2019年8月27日閲覧。
  22. ^ 伊佐地秀司「膵癌取扱い規約改訂第7版―大幅改訂のコンセプトと新規項目の解説―」『日本消化器病学会雑誌』第114巻第4号、2017年、617–626頁、doi:10.11405/nisshoshi.114.617 
  23. ^ 膵臓診療ガイドライン 2016年版” (PDF). 金原出版. (2016). 2019年10月31日閲覧。
  24. ^ 八千草薫さんがすい臓がんで逝去 「たちの悪いがん」と言われる理由(山本健人)”. Yahoo!ニュース 個人. 2019年10月31日閲覧。
  25. ^ 沈黙の膵臓がん[出典無効]


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