稲荷神
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歴史
伏見稲荷創建前史
伏見稲荷大社を創建したと伝えられる秦氏族について、『日本書紀』では次のように書かれている[9]。
- 欽明天皇が即位(539年または531年)する前のまだ幼少のある日「秦(はた)の大津父(おおつち)という者を登用すれば、大人になった時にかならずや、天下をうまく治めることができる」と言う夢を見て、早速方々へ使者を遣わして探し求めたところ、山背国紀伊郡深草里に秦の大津父がいた。
平安時代に編纂された『新撰姓氏録』記載の諸蕃(渡来および帰化系氏族)のうち約3分の1の多数を占める「秦氏」の項によれば、中国・秦から来たとする意見があるが、秦氏の始祖である弓月君は百済から到来した到来人であるという記録もあり、苗字を秦氏に変えた百済人とする意見もある[41]。
雄略天皇の頃には、当時の国の内外の事情から、多数の渡来人があったことは事実で、とりわけ秦氏族は絹織物の技に秀でており、後の律令国家建設のために大いに役立った[9]。朝廷によって厚遇されていたことがうかがわれるのも、以上の技能を高く買われてのことだと考えられている[9]。彼らは畿内の豪族として専門職の地位を与えられていた[9]。
伏見稲荷の創建
深草の秦氏族は、和銅4年(711年)稲荷山三ケ峰の平らな処に稲荷神を奉鎮し、山城盆地を中心にして伊奈利社(現・伏見稲荷大社)を建てた[9]。深草の秦氏族は系譜の上で見る限り、太秦の秦氏族、すなわち松尾大社を祀った秦都理《はたのとり》の弟が、稲荷社を創建した秦伊呂巨(具)となっており、いわば分家と考えられていたようである[9]。
『山城国風土記』逸文には、伊奈利社の縁起として次のような話を載せる[42]。秦氏の祖先である伊呂具秦公(いろぐの はたの きみ)は、富裕に驕って餅を的にした[42]。するとその餅が白い鳥に化して山頂へ飛び去った[42]。そこに稲が生ったので(伊弥奈利生ひき)、それが社の名となった[42][43]。伊呂具の子孫は、先祖の過去の過ちを悔いて、社の木を根ごと抜いて屋敷に植え、それを祀ったという[42]。また、稲生り(いねなり)が転じて「イナリ」となり「稲荷」の字が宛てられた[15]。
都が平安京に遷されると、この地を基盤としていた秦氏が政治的な力を持ち、それにより稲荷神が広く信仰されるようになった。さらに、東寺建造の際に秦氏が稲荷山から木材を提供したことで、稲荷神は東寺の守護神とみなされるようになった[13]。『二十二社本縁』では空海が稲荷神と直接交渉して守護神になってもらったと書かれている。神としての位階(神階)も、天長4年(827年)に淳和天皇より「従五位下」を授かったのを皮切りに上昇していき、天慶5年(942年)には最高の「正一位」となった[44]。
東寺では、真言密教における荼枳尼天(だきにてん、インドの女神ダーキニー)に稲荷神を習合させ、真言宗が全国に布教されるとともに、荼枳尼天の概念も含んだ状態の稲荷信仰が全国に広まることとなった[13]。荼枳尼天は人の心臓を食らう夜叉神で、平安時代後期頃からその本体が狐の霊であるとされるようになった[3]。この荼枳尼天との習合や、中国における妖術を使う狐のイメージの影響により、稲荷神の使いの狐の祟り神としての側面が強くなったといわれる[3]。
中世以降
稲の神であることから食物神の宇迦之御魂神と同一視され、後に他の食物神も習合した[13]。中世以降、工業・商業が盛んになってくると、稲荷神は農業神から工業神・商業神・屋敷神など福徳開運の万能の神とみなされるようになり、勧請の方法が容易な申請方式となったため、農村だけでなく町家や武家にも盛んに勧請されるようになった[45]。江戸時代には芝居の神としても敬われるようになり、芝居小屋の楽屋裏には必ず稲荷明神の祭壇が設けられるようになった[46]。
明治政府による神仏分離の際、多くの稲荷社は宇迦之御魂神などの神話に登場する神を祀る神社になったが、一部は荼枳尼天を本尊とする寺になった[24]。
編註
出典
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