時制 日本語

時制

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/13 15:33 UTC 版)

日本語

日本語では非過去が「ル」、過去が「タ」で表される[21][22]。この「ル」と「タ」は非過去形と過去形の語尾の代表であり、実際の語形は動詞によりほぼ規則的に導かれる。例えば語幹が有声阻害音の -b, -g, -n で終わる動詞では「タ」は有声化する(いわゆる撥音便・イ音便)ので、「飛ぶ」・「飛ん」、「泳ぐ」・「泳い」、「死ぬ」・「死ん」となる。

日本語の「タ」は過去ではなく完了を表し、日本語には時制はないとする意見もある。歴史的にも日本語の「タ」は テアリ > タリ > タ と変化して成立したものであり、元々は完了相を表した。しかし、近代の日本語においては概ね過去・非過去の対立で「ル」対「タ」の形が使い分けられており、その意味では時制があると見るのが妥当である[23]

平安時代までの日本語では、過去を表す助動詞は「き」と「けり」だった。前者は、過去にあって、それが今はなくなったという意味があり、後者は、現在の事態から過去に思いを馳せることを表す[24]。現代の「タ」と異なり、これらは絶対的な過去を表し、相対時制としては使われない。「き」を経験、「けり」を伝聞とする解釈もあるが、当てはまらないことがある[24]

英語

英語は、時制、相、法が形態的にはっきり分離しており、時間表現が非常に分析的である。

時制
(will)
動詞
完了 完結
-Ø (非過去)
-ed (過去)
Ø (単純)
will (未来)
Ø (単純)
have -en (完了)
Ø (完結)
be -ing (非完結)
do

ここで -en は過去分詞を表す。時制、法 (will)、完了相、完結相がそれぞれ 2 通りあるので、最も単純な do から最も複雑な would have been doing まで、全部で 24 = 16 通りの時間表現がある。

関連項目


  1. ^ a b c 亀井孝; 河野六郎; 千野栄一, eds. (1995), “時称”, 言語学大辞典, 6, 東京: 三省堂, pp. 635-638, ISBN 978-4385152189 
  2. ^ オットー・イェスペルセン「文法の原理」(1924)第20章
  3. ^ a b Nordlinger & Sadler 2004.
  4. ^ 石塚 2015.
  5. ^ Bybee & Perkins 1994.
  6. ^ Velupillai 2012, p. 194.
  7. ^ a b Jespersen, Otto (1933), Essentials of English Grammar, Routledge, ISBN 0415104408 
  8. ^ 樋口万里子「英語の時制現象に関わるSOAの意味役割」『九州工業大学情報工学部紀要 人間科学篇』第15巻、九州工業大学、2002年3月、49-70頁、ISSN 13439405NAID 110000080388 
  9. ^ 東郷雄二「Je t'attendais.型半過去再考」『フランス語学研究』第41巻第1号、日本フランス語学会、2007年、16-30頁、doi:10.20579/belf.41.1_16ISSN 0286-8601NAID 110009509866 
  10. ^ 早稲田みか (1995), ハンガリー語の文法, 東京: 大学書林, ISBN 4-475-01818-8 
  11. ^ a b 亀井孝; 河野六郎; 千野栄一, eds. (1995), “過去”, 言語学大辞典, 6, 東京: 三省堂, pp. 211-214, ISBN 978-4385152189 
  12. ^ 樋口万里子「英語の時制と現在完了形」『九州工業大学情報工学部紀要 人間科学篇』第18巻、九州工業大学、2005年3月、17-66頁、ISSN 13439405NAID 120002440901 
  13. ^ 松本克己 (2006), “言語圏として見たヨーロッパ”, 世界言語への視座 —歴史言語学と言語類型論—, 東京: 三省堂, ISBN 4-385-36277-7 
  14. ^ 亀井孝; 河野六郎; 千野栄一, eds. (1995), “未来”, 言語学大辞典, 6, 東京: 三省堂, pp. 1323-1324, ISBN 978-4385152189 
  15. ^ Pullum, Geoffrey K. (2008), “The Lord which was and is”, Language Log, http://itre.cis.upenn.edu/~myl/languagelog/archives/005471.html 2008年6月13日閲覧。 
  16. ^ 東郷雄二 (2005), “フランス語の隠れたしくみ 17. 時制を支えるふたつのゾーン”, ふらんす (白水社) 80 (8), http://lapin.ic.h.kyoto-u.ac.jp/france/cache17.pdf 
  17. ^ 東郷雄二 (2005), “フランス語の隠れたしくみ 18. 複合過去と単純過去の単純ではない関係”, ふらんす (白水社) 80 (9), http://lapin.ic.h.kyoto-u.ac.jp/france/cache18.pdf 
  18. ^ 亀井孝; 河野六郎; 千野栄一, eds. (1995), “大過去”, 言語学大辞典, 6, 東京: 三省堂, p. 870, ISBN 978-4385152189 
  19. ^ a b c Aikhenvald 2003, p. 183.
  20. ^ a b c Aikhenvald 2003, p. 185.
  21. ^ 伴映恵子「時制交替と述語 : 「テイル / テイタ」 と 「ル / タ」」『ことばの科学』第14号、名古屋大学言語文化部言語文化研究会、2001年12月、5-22頁、doi:10.18999/stul.14.5ISSN 1345-6156NAID 120000974544 
  22. ^ 樋口万里子「ル/タ、テイルの意味機能試論:認知文法の見地から」『九州工業大学情報工学部紀要 人間科学篇』第13号、九州工業大学、2000年3月、1-40頁、ISSN 13439405NAID 110000080374 
  23. ^ 寺村秀夫 (1984)『日本語のシンタクスと意味 II』p.76,くろしお出版.
  24. ^ a b 山口明穂; 鈴木英夫; 坂梨隆三; 月本雅幸 (1997), 日本語の歴史, 東京大学出版会, ISBN 4-13-082004-4 





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