扇状地 河川・地下水

扇状地

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/07 09:12 UTC 版)

河川・地下水

扇状地を形成している堆積物は大小さまざまな大きさのを多く含んでおり、大変水を通し易い。そのため、扇央部では河川の水のかなりの部分が地下へと浸透してしまい、地下水となる。この結果、扇央部にある地上の河川の流量は減り、場合によっては水を失い、地上の川が水無川となることもある。

流量の大きな河川が形成した大きな扇状地では、その流量と比較して河川の勾配が急であるため、典型的な網状流路(braided river)がみられる[10]

扇状地は上述のとおり、河床の堆積が激しいため河道の移動が大きい。人工堤防が形成された扇状地では、河道の移動ができないため、河床の堆積が進行し、周囲よりも河床の高い河川である天井川が形成されている[10]

扇状地を形成する堆積物の下には元から平地が存在するが、地上から浸透してきた河川の水は、この平地で大部分が受け止められる。受け止められた水は、そのまま地下を流れる伏流水となる。伏流水は扇端部で湧水として現れ、その先に小河川を作ることが多い。なお、扇頂下部では井戸が掘れ、さらに下がった扇央部では帯水層からの水圧を利用した自噴井が設置できる。

扇状地の土地利用

扇頂部
勾配が大きく面積も小さいため利用しにくいが、越えの交易路となる場合があり、宿場町的な谷口集落が立地する。
扇央部
河川の伏流により地下水位が低く乏水地となるため、水田には利用しにくい。このため未開発の雑木林になっている例が多かったが、戦前は北関東を中心に桑畑となり、戦後は果樹園や、上水道と交通網の整備により新興住宅地となっている例が見られる。また、富山平野那須野が原などでは用水の整備や客土などの土地改良により扇央部も水田化されている。
扇端部
湧水帯をなし水を得やすいため、古くから集落や農耕地(アジアでは水田)が立地する事が多い。また、西アジアの乾燥地では地下水路式の灌漑設備を用いて扇端部の集落・農地に導水する例が見られる。この灌漑設備はイランではカナートアフガニスタンではカレーズ、アラブ諸国ではフォガラ、中国ではカナルチンなどと呼ばれる。日本でも類似の灌漑設備がある。なお、扇状地の特性として、扇端部付近以外では地下水位が深く、扇端部付近以外ならば土木構造物の基礎等として十分の支持力を持っているので、その意味においては土木構造物を作りやすいと言える。ただし、傾斜地であることなどの問題は別である。なにより、扇状地はその成因からも明らかなように、土石流や洪水流の危険性が高い。

扇状地が多く発達する甲府盆地を例にすると、扇状地斜面は近世から近現代にかけて桑畑として利用され、近代山梨の主要産業となった養蚕業を支えた。戦後には養蚕業の衰退とともに転用され、甲府市ベッドタウン化が進み住宅地となったり、盆地東部ではブドウ・モモなどの果樹栽培に転用されている。

災害発生リスク

扇状地が形成される条件には、上流に土砂生産が活発な山系(大規模な崩壊地や地すべり地)が広がっていることがある。したがって、扇状地における土地利用には、集中豪雨時の土砂災害発生のリスク天井川化した河川からの洪水発生のリスクを抱えることになる。


  1. ^ a b c d 鈴木 1998, p. 298.
  2. ^ a b c 斉藤享治、「集水域の地形・地質条件による扇状地の分類」『地理学評論』 55巻 5号 1982年 p.334-349, doi:10.4157/grj.55.334
  3. ^ a b 鈴木 1998, p. 301.
  4. ^ a b c d 鈴木 1998.
  5. ^ Schumm, S. A. (1956): "Evolution of drainage systems and slopes in badlands at Perth Amboy, New Jersey." Bull. Geol. Soc. Amer., 67(5), p.597-646, doi:10.1130/0016-7606(1956)67[597:EODSAS]2.0.CO;2.
  6. ^ 渡辺光, 「日本の地形區」『地学雑誌』 61巻 1号 1952-1953年 p.1-7, doi:10.5026/jgeography.61.1
  7. ^ 門村浩 (1971): 扇状地の微地形とその形成.矢沢大二・戸谷洋・貝塚爽平編:『扇状地』古今書院, p.55-96
  8. ^ 齊藤滋, 福岡捷二, 「荒川扇状地における集落の展開と自然堤防の役割に関する研究」『土木学会論文集B1(水工学)』 67巻 4号 2011年 p.I_673-I_678, doi:10.2208/jscejhe.67.I_673
  9. ^ 鈴木 1998, p. 299.
  10. ^ a b 鈴木 1998, p. 302.
  11. ^ [Category:扇状地]
  12. ^ 別府の地形と地質「活火山鶴見岳から広がる扇状地」 別府温泉地球博物館
  13. ^ 別府温泉辞典 別府温泉地球博物館
  14. ^ 荒川宏、「大山火山北西部における火山麓扇状地の形成」『地理学評論 Ser.A』 57巻 12号 1984年 p.831-855, doi:10.4157/grj1984a.57.12_831
  15. ^ 近藤玲介、塚本すみ子、「北海道北部,利尻火山西部におけるOSL年代測定による古期火山麓扇状地の形成年代」『第四紀研究』 48巻 4号 2009年 p.243-254, doi:10.4116/jaqua.48.243
  16. ^ 火星で確認された「川と扇状地の跡」
  17. ^ ALLUVIAL FANS ON TITAN REVEAL MATERIALS, PROCESSES AND REGIONAL CONDITIONS






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