局所麻酔薬
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副作用
局所麻酔薬中毒
過量投与により、主として中枢神経系と心血管系に様々な症状が現れる。これは症状が多彩なため、アレルギー反応と間違われやすい[18]。近年は用語が多義的で誤解を招きやすい中毒よりも局所麻酔薬の全身毒性(英: local anesthetic systemic toxicity: LAST)と表記されることが増えてきている[19][20]。
中枢神経系
局所麻酔薬の組織内濃度に応じて、中枢神経系に興奮性または抑制性の作用が生じることがある。
全身毒性の初期症状には、耳鳴り、口の中の金属味、口のしびれまたは麻痺、めまいおよび/または見当識障害がある。
高濃度では、抑制性ニューロンの比較的選択的な抑制により脳が興奮し、末梢の運動痙攣に続いてけいれん発作を起こすなど、より高度な症状を引き起こすことがある。ブピバカイン、特にクロロプロカインとの併用で発作が起こりやすいと報告されている[21]。
さらに高濃度では脳機能の深部抑制が起こり、昏睡、呼吸停止、死亡に至ることがある[22]。このような組織濃度は、高用量の静脈内注入によるものである可能性がある。
心血管系
心臓毒性は、薬剤の血管への不適切な注入により生じることがある。適切な投与を行っても、患者の予見できない解剖学的特異性により、投与部位から体内に薬剤が拡散することは避けられない[21]。このため、神経系に影響を及ぼしたり、薬剤が全身循環に移行することがある。しかし、感染が伝播することは非常にまれである。
局所麻酔薬の血管内注射の過量投与に伴う心臓毒性は、低血圧、房室伝導遅延、心室固有調律、および最終的な心血管系虚脱によって特徴づけられる。すべての局所麻酔薬は心筋の不応期を短縮する可能性があるが、ブピバカインは心筋のナトリウムチャネルを遮断するため、致死的不整脈を誘発する可能性が最も高い。心血管系の副作用を改善するために開発されたレボブピバカインとロピバカイン(単一光学異性体誘導体)でさえ、心機能を破綻させる可能性を持つ[23]。麻酔薬の組み合わせによる毒性は相加的である[21]。
内分泌系
内分泌系と代謝系にはわずかな副作用しかなく、ほとんどの場合、臨床的な反応はない[21]。
LASTの治療
下記の治療法が提唱されている[20]。
- 局所麻酔薬の投与をやめる/応援を求める
- 気道確保
- ベンゾジアゼピンによる痙攣抑制
- 必要に応じて心肺蘇生
- 20%脂質エマルジョン1.5mL/kg(2~3分以上かけてボーラス投与)(リピッドレスキューの項を参照)
リピッドレスキュー
この中毒治療の方法は、1998年にガイ・ワインバーグ博士によって考案されたが、2006年に初めて救命の成功例が発表されるまで、広く使用されるには至らなかった。一般に市販されている脂肪乳剤であるイントラリピッドが、局所麻酔薬の過量投与に続発する重度の心毒性の治療に有効であることを示す証拠があり、この方法での使用(リピッドレスキュー)に成功したヒトの症例報告もある[24][25][26]。しかし現時点ではまだエビデンスは限られている[27]。
現在までのほとんどの報告では、一般に入手可能な静脈内脂質乳剤であるイントラリピッドを使用しているが、リポシンおよびメディアリピッドのような他の乳剤も有効であることが示されている。
動物実験による十分なエビデンス[28][29]やヒトの症例報告では、この方法での使用が成功している[25][26]。英国では、この使用をより広く公表する努力がなされ[24]、リピッドレスキューは現在英国・アイルランド麻酔科医協会により治療法として公式に推進されている[30]。ブプロピオン及びラモトリギンの過量投与における難治性心停止の治療に脂質乳剤が成功したという1例の報告が発表されている[31]。
「自家製の」リピッドレスキューキットの組成も発表されている[32]。
リピッドレスキューの作用機序は完全に理解されていないが、血流中の添加脂質はシンクとして作用し、患部組織から親油性毒素を除去することができるのかもしれない。この理論は、ウサギのクロミプラミン毒性に対するリピッドレスキューに関する2つの研究[33][34]、モキシデクチンの子犬を治療するためにリピッドレスキューを使用するという獣医学の臨床報告[35]と一致するものであった。
免疫学的アレルギー(アナフィラキシー)
局所麻酔薬(特にエステル型)に対する有害反応は珍しくないが、厳密な意味でのアレルギーやアナフィラキシーは非常にまれである[18]。エステルに対するアレルギー反応は通常、その代謝物であるパラアミノ安息香酸に対する過敏性に起因し、アミド型に対する交差アレルギーには至らない[36]。そのため、アミド型局麻はそのような患者の代替品として使用することができる。非アレルギー性反応(例えばLAST)は、その症状においてアレルギーに類似している場合がある。場合によっては、アレルギーの診断を確立するために、皮膚テストおよびチャレンジ試験が必要となることがある。また、局所麻酔薬に防腐剤として添加されることの多いパラベン誘導体に対するアレルギーの症例もある。
メトヘモグロビン血症
メトヘモグロビン血症は、ヘモグロビン中の鉄が変化して酸素運搬能力が低下し、チアノーゼや低酸素症の症状が現れるものである。ベンゾカイン、リドカイン、プリロカインなどのアニリン系化学物質にさらされるとこの作用が現れ、特にベンゾカインが顕著である[36]。プリロカインの全身毒性は比較的低いが、その代謝物のo-トルイジンはメトヘモグロビン血症を引き起こすことが知られている。
世代間の影響
体外受精における卵子摘出時に局所麻酔薬を使用することについては、議論がある。卵胞液中に薬理学的濃度の麻酔薬が検出されている[21]。臨床試験では、妊婦への影響については結論が出ていない。しかし、ラットにおけるリドカインの子孫への行動上の影響については懸念されている[21]。
妊娠中、局所麻酔薬が胎児に何らかの悪影響を及ぼすことは一般的ではありないこれにもかかわらず、妊娠中は局所麻酔薬のタンパク非結合分画が増加し、生理的変化によって中枢神経系への局所麻酔薬の移行が増加するため、毒性のリスクが高くなる可能性がある[21]。したがって、妊婦は、潜在的合併症を減らすために低用量の局所麻酔薬を使用することが推奨されている[37]。
注釈
- ^ 2023年現在の日本では定説がない。
出典
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