女王蜂 (横溝正史) 女王蜂 (横溝正史)の概要

女王蜂 (横溝正史)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/04 23:52 UTC 版)

金田一耕助 > 女王蜂 (横溝正史)
女王蜂
著者 横溝正史
発行日 1952年
発行元 講談社
ジャンル 小説
日本
言語 日本語
ページ数 336
コード ISBN 4041304113
ISBN 978-4041304112(文庫本)
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作者は本作を自選ベスト10の9位に挙げてはいるが、自選は7位までで8位以下は文庫本の売れ行き順であり、「(8位以下の作品を)ベスト10に入れるとなると躊躇せざるをえない」とも記している[1]

本作を作者の代表作と見なす者は少ない[注 2]が、華やかな人物配置や背景、20年に及ぶ因縁のドラマなどが好まれて映像化の機会が多く、映画2作品、テレビドラマ5作品が制作されている。

あらすじ

1951年昭和26年)5月、伊豆の南方にある月琴島で育てられた大道寺智子は、数日後に迎える18歳の誕生日に、祖母の槙と家庭教師の神尾秀子とともに、義父・大道寺欣造の住む東京の屋敷に引き取られることになっていた。智子は、東京行きの直前に、好奇心に駆られて別館の開かずの間に入ったところ、そこには血がついて折れた月琴があった。その頃、東京からの迎えとして月琴島出身の行者・九十九龍馬と金田一耕助が来訪する。

「月琴島からあの娘をよびよせることをやめよ」「19年前の惨劇を回想せよ。あれは果たして過失であったか。何人(なんびと)かによって殺されたのではなかったか。」という警告の手紙を読んだ欣造と、もう1人同じ警告の手紙が届けられた「覆面の依頼者」(名を明かせないという意味)から相談を受けた加納弁護士は、金田一に智子の護衛を依頼していた。金田一は加納弁護士に19年前の出来事とその後の顛末を聞き出す。

19年前、1932年(昭和7年)7月、学生だった速水欣造(現在の大道寺欣造)と友人の日下部達哉が月琴島を訪れ、滞在中に日下部は大道寺琴絵と契りを結ぶ。2人が島を去ったあとに妊娠に気付いた琴絵からの報せを受け、日下部は10月中旬に月琴島を再訪するが、彼はそこで崖から落ちて不慮の死を遂げる。状況は事故のように思われたが、日下部が島から「覆面の依頼者」宛に送った謹厳な手紙の中に、ふざけたような調子で蝙蝠ライカで撮って送ることが書かれていた。「覆面の依頼者」は、琴絵の子供を私生児にしないために欣造をくどいて名義上の結婚をさせ、これにより欣造は大道寺家の婿養子となった。しかし、琴絵は日下部との子供の智子が5歳の年に死去する。その後、欣造は「覆面の依頼者」の後援もあって、現在は実業界に羽振りを利かせる地位に就いているとのことであった。

そうして、智子一行が月琴島から修善寺のホテル・松籟荘に到着すると、そこには欣造と蔦代、2人の間の子供の文彦が待っていた。その後、欣造の薦める智子の花婿候補である3人の男、遊佐三郎、駒井泰次郎、三宅嘉文も到着し、さらには謎の黒眼鏡をかけた老人と、謎の手紙で呼び出されたギリシャ彫刻風の見事な肉体を持つ多門連太郎と名乗る青年も松籟荘に泊まっていた。智子が手紙で時計台に呼び出されると、そこには遊佐が血にまみれで殺されていた。現場には多門もいたが、自分が来た時には遊佐は既に殺されていたと言い、智子の唇を奪うと、調べられると困るからと言って逃走し、謎の老人も姿を消していた。

さらにその翌朝、ホテルの庭番の姫野東作老人の絞殺死体が見つかった。調べにより、姫野は遊佐よりも先に殺されていたことが判明する。また、姫野が殺される小一時間前に、秀子が姫野と遊佐の会話を小耳に挟んでおり、その会話は19年前の月琴島での出来事らしきことと、「あいつは蝙蝠だ、実に変な蝙蝠だった」と姫野が言うものであった。それらにより、19年前の惨劇の秘密の一端を知るらしい姫野殺害が主で、「蝙蝠」と名指された人物が疑われるので遊佐の口も塞いだという構図が明らかになった。そして、遊佐と多門の会話を聞いていた文彦の証言から2人が元々知り合いであることなども判明した。さらに姿を消した謎の老人が加納弁護士の元へ駆け込んだこと、その人物は実は元・宮様の衣笠氏であることが判明した。加納弁護士は明らかにしないが、衣笠氏が「覆面の依頼者」であるらしい。

5月末に金田一は大道寺家を訪れ、日下部達哉が19年前にライカで撮影したネガを大きく引き伸ばした写真を一同に見せた結果、姫野は19年前の惨劇時に月琴島を訪れていた旅役者一座の座頭・嵐三朝であることが判明した。ところが、大道寺家を辞した金田一が闇夜の中、殺意を持った何者かの襲撃を受ける。しかも、気が付くと引き伸ばした写真もいつの間にか奪われていた。さらに、写真を引き伸ばしてもらった新日報社の宇津木の手からネガも奪われていた。しかし、このことにより写真には犯人にとって致命的な証拠が写っていたことが分かった。また、宇津木の調査により、日下部は衣笠宮の亡き第二王子で、智子は衣笠氏の孫であることも判明した。

そして6月6日、歌舞伎座で修善寺に集まったメンバーが全員参集する中、智子と多門が再会を果たす。2人の会話を盗み聞きしていた金田一は、2人を結び付けようとする人物がおり、その人物が衣笠氏らしいことを知る。そこへ2人の会話中に駆け込んできた宇津木が、今度は三宅が殺害されたとの報せをもたらす。

登場人物

  • 金田一耕助(きんだいち こうすけ) - 私立探偵
  • 等々力大志(とどろき だいし) - 警視庁警部
  • 亘理(わたり) - 修善寺警察署署長
  • 工藤(くどう) - 下田警察署署長
  • 宇津木慎介(うつぎ しんすけ) - 新日報社調査部社員、金田一の同郷の後輩。
  • 大道寺鉄馬(だいどうじ てつま) - 源頼朝の血を引くという伝承を持つ旧家の先代。故人
  • 大道寺槙(だいどうじ まき) - 鉄馬の妻。
  • 大道寺琴絵(だいどうじ ことえ) - 鉄馬の娘、智子が5歳の時に死亡。
  • 大道寺欣造(だいどうじ きんぞう) - 琴絵の夫(婿養子)。智子を私生児にしないために戸籍上夫婦になったに過ぎず、智子と血の繋がりは無い。
  • 大道寺智子(だいどうじ ともこ) - 琴絵の娘、絶世の美女。
  • 大道寺文彦(だいどうじ ふみひこ) - 欣造と蔦代の息子、義理の姉にあたる智子を慕う。
  • 蔦代(つたよ) - 元大道寺家女中、欣造の愛人(実質的には妻)で文彦の実母。
  • 神尾秀子(かみお ひでこ) - 琴絵・智子の家庭教師、美人で編み物が好き。
  • 伊波良平(いなみ りょうへい) - 大道寺家執事、蔦代の兄。
  • 九十九龍馬(つくも りゅうま) - 月琴島出身、加持祈祷行者で、政財界にも影響力を持つ怪人物。
  • 遊佐三郎(ゆさ さぶろう) - 智子の婿候補者の一人、時計室で刺殺される。
  • 駒井泰次郎(こまい たいじろう) - 智子の婿候補者の一人。
  • 三宅嘉文(みやけ よしぶみ) - 智子の婿候補者の一人。
  • 姫野東作(ひめの とうさく) - ホテル松籟荘使用人、絞殺死体で見つかる。
  • 衣笠智仁(きぬがさ ともひと) - 元宮様、ホテル松籟荘の前の持ち主。
  • 日下部達哉(くさかべ たつや) - 欣造の友人で智子の本当の父、正体は衣笠宮の第二王子・智詮(ともあきら)。19年前、学生のときに島を訪れ琴絵と結ばれるが、謎の死を遂げる。
  • 多門連太郎(たもん れんたろう) - 特攻隊帰りですさんだ生活をしている。美貌で優れた肉体美を持ち、遊佐と面識がある。
  • カオル - 連太郎の恋人、キャバレー「赤い梟」のダンサー。
  • 加納辰五郎(かのう たつごろう) - 加納法律事務所所長

注釈

  1. ^ 1931年(昭和6年)に雑誌『文学時代』に発表された本作と同名の短編があり、角川文庫版『殺人暦』に収録されている。中島河太郎による同書の解説では、同名の短編の内容は本作とは特に関連がなく、他にも同様に『仮面舞踏会』『迷路の花嫁』といった作品など、同名で内容が異なる短編と長編が存在する例が挙げられている。
  2. ^ 二上洋一は本作を「『本陣殺人事件』や『獄門島』の系列に属しながら、後位に置かれる」と評している[2]
  3. ^ 犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『獄門島』の3作。

出典

  1. ^ 真説 金田一耕助』(横溝正史著・角川文庫、1979年)の「わたしのベスト10」参照。
  2. ^ 江藤茂博、山口直孝、浜田知明 編『横溝正史研究 5』戎光祥出版株式会社、2013年3月29日、158-167頁。"血統と伝承のレトリック 鈴木俊輔"。 


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