劣化ウラン弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/08 05:18 UTC 版)
毒性
劣化ウラン弾は以下の2つの点で人体に被害を与える恐れがあるため、実戦や演習・射撃訓練で劣化ウラン弾を使用し、自然環境に劣化ウランを放散させることの是非について、たびたび議論される。
重金属毒性
放射性
劣化ウランは、主体を占めるウラン238、ウラン濃縮過程で取りこぼされたウラン235、それらの子孫核種からなっており、放射能を持つ放射性物質である。 劣化ウランの比放射能は14.8 Bq/mgであり[7]、天然ウランの25.4 Bq/mgと比較すると約6割と低い。
価格
劣化ウラン弾はタングステン弾に比べて原料費が安い分製品価格も安価であるという誤解が散見されるが、前述のように加工コストが莫大なために、納入価格はタングステン弾とさほど変わらない。なお劣化ウラン弾の価格についてはAPFSDSを参照のこと[5]。
使用しているとされる兵器
![](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fwikipedia%2Fcommons%2Fthumb%2F7%2F7c%2FM829.jpg%2F140px-M829.jpg)
- PGU-14/B
- アメリカ空軍の30ミリ砲弾。約 300g の貫通芯のうち 99.25% が劣化ウラン。フェアチャイルドA-10AサンダーボルトII攻撃機 のGAU-8/Aで使用される。
- M735A1
- アメリカ陸軍105ミリ砲弾。約 2.2kg の劣化ウラン貫通体を持つ。M1戦車およびM60パットンの主砲が使用。
- M774
- 約 3.4kg の劣化ウラン貫通体を持つ。使用は M735A1 に準じる。
- M829・M829E1・M829E2
- 約 4.9kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の120ミリ砲弾。M1A1戦車およびM1A2戦車の主砲が使用。
- M833
- 約 3.7kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の105ミリ砲弾。EX35 の105ミリ砲のシステムで使われる。
- XM919
- 約 85g の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の25ミリ砲弾。主としてM2ブラッドレー歩兵戦闘車で使われる。
- XM900E1
- 約 10kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の105ミリ砲弾。
- MK149-2 20ミリ砲弾
- 艦艇のファランクス対空迎撃システムに利用。使用は Block0 のみ。1988年以降タングステン弾芯に移行。
これら以外にも、防御用としてM1A1(HA)戦車、M1A2戦車の装甲用構成部品として劣化ウラン装甲が使用されている。
トマホーク巡航ミサイルにも劣化ウランが使われているとの疑惑があったが、1999年に米国防総省が不使用を明言しており、事実トマホークのステルス性や誘導性に悪影響を及ぼしかねないため、標準搭載する必要性はない。新型のタクティカル・トマホークの地下貫通型については使用されている可能性があるものの、2005年春の時点では未配備であるため確認は取れていない。
バンカーバスターにおいては、BLU-109/B についてロッキード社の特許申請書において劣化ウランの採用が明記されている[要出典]。
概要に記載されているとおり、アメリカ以外ではイギリス、フランス、ロシア、中国、カナダ、スウェーデン、ギリシャ、トルコ、イスラエル、サウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、エジプト、クウェート、パキスタン、タイ、台湾、韓国などが劣化ウラン弾を配備している[2]。
このうちイギリスは、主力戦車チャレンジャー2の近代化改装に伴う主砲換装に伴い、ラインメタル社の55口径120mm滑腔砲を搭載する見込みであったことから、使用砲弾に砲製造会社の純正品を用いる方針により劣化ウラン弾の新規生産を停止した。予算不足により長らく滞っていた主砲換装計画であったが、2021年5月、チャレンジャー2→チャレンジャー3のアップグレードが発表されるとともに搭載砲がラインメタルのL/55A1に決定されたため、既存車両の退役にしたがって主力戦車の主砲弾として配備されている劣化ウラン弾は順次廃棄されてゆく見込みである。
ドイツ(旧西ドイツ)は、環境汚染を理由に冷戦時代から今日までレオパルト2戦車でタングステン砲弾を使用し続けている。
日本の自衛隊も2014年の時点ではタングステン砲弾を配備しており、劣化ウラン弾は保持していない。海上自衛隊が保有する護衛艦の一部に搭載されている対空迎撃システム、ファランクス CIWS の最初の量産モデルである Block0 のメーカー純正弾頭には劣化ウラン弾が採用されていたが、海上自衛隊では弾薬を国産化し、アメリカ製の劣化ウラン弾は当初(くらま搭載時)より使用していない。また、アメリカにおいても後継の量産モデルである Block1(1988年)からは劣化ウラン弾の使用を止めている。
実戦での使用実績
1991年の湾岸戦争で、米軍がイラク戦車部隊に使用した。使用量は公式には約300トンである。
その後、NATO による PKF 多国籍軍がボスニア紛争およびコソボ紛争に介入し、ボスニアで約1万発、コソボでは約3万発の劣化ウラン弾を使用したことを公式に認めている。
また、2003年3月以降のイラク戦争でも、米軍は劣化ウラン弾を大量に使用したといわれている。人道支援・戦後復興支援のためにイラクに派遣された陸上自衛隊が駐留したサマーワ郊外においても、米軍がイラク戦争時に使用したものとみられる劣化ウラン弾が複数発見されている。
2015年11月16日と22日、米軍はISへのA10攻撃機によるISの石油タンクローリーの車列を標的とした空爆において対戦車用の劣化ウラン弾を使用した[8]。
- ^ ただし精製時での話であり、その後放射性崩壊の発生により、時間経過につれて微量ながら不純物が増加してゆく
- ^ 軍事研究2003年5月号、軍事研究2004年8月号
- ^ “米国の劣化ウラン弾の供与は「犯罪行為」 ロシアが主張”. CNN (2023年9月7日). 2023年9月9日閲覧。
- ^ “劣化ウラン弾の健康リスク、米国防総省がロシアに反論”. CNN (2023年9月8日). 2023年9月9日閲覧。
- ^ a b 一戸崇雄著 『現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS』 「軍事研究」2008年8月号 (株)ジャパン・ミリタリー・レビュー 2008年8月1日発行
- ^ 平成13年度、ダイキン工業株式会社による高速飛翔体の比較実験より
- ^ 国際原子力機関 劣化ウラン Q&A[1]
- ^ 米軍、対IS空爆で劣化ウラン弾使用、国防総省 AFP(2017年02月17日)2017年02月17日閲覧
- ^ a b “WHO モノグラフ”. 2003年8月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年7月16日閲覧。
- ^ “米軍、被ばく恐れ環境調査せず 沖縄・鳥島の劣化ウラン弾誤射 政府の説明と矛盾”. 沖縄タイムス (2019年5月8日). 2019年5月26日閲覧。
- 劣化ウラン弾のページへのリンク