共依存 共依存の概要

共依存

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/23 13:26 UTC 版)

自己中心性とは、自分と他人が区別できないことである。

共依存という概念は、医療に由来するものではなく、看護現場サイドから生まれた[6]。共依存と呼ばれる前はCo-alcoholic(アルコール依存症の家族)と呼ばれ[7]、当初は「アルコール依存症患者との関係に束縛された結果、自分の人生を台無しにされてしまっている人々」の特徴を説明するために使われていた[8]アルコール依存症患者を世話・介護する家族らは、患者自身に依存し、また患者も介護する家族に依存しているような状態が見受けられることが、以前より経験則的にコメディカルらによって語られていたからである[7]

共依存にある状況では、依存症患者がパートナーに依存し、またパートナーも患者のケアに依存するために、その環境(人間関係)が持続すると言われている。典型例としては、アルコール依存の夫は妻に多くの迷惑をかけるが、同時に妻は夫の飲酒問題の尻拭いに自分の価値を見出しているような状態である[9][10]。こういった共依存者は一見献身的・自己犠牲的に見えるが、しかし実際には患者を回復させるような活動を拒み(イネーブリング)、結果として患者が自立する機会を阻害しているという自己中心性を秘めている[1][3][9]

共依存者の多くは、お互いの依存を健全なる愛や支援などと捉えて判断する者があるが、この概念が覆るとき、両者は苦痛や疲労や無力感などを背負う。また他者より、共依存という関係を否定されたり責められると、強烈な自己否定感から精神的安堵を求め、更に強い共依存の関係を求めやすく、その行動や言動を改善する事とは逆に、共依存であることを煽る場合もあり最悪の場合は自殺する者もいる。そのため治療の場においては、第三者の適切で繊細な支援やケア、または共依存の歪みの克服をする機会でもあり、それまで学ばなかったことを新たに学びを得るための心理教育などが必要となる。

アルコール依存以外への概念の広がり

これはアルコール依存症だけではなく、ギャンブル依存症の家族、ドメスティックバイオレンス(DV虐待)、機能不全家族などにも見られる現象であると言われている[3][2][8]。単にアルコール依存症患者家族との関係だけでなく、「ある人間関係に囚われ、経済的、精神的、身体的に逃れられない状態にある者」としての定義が受け入れられている[3][6]

暴力をふるう夫とそれに耐える妻のDV関係、ギャンブル、アルコール依存者の求める欲求、借金を本人に代わり穴埋めする家族(子を含む)、存在価値や承認欲求を満たすために支配的となるからの無償の愛を受けたい子供の親子関係が逆転すること、家庭以外になると相手から自身の存在価値や承認欲求を認められたいために依存と愛の区別がつかないことで、されることが目的となっている恋愛関係などがある。この観点から、自立できない子供のパーソナリティ障害・恋愛における自己愛的な障害にまで共依存の概念が検討され、使用されるようになっている。

共依存関係は、一見すると献身的に見え、共依存者は「だって私が見捨てたらあのひとは生きていけない」などの発言をすることが多い[7]。しかし行き過ぎて自身以外の他人の世話をすることは、結果として当人や双方の能力を奪い、無力化し、その人の生殺与奪を自分次第とする支配になり得る[7]。愛情という名に「完璧に支配しているという快感」を得たいというエゴイズムが隠されている[7]。人のために尽くすことは一見すると良いこととして捉えがちであるが家庭内に問題があっても外の世界で他者の生活などを支援する、手伝うという場面において、本人が必死になれば出来るはずの能力も奪う結果になり健康的な依存から共依存の関係に成立しやすい。

共依存という概念は、正しく使えば他者と自己との分離、精神的な自律に役立つ。しかし、共依存に対する誤った認識を持つと、「自分が共依存であるからいけないんだ」という考えにより自らを追い込む可能性があり、注意が必要である。そもそも人間関係において誰かに依存するということは病理とは認定されておらず、あくまでも当事者自身が関係に苦痛を感じていることが問題とされる[2]

現象と問題点

共依存者には以下の特徴が見られる。

共依存の二人は、自己愛の未熟な人間が多いと言われたり、パーソナリティ障害であるケースが多いと言われているが、これはアルコール依存症やアダルトチルドレン、それにパーソナリティ障害精神病理から導かれたところが多い。その理由として、共依存者も被共依存者も、他者の価値に依存する傾向が多いということが言われている[5]

例えば、アルコール依存症の家族では患者のアルコール依存を認めるような傾向が認められ、それが患者のアルコール飲酒をさらに深める(イネーブリング[10][7]。共依存者パートナーは、アルコール依存者が依存の直中にある時は精力的で強力であるが、患者がアルコールから回復すると逆に抑うつ状態に陥ったりする[1][7]

またアダルトチルドレンにおいては、両親が自分の評価のために子供を利用し、そのため子供は大人になっても両親からの自立に困難が生じるようになり、自分自身の力のみで自立ができないのである[5]。また、パーソナリティ障害においては、そもそも親が子供に依存的であることが多い。アダルトチルドレンと同様、大人になると子供は他者に依存して、その他者に自分の要望を過度に期待するケースがみられ、それと同時に「これではいけない、これでは駄目だ」等、完璧主義が故に過度に自身を抑圧する状態に陥り、解決の糸口を見出すどころか、自ら墓穴に陥りやすいことも考えておかなければいけない。

共依存の問題点は、被共依存者が回復する機会を失うことだけでなく、共依存に巻き込まれた者がストレスを抱え込み、精神的な異常を訴えたり、さらには関係性に悩み、自殺する場合もある。よって、共依存を引き起こさないためには、医療関係者、専門家、援助者が、共依存を引き起こす者と接する場合には一定の距離を取り、個人的な関係にならないことが必要である[5][12]


  1. ^ a b c B.J.Kaplan; V.A.Sadock『カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開』(3版)メディカルサイエンスインターナショナル、2016年5月31日、Chapt.20.1。ISBN 978-4895928526 
  2. ^ a b c 信田さよ子 1999, pp. 171–173.
  3. ^ a b c d e 春日武彦 2011, pp. 35–39.
  4. ^ 信田さよ子 1999, pp. 40–44, 173–175.
  5. ^ a b c d e f g h i j 信田さよ子 1999, pp. 175–180.
  6. ^ a b 信田さよ子 1999, pp. 168–171.
  7. ^ a b c d e f g 信田さよ子 1999, pp. 40–44.
  8. ^ a b メロディ・ビーティ 1999, pp. 68–71.
  9. ^ a b 信田さよ子 1999, pp. 40–44, 171–173.
  10. ^ a b c d e f 春日武彦 2011, pp. 126–131.
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m メロディ・ビーティ 1999, Chapt.4.
  12. ^ a b 春日武彦 2011, pp. 173–178.
  13. ^ 看護師および介護士における共依存傾向の特徴と精神的健康との関連 森秀美 桜美林大学大学院 国際学研究科 老年学専攻 2018年7月8日閲覧
  14. ^ a b c Codependents Anonymous: Patterns and Characteristics Archived 2013年8月24日, at the Wayback Machine.
  15. ^ Psychology division chief at Albert Einstein College of Medicine”. WebMD. 2014年12月5日閲覧。
  16. ^ Codependency and Borderline Personality Disorder: How to Spot It”. Clearview Women’s Center. 2014年12月5日閲覧。
  17. ^ Rappoport, Alan, PhD. Co-Narcissism: How We Adapt to Narcissistic Parents. The Therapist, 2005.
  18. ^ Simon Crompton, All About Me: Loving a Narcissist (London 2007) p. 157 and p. 235
  19. ^ Crompton, p. 31
  20. ^ Cermak, Timmen L. (1986). “Diagnostic Criteria for Codependency”. Journal of Psychoactive Drugs 18 (1): 15-20. doi:10.1080/02791072.1986.10524475. ISSN 0279-1072. PMID 3701499. 
  21. ^ Lancer, Darlene (2014), Conquering Shame and Codependency: 8 Steps to Freeing the True You, Minnesota: Hazelden, pp. 63-65, ISBN 978-1-61649-533-6 
  22. ^ a b c d Benjamin J. Sadock & Virginia A. Sadock (2000), Kaplan & Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry on CD (7 ed.), Lippincott Williams & Wilkins, Codependence, ISBN 0-7817-2141-5 
  23. ^ Gomberg, Edith S Lisansky (1989). Gomberg, Edith S. ed. “On Terms Used and Abused: The Concept of 'Codependency'”. Drugs & Society 3 (3-4): 113-32. doi:10.1300/J023v03n03_05. ISBN 978-0-86656-965-1. https://books.google.co.jp/books?id=fjyJ3QWJgPQC&pg=PA113&redir_esc=y&hl=ja. 
  24. ^ Collet, L (1990). “After the anger, what then? ACOA: Self-help or self-pity?”. Family Therapy Networker 14 (1): 22-31. 


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