位相空間 収束

位相空間

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/14 23:08 UTC 版)

収束

本節の目標は、位相空間上での収束概念を定義し、収束概念によってこれまで述べてきた様々な概念を捉え直す事にある。 位相空間における収束概念は、距離空間における点列の収束概念を適切に修正する事により得られる:

定義 (距離空間における点列の収束) ― 

相異なる2点を分離するそれぞれの開近傍

定理・定義 (ハウスドルフ性) ―  位相空間において、下記の2つの性質は同値である。これらの性質の1つ(したがって両方を満たす事)をハウスドルフ性もしくはハウスドルフの分離公理といい、ハウスドルフ性が成り立つ位相空間をハウスドルフ空間もしくはT2-空間という[12]

  • X上の任意の有向点族に対し、 が収束すればその収束先は一意である。
  • X上の任意の2点xyに対し、xの開近傍Uと、yの開近傍Vが存在しUV'=∅

なお、ハウスドルフ性は数ある「分離公理」の一つであり、「T2-空間」という名称も「T1-空間」や「T3-空間」といった他の分離公理と区別するための名称である。詳細は本項の分離公理の説明分離公理の項目を参照されたい。

収束による諸概念の再定式化

有向点族の収束概念を用いると、閉包の概念を収束によって捉え直す事ができるようになる:

定理 (有向点族による特徴づけ) ―  Aを位相空間Xの任意の部分集合とき、以下が成立する:

  • Aは閉集合である⇔A上の有向点族(xλ)λ∈ΛaXに収束するものがあれば、aAである[13]
  • aAの閉包に含まれる⇔A上のある有向点族(xλ)λ∈Λが存在し、(xλ)λ∈Λaに収束する[13]
  • aAの集積点である⇔上のある有向点族(xλ)λ∈Λが存在し、(xλ)λ∈Λaに収束する[13]

上の定理の閉集合に関する部分は以下のように非常に簡単に示せる。他のものの証明も同様である:

距離空間では、点列の収束概念を用いて閉包や閉集合を同様にして特徴づけができる事が知られており、上記の2つの定理はこの特徴づけを一般の位相空間に拡張したものである。しかし一般の位相空間の場合、上記2定理で述べられているように、距離空間と違い「点列」ではなく「有向点族」で特徴づける必要がある。

なぜなら点列の添字が全順序な可算集合であるという制約が原因で、一般の位相空間の性質を記述するには不足であり、点列の概念で閉集合や開集合を特徴づけるには位相空間の方にも可算性に関する条件を満たす必要があるからである。詳細は列型空間を参照されたい。

二重極限の定理

次に有向点族の二重極限に関する定理を紹介する。後述するように、この定理は有向点族の極限で位相を特徴づける際に役立つ。定理を記述するため、まず有向集合の直積に有向集合構造が入る事を見る:

命題・定義 (有向集合の直積) ―  (Γλ)λΓを有向集合の族とするとき、(Γλ)λΓの集合としての直積

という順序を入れると、は有向集合になる。この順序をいれた(Γλ)λΓの有向集合としての直積という。

定理 (二重極限の定理(: Theorem on Iterated limit[14]) ―  Λを有向集合とし、各λΛに対し、Γλを有向集合とし、を位相空間とする。 各λΛに対し、有向集合Γλを添え字とするX上の有向点族が、yλに収束するとし、さらに有向点族zに収束するものとする。

(Γλ)λΛの直積をとし、有向点族を考える(ただしと定める)。

このときzに収束する[14][15]

極限による位相の特徴づけ

最後に有向点族による極限概念によって位相が特徴づけられる事を見る:

定理 (極限による位相の特徴づけ[16][15]) ―  Xを集合とし、X上の有向点族とXの点の組からなるクラスとする。

であるときy-収束するという事にするとき、以下が成立するとする:

  • xλが恒等的にyに等しければ、y-収束する
  • y-収束するとき、の任意の部分有向点族もy-収束する
  • y-収束しないとき、の部分有向点族のいかなる部分有向点族もy-収束しないものが存在する。
  • 二重極限の定理で「収束」を「-収束」に置き換えたものを満たす。

このときX上の位相構造における有向点族の収束が-収束に一致するものが唯一存在する。における閉包作用素は具体的には以下のように書ける:

y-収束する

注釈

  1. ^ a b ただしここで言う「収束性」は点列の収束性ではなくより一般的な有向点族の収束性である。
  2. ^ a b c pノルムLpノルム、に関連するノルムとして、pノルム Lノルム があり、これらはp→∞としたものに一致する。同様にソボレフノルムp→∞としたノルム も定義可能である。
  3. ^ 距離から定まる位相はハウスドルフ性正規性を満たすが、密着位相はハウスドルフ性を満たさない。また補有限位相や補可算位相においては空でない任意の開集合の閉包は全体集合であるため、任意x, yXの任意の閉近傍は全体集合になってしまう為正規性を満たさない。
  4. ^ ザリスキー位相はハウスドルフ性を満たさないから。
  5. ^ より厳密に言うと、有向集合(Λ,≤)と、ΛからXへの写像x : ΛXの組の事をΛを添字集合とする有向点族と呼ぶ

出典

  1. ^ 平場誠示. “解析学III 関数解析”. 東京理科大学. p. 6. 2021年2月5日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k #内田 pp.68-73.
  3. ^ a b #内田 p.71.
  4. ^ a b 位相空間#Kelly p.43.
  5. ^ a b c d #内田 pp.73-74.
  6. ^ a b c d e #内田 pp.79-83.
  7. ^ a b c #Kelly pp.65-66.
  8. ^ a b #Schechter 7.6
  9. ^ #Kelly p.70.
  10. ^ a b c net”. nLab. 2021年2月8日閲覧。
  11. ^ a b #Schechter 7.14
  12. ^ #Kelly p.67.
  13. ^ a b c Kelly p66
  14. ^ a b #Kelly p.69.
  15. ^ a b #Schechter 15.10.節 pp.413-414.
  16. ^ #Kelly pp.73-75.
  17. ^ a b c Kelly p86
  18. ^ #内田 p.95






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