不凍タンパク質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/07 01:15 UTC 版)
数グループが存在し、また糖との結合体である不凍糖タンパク質などの誘導体が存在する。そのため、これらをまとめて「不凍タンパク質類」(AFPs) と呼称することもある[2]。
概要
地球上においては、相当な量の氷に覆われた区域がある。高地の雪氷地帯、氷河、極地の万年雪、棚氷、流氷など枚挙に暇が無い。これらの地域に生息する生物の個体数、現存量は、ともに多くは無いが、生息する生物は存在する。
これらの地域に生息する生物は、それぞれ、低温や身体の凍結に備えた構造(ロバストネス)を持つことにより生存を可能としている。例えば毛皮などの保温、体内を構成する脂質の不飽和化による凝固点降下、体自体を巨大化させることによる比体表面積の低下などである。
ここで、体内の水の結晶性を制御することで生存に寄与することを目的として産出されているのが不凍タンパク質である。作用機序は特異的であり(後述)凝固点降下によって不凍性を発揮する物質とは桁違いに活性が高い。数ppmオーダーと非常に低濃度で効力を発揮するのが大きな特徴である[3]。
不凍性メカニズム
生物組織を普通に凍結させると、組織が破壊され、高次機能が失われる。これは生体内の水が凍結する際に粗大な結晶となり、組織の構造が破壊されることによる。また凍結時は低温であるため組織の柔軟性が下がっていることも、これに拍車をかける。さらに凍結後に生体組織を構成していた溶液が濃縮され、組織に浸透圧による化学的ストレスと傷害を与えることも加わる。
人為的に低温での凍結を抑制する場合、ポリエチレングリコールや糖類の添加や置換、浸透圧の向上といった手法を用いることができる。しかしながら、生体では代謝の問題上、そうした手段をとることができない。
不凍タンパク質類は微小な氷結晶に結合し、結晶性の熱的安定性を下げることによってその結晶性を制御する。また、水に対して熱的ヒステリシスを与え、凝固点を下げる一方で融解点を下げない(通常0.2~0.3℃、昆虫においては5℃程度下げるものもあるとされる)。
結晶性が制御される結果として、形成される氷は円錐ないし六角錐を底面で2個張り合わせたような形(紡錘形に近い)となる。また微細な結晶が多数析出する現象が起き、通常の凍結でみられる、結晶同士が連結して粗大な結晶を析出させる現象が起きない。
この熱的ヒステリシスについては、精密微小浸透圧計を用いて計測することが可能であり、典型的な魚の不凍タンパク質の場合であれば、1.5℃のときの最大を示すのだという。しかしながら、昆虫の不凍タンパク質は、この10~30倍活性が高いといわれる。これは、魚が水中という比較的温度が安定した環境に生息するのに対して、昆虫は地上で生活する必要があり、さらされる温度変化が激しいため、このような性質を身に着けたのではないかとする分析がある。なお、ハマキガには非常に高い耐寒性をもつものがおり、−30℃ですら活発に活動するという。
生物における例
魚
海水の氷点は−1.8℃程度であり、通常の海水魚の血液の氷点は−0.8~0.9℃程度である。このため、海面が氷結する海域においては、通常の海水魚は身体が凍結してしまうはずである。しかしながら、このような海域においても生存し活動する魚が存在しており、それを支えている要素のひとつが、魚血液中の不凍タンパク質である。
北極海や南極海に生息する魚類の分析から、2.6-3.3 kD程度の不凍糖タンパク質が発見されている。
昆虫
昆虫においては8.3~12.5 kDのものが発見されている。昆虫の不凍タンパク質は、特に活性(熱的ヒステリシスに対する作用)が強いものが多いことで知られている。
植物
植物の不凍タンパク質は、まだかなり未解明であり、研究が進められている。他の種に含まれる不凍タンパク質類と比較して、その活性は低いものが多いとされる。これまでに、麦類、ニンジン、ジャガイモ、キャベツなどから発見されたとの報告がある[4]。また、その作用は氷の再結晶防止というよりも、氷の形成防止といった方が適切との指摘がある[5]。
進化における不凍タンパク質類の獲得
不凍タンパク質類を生物が獲得したのは、数百万年前の氷期においてのことであり、異なった生物グループに同様なものが存在するのは、収斂進化の結果ではないかとの説がある。異なる種類の不凍タンパク質類が現在の生物から発見できる理由として、次の2説が挙げられる。
- 水は水素と酸素からなり、他の物質との接触の様式は多様である。そのため、不凍タンパク質類と水との接触パターンにバリエーションができ、不凍タンパク質類の多様性につながった。
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- ^ Science Daily (2005年10月21日). “New Antifreeze Protein Found In Fleas May Allow Longer Storage Of Transplant Organs” (英語). 2009年11月26日閲覧。
- 1 不凍タンパク質とは
- 2 不凍タンパク質の概要
- 3 不凍性の機構
- 4 近年の報告
固有名詞の分類
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