ハブ空港 概要

ハブ空港

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 03:37 UTC 版)

概要

ハブ空港という言葉には2つの意味がある。双方に共通するのは、航空路線網が自転車の車輪のハブとスポークのように張り巡らされ、航空機の離着陸回数が多く、規模の大きい空港である、という点である。

広義のハブ空港
広義のハブ空港とは、特定の航空会社が運用上の拠点として利用する空港のことである[2][4][5]航空会社ハブ空港とも呼ばれ[6]、航空会社の視点から拠点空港と表現されることもある。このハブ空港よりも規模の小さい、準ハブ的な空港を焦点空港と呼ぶ[7]。ハブ空港のある都市を中心とする地域において、何らかの中心的役割を持っている都市を拠点空港都市と呼ぶ。以下、本記事では広義のハブ空港のことを「拠点空港」と記す。
狭義のハブ空港
一般的にハブ空港という場合は狭義のハブ空港を指し、本来の意味でのハブ空港も狭義のハブ空港のことである[8]。狭義のハブ空港とは、乗り継ぎや積み替えの中継点としての役割を担う、航空網の中核となる空港のことである[9][10]。ハブ空港と呼ばれるためには、ただ空港の規模が大きいというだけでは不足であり、旅客の輸送を効率よく行うための様々な条件が付される(後述)。広義のハブ空港は拠点空港と呼ばれることもあるが、日本の国土交通省空港法などで定めている「拠点空港」は、この「ハブ空港」とは異なるものである[11]。以下、本記事では狭義のハブ空港のことを単に「ハブ空港」と記す。

拠点空港

航空機・整備場・要員などの効率的な使用や乗客・貨物の効率的な輸送を可能とするため、多くの路線を持つほとんどの航空会社はどこかに拠点空港を持っている。また、航空会社によっては、拠点空港ではないが、拠点空港に準ずる機能を果たす空港を焦点空港と位置付けているところもある。

拠点空港や焦点空港の地位は、各航空会社の事業戦略によって決まるものであり、必ずしも空港の規模や設備がこれを左右するものではない。例えば、日本において、関西国際空港日本航空全日本空輸の他に、中国の格安航空会社 (LCC) 春秋航空が拠点としている。一方、アメリカ有数の大空港であるジョン・F・ケネディ国際空港は、デルタ航空および新規参入したジェットブルー航空が拠点空港としているのみである。

成田国際空港

したがって、拠点空港や焦点空港の地位は、航空会社の事業内容の変化に沿って変わることがしばしばある。デルタ航空は過去にケネディ国際空港を拠点空港としていたが、1990年代中頃からはソルトレイクシティ国際空港に巨額の設備投資を行ってこれを拠点化し、ケネディ国際空港の地位を降格させた。しかし、2005年のハリケーン・カトリーナによって、同社が強い地盤を持っていたアメリカ南部の経済が揺らぎ始めると、テキサス州ダラス・フォートワース国際空港の拠点機能を解消し、これに代わってケネディ国際空港を拠点空港に再昇格させた。

大手航空会社の拠点空港のうち、特に重要な拠点空港としては、デルタ航空におけるハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港およびミネアポリス・セントポール国際空港、アメリカン航空におけるダラス・フォートワース国際空港などが知られる。こうした大型の拠点空港では、発着便の7割以上を単一航空会社が占めている。

ハブ空港の定義

拠点空港(広義のハブ空港)の概要は上に示した通りであるが、本来の意味で正確にハブ空港と呼ぶには、これらに加えて、「航空網の中継を役割とする空港であり、航空ダイヤの接続が機能していなければならない」という条件が付く[12]

ある短時間に各地からの到着便が集中し、空港ターミナルビル内で素早く旅客を乗り継ぎさせて間もなく、再び短時間で各地への出発便が飛び立って行く。このようなダイヤを組むことにより、旅客は各々の目的地へ短い乗り継ぎ時間で行くことができる。この仕組みは、ハブ・アンド・スポーク・システムとしてアメリカ合衆国で編み出された。最初にハブ・アンド・スポークの構築を行ったのは、貨物輸送のフェデックスである。このシステムをデルタ航空が旅客輸送に利用したのが、今日のハブ空港とそのシステムの誕生の嚆矢である。その成功を受けて、1978年規制緩和を機に、アメリカ国内の他の大手航空会社に広がっていったのである[13]。このようにハブ空港では、短時間に大量の航空機の発着と旅客の搭乗手続きを扱わなければならないため、それ相応のキャパシティを求められる。具体的には、以下に示したような条件が求められる[11]

  • 複数の滑走路(短時間に集中する離着陸をこなすために必要)
  • 特定の航空会社専用の空港ターミナルビル(短時間で旅客が自社便への乗り継ぎを行うのに必要)
  • 安い着陸料(大量の航空便を採算に合わせるのに必要)

デルタ航空は過去に北米から成田経由でアジアへ飛ぶ便が数多くあり、2008年2月現在のダイヤで見ると、13:55にホノルルから到着するNW9便を皮切りに15:55にデトロイトからNW11便、16:05にポートランドからNW5便と、19:30のサイパン発NW75便まで約15便が到着するというスケジュールであった。一方、17:25発の釜山行きNW29便を皮切りに広州香港北京上海マニラなどアジア各都市へ約2時間から3時間後に出発していくため、北米 - アジア間の接続が確立していた。これがハブ空港の本来の姿である。なお、デルタ航空は羽田空港発着枠拡大や他国のアジアのハブ空港の増強に伴い、2020年3月28日を最後に成田空港から撤退している。

また、これらの乗り継ぎは同一航空会社によって行われなければならない点、および特定の航空会社がその空港を拠点として利用している点も、厳密なハブ空港の要素の一つである。例えば、ロサンゼルス国際空港は発着便数も多く、空港の規模も大きい。さらに乗り継ぎの利便性も高い。しかし、主要な運航の拠点としている航空会社が存在しないため、ロサンゼルス国際空港は、拠点空港ではあっても、厳密にはハブ空港ではない[14]

ハブ空港の具体例

この条件を厳密に満たしている空港・航空会社の組み合わせとなると、世界的には多くなく、アメリカ合衆国においてさえもアトランタデルタ航空)やシカゴユナイテッド航空)など数えるほどしかない。

アメリカの他には、香港キャセイパシフィック航空香港航空)、ソウル/仁川大韓航空アシアナ航空)、マニラフィリピン航空)、バンコク/スワンナプームタイ国際航空)、シンガポールシンガポール航空)、ドバイエミレーツ航空)、フランクフルトルフトハンザドイツ航空)、モスクワ/シェレメーチエヴォアエロフロート・ロシア航空)などである。

また、日本には、この意味でのハブ空港は成田国際空港ユナイテッド航空[11][15]、および関西国際空港春秋航空)が存在する。


  1. ^ デジタル大辞泉/大辞林/精選版日本国語大辞典. “ハブ空港”. コトバンク. 2019年10月10日閲覧。
  2. ^ a b 花岡伸也 (2010年12月26日). “ハブ空港には種類がある”. アゴラ. 2019年10月10日閲覧。
  3. ^ a b 花岡伸也. “アジアの国際ハブ空港” (PDF). 帝国書院. 2017年3月28日閲覧。
  4. ^ a b 謎解きゼミナール 2013.
  5. ^ 唐津 2011, p. 79.
  6. ^ 唐津 2011, pp. 79–80.
  7. ^ 唐津 2011, pp. 80–81.
  8. ^ 杉浦 1999, p. 52.
  9. ^ 日本大百科全書. “ハブ空港”. コトバンク. 2019年10月10日閲覧。
  10. ^ 唐津 2011, p. 80.
  11. ^ a b c 杉浦 1999, p. 53.
  12. ^ 杉浦 2002, p. 21.
  13. ^ 杉浦 2002, p. 22.
  14. ^ エラワン・ウイパー『続 ジャンボ旅客機99の謎』二見書房、2005年、219頁。ISBN 978-4576051956 
  15. ^ 杉浦 2002, p. 23.
  16. ^ 花岡伸也. “アジアのハブ空港間競争”. アゴラ. 2013年9月27日閲覧。





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