トイレ遺構 概要

トイレ遺構

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/24 05:23 UTC 版)

概要

トイレ遺構では籌木(ちゅうぎ)として使用された木片、好糞性の昆虫、動物の骨、植物の花粉などが大量に出土する[1]

従来は発掘調査中に肉眼で観察できたものに限られていたが、1992年奈良国立文化財研究所による藤原京跡の発掘調査で土壌を水洗して有機体遺物を採取する浮遊遺物洗浄法(フローテーション)がおこなわれ、籌木のほか、食べられたものの消化されずに排泄された種子花粉や、魚骨、トイレ環境に生息する昆虫、人々の体内に生息していた寄生虫の卵などが見つかって考古学的にトイレとして利用されたことが証明できるようになった。

トイレ遺構からは当時の人々の食生活や病気の罹患状態などを知る大きな手がかりとなっており、生活に関する未知の分野の解明に役立つ遺構として注目されている[1]

古代オリエント文明

テル・アスマルの貯蔵庫から見つかった貝殻状の目をもつシュメール人神官(12体あるうちの1つ)

テル・アスマルはイラク東部、バグダードの北東約60kmの位置にあるシュメールの都市エシュヌンナの遺跡である。ここで発掘されたアッカド王朝時代(前2200年頃)の宮殿から、いま我々が知ることのできる世界最古のトイレが発見されている。この宮殿は、トイレと浴室の数が多く、質的にもきわめて充実している。少なくとも6ヶ所のトイレ、5ヶ所の浴室があり、トイレは煉瓦を「コ」の字状の椅子形に積み上げた便器が設けられた腰掛け式の水洗式トイレであった。その廃水は宮殿東壁に沿ってつくられた管に流れ込む仕組みになっている。管は地下に埋められ、アーチ状の覆いが掛けられており、その中は上部に通路があって掃除のために歩けるようになっていた。

宮殿の100年後、前2100年頃の一般住宅からもトイレが発見されている。こちらも煉瓦製便器で、下を水が流れ、排泄物は焼き物でつくられた配水管を通って、下水道からチグリス川の支流ディヤラ川へと流れる「高野山形水洗式トイレ」であった。なお、テル・アスマルのトイレ遺構のようすはトイレ研究史上記念すべき著作である『厠考』(李家正文著)にも写真入りで紹介されている。

シュメールの都市の中でも極めて重要な都市遺跡ウルでもトイレ遺構(年不詳)が見つかっている。テル・アスマルは下水道に直結した水洗トイレであるが、ウル検出のものは毛細管現象を利用した「非直結型トイレ」であった。

テル・エル・アマルナは、中エジプトのナイル川東岸に所在する、エジプト第18王朝末のアメンヘテプ4世の都市遺跡である。テーベから遷都されてからツタンカーメン王による放棄までわずか15年間の首都であった。この頃の新王国エジプトでは、家の前や路上でゴミを廃棄したり用便を済ましたりすることが一般的だったため、王は住居にトイレと炉を設置するよう触れを出した。そこで一般住宅にもトイレが設けられることとなった。前1350年頃の住宅から発見されたトイレは、鍵穴状の切り込みがある石灰岩製の便座が煉瓦の支えの上に載っていた。切り込みの下にはが置かれ、排泄物はこの中に溜められ、肥料として用いられたものと考えられる(壺形汲取式トイレ)。

モヘンジョダロ

モヘンジョダロパキスタンシンド地方にあるインダス文明紀元前20世紀紀元前17世紀)を代表する都市遺跡である。南北を走る大通りを中心に区画整理された計画都市で、建築には焼煉瓦が用いられている。ここでは腰掛け式のトイレと汚物の沈殿槽が見つかっている。沐浴場や排水溝が整備されている都市遺跡であることから「水洗式トイレ」と推察される。


  1. ^ a b 広瀬和雄『考古学の基礎知識』角川選書、2007年、360頁





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