シダ類 「シダ」

シダ類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/09 14:24 UTC 版)

「シダ」

単にシダとも呼ばれるウラジロ Diplopterygium japonica

シダ羊歯、歯朶)という言葉は、本項で示すシダ類を指す場合[2]に加え、シダ植物を指すこと[2][14]、および特にウラジロを指すこと[15][2][16]がある。和名の「シダ」の語源は「しだれる」と同源であるとされる[14][17]。シダは方言または古名でデンダカグマと呼ばれる[18][19][20][21][22]。このうち、「デンダ」は「連朶」が訛ったものだとされ[19]、そう漢字表記される[23]。また、標準和名シノブ Davalia mariesii として扱われる「シノブ」もシダの古名の一つである[24]

漢名の「羊歯」は葉が連なり生じて毛のある姿をに喩えたとされる[14]。特にオシダ科オシダ Dryopteris crassirhizomaを指すこともある[17]。中国では羊歯の名は爾雅のみに見られたが、日本では平安時代にシダに当てている[17]

系統関係

以下にWickett ら (2014)Puttick ら (2018)による大規模な遺伝子を用いた分子系統解析に基づく、陸上植物の系統樹を示す[25]。本項の示すシダ類である旧シダ綱は薄嚢シダ類と真嚢シダ類からなるが、このうち真嚢シダ類はクレードからマツバラン類を除いた側系統群であり、シダ綱も側系統となる。

陸上植物

コケ植物

維管束植物
小葉植物

ヒカゲノカズラ目 Lycopodiales

イワヒバ目 Selaginellales

ミズニラ目 Isoetales

シダ植物
"Pteridophyta"
Lycophyta
大葉植物
大葉シダ植物

トクサ目 Equisetales

マツバラン目 Psilotales

ハナヤスリ目 Ophioglossales

リュウビンタイ目 Marattiales

薄嚢シダ類 Polypodiidae

旧シダ綱
"Pteropsida"
Monilophyta

種子植物

Euphyllophyta

なお、Pryer ら (2001; 2004)による、プラスチドrbcLatpBrps4、および核の18S rDNAの4遺伝子を用いた古い分子系統解析では、次のような系統樹が描かれ、真嚢シダ類が多系統となっていた[26]

維管束植物

ヒカゲノカズラ目 Lycopodiales

イワヒバ目 Selaginellales

ミズニラ目 Isoetales

シダ植物
"Pteridophyta"
Lycophyta
大葉植物
大葉シダ植物

マツバラン目 "Whisk ferns"

ハナヤスリ目 "Ophioglossoid ferns"

トクサ目 "Horsetails"

リュウビンタイ目 "Marattioid ferns"

薄嚢シダ類 "Leptosporangiate ferns"

シダ類
"True ferns"
Monilophyta

種子植物

Euphyllophyta

特徴

生活環に関しては「シダ植物」も参照

シダ類の生活環胞子体配偶体が独立して生活する単複世代交代型である[27]。胞子体にはが分化する[8]胞子は胞子体の胞子嚢の中に減数分裂の結果形成される[27]。ほとんどのシダ類では胞子は雌雄の差がない同形胞子性であるが、水生シダ類では大胞子と小胞子をつくる異形胞子性である[27]。胞子嚢は普通、裏面または葉縁に集まって胞子嚢群(ほうしのうぐん、ソーラス sorus, pl.: sori)を作る[27][1]。胞子嚢が1つの細胞に由来し、1層の細胞層からなるシダ類を薄嚢シダ類 leptosporangiate ferns、胞子嚢が複数の細胞に由来し、複数の細胞層に包まれるシダ類を真嚢シダ類 eusporangiate fernsという[6][1]。薄嚢性は派生形質であり、薄嚢シダ類は単系統群である[6]

胞子嚢群の列
単一の胞子嚢群・腎臓型の包膜
胞子嚢
裂開した胞子嚢
ホシダの胞子嚢群

茎は短く、木生シダ以外では地中生、着生、地表生であり根茎 rhizomeと呼ばれる[1]。根茎には匍匐(creeping)するもの、斜上(ascending)するもの、直立(erect)するものがある[28]木生シダ類のヘゴ科では高く成長し、24 mに達するものもあるが、ハナワラビ類以外のシダ類の茎は肥大成長せず、木本ではない[27][29]。木生シダ類の「幹 trunk-like stem」は直立茎の周囲を不定根が覆ったものである[28]

トキワシノブ Davallia tyermannii の葉の各部の名称。3-4回羽状複葉。

葉は大葉で、単葉からシダ型4-5回羽状複葉となるが[1]、羽状複生することが多く、特に羽葉frond)と呼ばれる[30]。複葉の小葉leaflet)は特に羽片(うへん、pinna, pl.: pinnae )と呼ぶ[31]。葉端の羽片を頂羽片terminal pinna)、それ以外を側羽片lateral pinna)、繰り返し構造となる羽片の更に1枚を小羽片pinnule)と呼ぶ[28]。他の複葉と同様に羽片の付く軸を葉軸(中軸、rachis)、小羽片の付く軸を羽軸pinna rachis)と呼ぶ[28]

葉の二形性は種によって異なり、二形 dimorphicのものでは胞子嚢を付ける胞子葉(実葉、fertile frond)と胞子を付けない栄養葉(裸葉、sterile frond)に分かれる[28]。また、区別のないものは同形 monomorphic、1枚の葉で胞子を付ける羽片と胞子を付けない羽片があるものは部分二形 hemidimorphicと呼ばれる[28]ハナヤスリ類では担栄養体(栄養葉、trophophore)と担胞子体(胞子葉、sporophyte)の基部が合わさって担葉体(共通柄、common stalk)となる[1][28]。サンショウモ属では根を持たず、水上に浮かぶ浮葉floating leaf)と根のように変形した沈水葉(水中葉、submerged leaf)の2種類の葉を持つ[28]


  1. ^ a b c d e f g h 山田ほか 1983, p.524
  2. ^ a b c d 新村 2008, p.1237
  3. ^ a b c 伊藤 1972, pp. 8–10.
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  9. ^ a b 巌佐ほか 2013, p.1642
  10. ^ PPG I 2016、pp.563-603
  11. ^ Smith et al. 2006, pp.705-731
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  24. ^ 岩槻 1992, p. 115.
  25. ^ 長谷部 2020, pp. 1-4, 68-70
  26. ^ Pryer et al. 2004
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  28. ^ a b c d e f g h 海老原 2016, pp.9-15
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  37. ^ a b 加藤 1997, pp.56-59
  38. ^ a b 林・中池 1997, pp.26-29
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  40. ^ a b c 鈴木 1997, pp.43-47
  41. ^ a b c d 益山 1997, pp.51-54
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  45. ^ 佐橋 1997, pp.82-84
  46. ^ a b c d e f g h i 星川 1979, pp.297-298
  47. ^ a b c d e 松本 2009, pp.55-65
  48. ^ 伊藤 1972, pp. 1–11.
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  50. ^ 中池 1997, p.77
  51. ^ 遠山茂樹『歴史の中の植物 花と樹木のヨーロッパ史 』ISBN978-4-89694-265-1
  52. ^ Gibby, Mary (2013年). “The Benmore Fernery”. www.buildingconservation.com. 2014年1月4日閲覧。
  53. ^ Gibby, Mary. “The Benmore Fernery”. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。


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