カールグスタフ (無反動砲) 概要

カールグスタフ (無反動砲)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/06 14:53 UTC 版)

概要

カールグスタフを発射するアメリカ陸軍特殊部隊
発砲に伴い、後方に燃焼ガスが噴射されていることがわかる。前方のドーナツ状の煙は弾頭のロケットブースターのもの

戦車装甲車トーチカのように、歩兵部隊が保有する装備(小銃など)では破壊が難しい目標を攻撃する、高い破壊力を有する軽量の歩兵砲として、1946年よりスウェーデン軍王立陸軍兵器局(KAFT:Kungliga Armé Förvaltningen Tyg departement,(スウェーデン語版))により開発された。

KAFTでは1942年にイギリスの発明家であり兵器開発者でもある、チャールズ・デニストン・バーニー卿(Charles Dennistoun Burney, 2nd Baronet(英語版)[注釈 3] を技術顧問に迎え、無反動砲の機構を持つ20mm口径の対戦車ライフルである“カールグスタフ Pvg m/42(Carl Gustaf Pansarvärnsgevär modell 1942:1942年型対戦車銃)”を開発した。

しかし、Pvg m/42は構造的な問題や威力不足(第2次世界大戦における戦車の装甲防御の進歩に対し、20mm口径の徹甲弾は威力において実用的なものとは見なせなくなっていた)といった観点から早急に後継が必要とされており、まずは37mmもしくは40mmに口径を拡大したものが構想されたが、成形炸薬弾の技術情報が入手されると、これを用いた弾頭を発射できるより大口径の無反動砲が要求された。

この要求に対し、バーニー卿の指導のもとでPvg m/42を設計したヒューゴ・アブラハムッソン(Hugo Abrahamsson)、ハラルド・ヤンツェン(Harald Jentzen)大尉の両名に加えてシグフリード・アクセルソン(Sigfrid Akselson)の3名を開発主任として開発が始められた。当初は口径は75mmのものが想定されていたが、参考用に入手したドイツのパンツァーシュレックは80mm台の直径(8.8cm)の弾頭を持ち、高い威力を示していた[注釈 4] ことから、本砲も口径を80mmクラスに拡大変更し、口径84mmのものとして完成した。これが本砲の最初のモデルであるGranatgevär M1(擲弾銃1型)である。これは1948年より、スウェーデン軍において「8.4cm Granatgevär m/48, Grg m/48(1948年型8.4cm擲弾銃)」として制式化された。

その後、1964年より若干の軽量化と全長の短縮などの改良を加えたM2が実用化され、さらに1972年には、それまでの単眼式光学照準器光学視差式距離計に射撃偏差計算装置を内蔵した"FFV550"に変更し、遠距離照準能力と対移動目標射撃能力を強化したモデルとしてM2-550が実用化された[注釈 5]。また、これらの砲の技術を応用して、同じく弾頭直径84mmの弾薬を使用する使い捨て式の対戦車擲弾発射器としてAT-4も開発された。

1991年には、砲身を砲鋼の鍛造から炭素繊維を用いた複合材料製の外筒に線条部分のみを鋼製の内筒としたものを組み合わせたものに変更し[注釈 6]、その他の部品も大部分をアルミニウムや合成樹脂に変更して大幅な軽量化を実現し、重量を10kgとしたM3が実用化された。これはスウェーデン軍において8.4cm擲弾発射機m/86(Granatgevär m/86, Grg m/86)として新たに制式化されたほか、アメリカ特殊作戦軍でもM3-MAAWS(Multi-Role Anti-Armor/Anti-Personnel Weapon System)として採用された。なお、アメリカ軍では当初は第75レンジャー連隊で採用されたことから、"RAAWS"(Ranger Anti-Armor/Anti-Personnel Weapon System)と称されていた。

2014年には、砲身の素材をチタンと炭素繊維複合材を採用したものに変更し[注釈 7]、砲尾噴射管のデザインを改良して全長を短縮化したM4が開発された。これにより重量は6.8kgとM3より大幅に軽くなり、M2に比べると半分近い重量となった。全長はM2に対して約13cm短縮されて99cmとなり、1mを切る長さにまで短縮された。照準装置はドットサイト方式に変更され、オプション装着用のピカティニーレールが装備された。この他、照準装置で捉えたデータを弾頭に直接入力する事が可能になり、積算発射数を記録するデジタルカウンターが備えられている他、外部装置による遠隔一括管理システムに対応しているなど、全体の“スマート化”が推進されている[1]。M4は2017年M3E1として制式化され、実戦配備は2018年より始められた。アメリカ陸軍においてもM3-MAAWSをこれに準じる形で改良したものが2017年に同じくM3E1の名称で採用され、海兵隊においてもMk 153 SMAWの後継として検討中である。

カールグスタフは、M1からM4までのシリーズを通して約40ヶ国に輸出された。このうちイギリス海兵隊の装備砲(L14A1)は、フォークランド紛争の緒戦段階におけるグリトビケンの戦いに際し、アルゼンチン海軍コルベットゲリコ」に対し命中弾を与え、これを中破させる戦果を挙げている。

しかし、開発以来半世紀を経て、カールグスタフの84mmという口径は対戦車兵器としては主力戦車を目標とするものとしてはやや威力不足であり、同じ無反動砲形式の対戦車火器としては、パンツァーファウスト3のように弾頭を外装式にして大型・大口径化し、高い貫通力を持たせた新世代の携行対戦車兵器が登場している。本砲も口径を100mm台に拡大した発展形が構想されたことがあったが、個人で肩担するのが困難な重量となるために断念された。1982年には外装式のロケット補助推進式大型弾頭(直径132mm)を用いて装甲貫通力をRHA換算で900mmに向上させた"FFV597"も開発されたが[2]、装弾に時間がかかる上[注釈 8]、装填時の総重量が重くなり過ぎるとして採用されずに終わっている。

対装甲兵器としては有効性が低下したとされたことから、ドイツオーストリアではカールグスタフを照明弾を使った戦場照明機材として運用するようになり、名称も「照明弾発射筒(Leuchtbüchse)」へと変更された。とはいえ、容易に多種多様の弾薬を運用できる点ではカールグスタフのような内部装弾式の携行火砲には大きな利点があり、度重なる改良によって大幅な軽量化と全長の短縮化がなされたこともあり、本砲も、前述のアメリカ軍や、後述の陸上自衛隊における例のように“携行対戦車兵器”から“携行多用途発射装置”へと分類を変更されて、今後もしばらくは世界各国で運用が継続されていく模様である。


注釈

  1. ^ "Granatgevär"とはスウェーデン語で“擲弾銃(擲弾発射筒)”を意味する。
  2. ^ つまりは製造メーカー名に因むものであり、本砲の他にも“カールグスタフ”の通称および正式名称を持つスウェーデン製の兵器は多種類が存在する。
  3. ^ Ch・D・バーニー准男爵、“バーニー砲”の名で知られる独自機構の無反動砲の設計・開発で著名。
    バーニー卿は無反動砲に関する自身の理論を本銃の開発で実証した後、その結果を基に作動形式・構造を発展・改良させ、本国イギリスで“バーニー砲(Burney Gun)”の名で呼ばれる各種の無反動砲を開発した。
  4. ^ ただし、パンツァーシュレックは「携帯式対戦車ロケット弾発射筒」であり、本砲のような無反動砲ではない。
  5. ^ M2-550は射撃精度が大幅に向上したが、「標準的な交戦距離からして過剰な装備である」「高価で複雑なため野戦での運用に難がある」と実用面からはそれほど評判は芳しくなく、FFV550は重くかさばるものであったため「本砲のメリットである簡便性を損っている」として開発側が予想したほどの需要がなく、1990年代にM3型が開発されるとメーカーのラインナップから削除された。
  6. ^ これにより大幅な軽量化が達成されたが、砲身命数(砲身寿命)は低下している(ただし、1993年に行われたアメリカ陸軍の研究所による耐久テストでは2,380発までの耐用年数があり、メーカーの保証値の4.5倍の実用命数があるとされている)。
  7. ^ この新型砲身の命数は1,000発とされている。
  8. ^ FFV597は分離装薬式で、砲尾から装薬(発射薬)が充填された薬莢を、砲口から外装式の弾頭を、それぞれ別個に装填する必要があった。このため、迅速な射撃準備と連続発射が困難だった。

出典

  1. ^ 井上孝司 (2017年6月3日). “軍事とIT 第195回 特別編・カール・グスタフ無反動砲”. マイナビニュース. https://news.mynavi.jp/article/military_it-195/ 2019年9月23日閲覧。 
  2. ^ Marius Zgureanu (2017年7月7日). “Super-munitii pentru Karl Gustav” (ルーマニア語). Romania Military. 2019年9月25日閲覧。
  3. ^ a b 毒島刀也『陸上自衛隊「装備」のすべて』 ソフトバンククリエイティブ、2012年、ISBN 978-4-7973-5807-0、pp.54-55
  4. ^ 奈良原裕也、「ソ連戦車の脅威に対応!「高精度・大威力化」」『軍事研究』(株)ジャパン・ミリタリーレビュー、2017年5月号、196-206頁、ISSN 0533-6716
  5. ^ SAAB社プレスリリース”. 2023年10月21日閲覧。
  6. ^ 令和5年度 月別契約情報/随意契約(基準以上)2023年10月10日契約、防衛装備庁。2024年1月27日閲覧。
  7. ^ 清谷信一 (2024年1月25日). “「旧式」装備を大人買いする防衛省の無責任さ 無反動砲に見る「ずさんな装備調達」の実態”. 東洋経済オンライン. 2024年1月27日閲覧。
  8. ^ 防衛省・自衛隊:予算の概要”. www.mod.go.jp. 2022年9月19日閲覧。
  9. ^ 契約に係る情報の公表(中央調達分)防衛装備庁。2024年1月27日閲覧。





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