インテリジェント・デザイン 反応

インテリジェント・デザイン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/22 08:05 UTC 版)

反応

科学者

アメリカ合衆国カンザス州での、進化論と同時にインテリジェント・デザインを学校で教育すべきである、という推進派の主張に対し、「これは科学の議論ではない」、「科学と宗教は全く違うもので、議論自体がナンセンスだ」との意見があった[8]

一般向け科学解説書の多数の著作がある生物学者リチャード・ドーキンスは、一神教的宗教を批判する著作[9]を発表し、その中でインテリジェント・デザインについても詳細な反論を行った。

カトリック教会

カトリック教会を始めとする宗教界ではインテリジェント・デザインは受け入れられていない。一般に誤解されがちだが、カトリックでは進化論は否定されておらず、むしろ、ヨハネ・パウロ2世が進化論を概ね認める発言を残している。というのも、進化論は必ずしも創造論を否定するものではなく、進化論が生命の起源にまで及ばない以上、そこに神の存在を見出すことが可能である(進化論を肯定しても原初の生物は神が作ったという解釈が可能)と主張する。つまり、インテリジェント・デザインは、たとえ神に置き換える余地があっても、そこを「偉大なる知性」と置き換えてしまうために、彼らにとっては進化論よりも神の存在を脅かすとされる[10]

ID創造論否定論者

生物学の分野でも、創造科学者は極めて精妙な生物の細胞器官のしくみを例に挙げて、「複雑な細胞からなる生体組織が進化、自然淘汰などによってひとりでにできあがったとは考えられない。従って創造に際しては『高度な知性』によるデザインが必要であった」と主張するようになってきた。この主張は、伝統的なの存在証明のひとつである「デザイン論証」に倣っている。しかし、創造論に反対する立場からは、

  • 主張を支持する具体的な根拠が提示されていない
  • 複雑な細胞を無から創造する事の出来る存在はどのように生じたのか[注 2]

という新たな疑問が発生するため、「“人智を超えた高度な知性”の存在が証明出来ない限り、単に問題を先送りにしたに過ぎない」、「単に神をそのままでは教えられないために『偉大なる知性』という別の言葉に置き換えて宗教色を覆い隠したに過ぎない」とする批判がなされている。

また、現実には生物学上「複雑な器官等が突如、出現した」という証拠は全くない、原始的な器官から複雑な器官への橋渡しを示すような中間形態を持つ生物も存在しており、結局、進化の中で徐々に複雑化してきたと考える事に矛盾は見つからない、と主張する。

ID創造論肯定論者

米国の生化学者マイケル・ベーエやかつては高名な無神論者であったアントニー・フルーらによって、「インテリジェント・デザイン論は宗教とは無関係で科学的な根拠に基づく科学的な主張である」との主張が展開されている。

ベーエは「生化学レベルでは進化の結果としては十分説明できないほど複雑な構造が存在する」と言う概念を『還元不能な複雑さ(Irreducible complexity)』と呼び、進化への反証であると主張している。

また、81歳で無神論から転じたアントニー・フルーは、「生物学者たちによるDNAの研究により、生命を引き起こすために必要な信じ難い程の複雑な配列が解明されており、その様な暗号情報成立の為には何らかの知的存在の関与が必須なのである。」と主張する。

ヘンダーソンらの風刺

米国のボビー・ヘンダーソンはカンザス州教育委員会の動きを見て、2005年6月、IDを批判するために自分のウェブサイトにパロディ宗教(冗談宗教)の「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」のコンセプトを掲載し、前述のブッシュのコメントを皮肉り、「平等のため『スパゲッティ・モンスター』が人類を作ったという説も学校の理科の時間で教えるべき」であり、「ブッシュ大統領を始めとしたインテリジェント・デザイン論者たちは我等が空飛ぶスパゲッティ・モンスター教を学校教育に採り入れるために戦ってくれているのだ」と主張した。

産経新聞

産経新聞』は特集記事を組んで、創造科学を肯定する側の意見を載せた[11]。この特集は後述する渡辺久義に対するインタビュー記事で、「この理論は多くの科学者が支持しており、IDを推進しているのはキリスト教右派、宗教勢力だと言う主張はIDを快く思わない人間の妄言である。IDを教えず、仮説に過ぎない進化論を公認の学説として扱うのは思考訓練の機会を奪ってしまう」「人の祖先は[注 3]だと教えれば、子ども達に人間としての尊厳が育てられない」と言う趣旨であり、締め括りは「進化論はマルクス主義と同じく唯物論的であるため、人間の尊厳を無視しており歴史道徳の教育にとって良くない。日本では進化論偏向教育によって日本神話等が弾圧された」として日本も学校でIDを教えるべきだと主張した。また、『NHKが考える「性のありよう」』と題し“人間は男か女に生まれる。性別は選べない。被造物の分際で性の「境界線」をなくすなど、不遜な冒涜であろう”と述べた潮匡人の発言を、コラム『断』(2009年1月17日付)に載せた[12]

統一教会の日本支部

創造デザイン学会[13]という、創造科学やインテリジェント・デザインを扱う団体を、世界基督教統一神霊協会(以下、統一教会)の関連団体が主催するようになった。この会はやはり関連団体とされる組織である世界平和教授アカデミー[14][15]が主催している。これはあくまで当人達が「学会」を自称しているだけで、日本学術会議が学会と認定した団体ではない。この「学会」は、「学会」の代表[16]を務める渡辺久義英文学者摂南大学国際言語文化学部教授京都大学名誉教授[17]は、統一教会系の日刊新聞『世界日報』や同じく統一協会の下部組織である国際勝共連合の月刊誌『世界思想』等でIDを肯定する発言を繰り返しており[18][19]、前者では「誰がどう考えても、生命とか進化とか意識)の問題を物理力だけで説明できるとは思えない」と述べている。


  1. ^ 参考までに、米世論調査企業ギャラップ社の2009年の調査で、進化論を信じているアメリカ国民は39%にとどまる、との調査結果が報告された[7]
  2. ^ 「高度な知性」が生物であるなら、彼らも別の何者かにデザインされていなければ「高度な知性」まで進化できないということになる。それを同様に推論すると、「デザインをしたのは誰か」が永遠に先送りされる。また、デザインされないで「高度な知性」が進化したのならそれは進化論そのものとなる。
  3. ^ 正確には類人猿から進化した猿人
  1. ^ ガードナー 2004, p. 146.
  2. ^ マイケル・J. ベーエ『ダーウィンのブラックボックス―生命像への新しい挑戦』青土社、1998年。ISBN 978-4791756339 
  3. ^ Kippley-Ogman, Emma. "Judaism & Intelligent Design". MyJewishLearning.com. New York: MyJewishLearning, Inc. Retrieved 2010-11-13. "But there are also Jewish voices in the intelligent design camp. David Klinghoffer, a Discovery Institute fellow, is an ardent advocate of intelligent design. In an article in The Forward (August 12, 2005), he claimed that Jewish thinkers have largely ignored intelligent design and contended that Jews, along with Christians, should adopt the theory because beliefs in God and in natural selection are fundamentally opposed."
  4. ^ Jensen, Leif A. (2011). Rethinking Darwin: A Vedic Study of Darwinism and Intelligent Design. Contributors: Wells, Jonathan; Dembski, William A.; Behe, Michael J.; Cremo, Michael A. Bhaktivedanta Book Trust. Retrieved 2014-02-28.
  5. ^ Edis 2004, "Grand Themes, Narrow Constituency," p. 12: "Among Muslims involved with ID, the most notable is Muzaffar Iqbal, a fellow of the International Society for Complexity, Information, and Design, a leading ID organization."
  6. ^ Shanks 2004, p. 11: "Muzaffar Iqbal, president of the Center for Islam and Science, has recently endorsed work by intelligent design theorist William Dembski."
  7. ^ On Darwin’s Birthday, Only 4 in 10 Believe in Evolution” (英語). Gallup. 2023年2月22日閲覧。
  8. ^ 高柳泉 (2005年6月7日). “TBS番組でインテリジェント・デザイン紹介”. クリスチャントゥデイ. 2007年10月19日閲覧。
  9. ^ ドーキンス 2007.
  10. ^ 竹内薫『99.9%は仮説』光文社〈光文社新書〉、2006年2月。ISBN 4-334-03341-5 
  11. ^ 渡辺浩 (2005年9月26日). “「反進化論」米で台頭 渡辺久義・京大名誉教授に聞く”. 産経Web. 2011年5月2日閲覧。 [リンク切れ] - 産経webで連載された特集『教育を考える』
  12. ^ 潮匡人 (2009年1月17日). “【断 潮匡人】NHKが考える「性のありよう」 (1/2ページ)”. MSN産経ニュース. 2009年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月2日閲覧。 潮匡人 (2009年1月17日). “【断 潮匡人】NHKが考える「性のありよう」 (2/2ページ)”. MSN産経ニュース. 2009年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月2日閲覧。
  13. ^ 創造デザイン学会 DESIGN-OF-CREATION SOCIETY”. 世界平和教授アカデミー. 2011年5月2日閲覧。
  14. ^ 全国霊感商法対策弁護士連絡会. “統一協会(統一教会)関連団体リスト”. 霊感商法の実体. 2007年10月19日閲覧。
  15. ^ 世界平和教授アカデミー”. 世界平和教授アカデミー (2011年4月5日). 2011年5月2日閲覧。
  16. ^ 渡辺久義. “創造デザイン学会代表あいさつ”. 創造デザイン学会. 2007年10月19日閲覧。
  17. ^ 世界日報社. “書籍のご案内『善く生きる』”. 世界日報. 2008年4月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月19日閲覧。
  18. ^ 世日クラブ. “科学者等から現れた科学革命運動”. 2006年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月14日閲覧。
  19. ^ 渡辺久義. “自然主義科学と理性の危機―反デザイン論者の道徳意識―”. 世界思想 No. 353(2005年3月号). 2007年10月19日閲覧。
  20. ^ Joseph P. Kahn (2005年7月25日). “The evolution of George Gilder” (英語). The Boston Globe. 2007年10月19日閲覧。
  21. ^ Jason Rosenhouse. “Should We “Teach the Controversy”?” (英語). Creation Watch. 2007年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月19日閲覧。
  22. ^ 伊勢田哲治. “ID論と「くさび運動」” (PDF). 2007年10月19日閲覧。
  23. ^ 聖書は正しく、進化論は間違い-クリスチャンは堂々と説明できるべき”. クリスチャントゥデイ. 2023年2月21日閲覧。





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