アラム語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 14:26 UTC 版)
歴史
アラム語によって書かれた文献は3000年間近くにわたる長い歴史を持ち、その間に大きな変化を経ている。また地理的な違いも大きい。大別すると以下のように分けられる[5]。
- 古代アラム語(紀元前850年 - 紀元前612年[6])各地の碑文によって知られる。当時アラム人は中東で重要な役割を果たし、アラム語は新アッシリア王国の外交のための国際語として使われ、エジプトからメソポタミアに至る地域で使われたが、まだ標準は成立していなかった。
- 帝国アラム語(紀元前600年 - 紀元前200年)アラム語は新バビロニアとアケメネス朝の行政のための公用語として、エジプト、アナトリアからインド亜大陸に及ぶ広大な地域で用いられた。また標準的なアラム語の文章語が成立した。なお、この時代の文献はほとんど残っていないが、主にエジプトからパピルスや革に書かれた文章が発見されており、その代表がエレファンティネ・パピルスである。また、聖書のエズラ記の中に引用されているアラム語の手紙はこの時代に属する。ほかにわずかな碑文が残る(ペルセポリスのものやアラム語で書かれたアショーカ王碑文)。
- 中期アラム語(紀元前200年 - 西暦250年)この時代、中東世界の行政語としてのアラム語の地位はギリシア語に取ってかわられた。また、地域ごとの方言分岐が起きた。しかし、帝国アラム語時代以来の文章語は地域差を越えて使われ続けた。パルミラ、ナバタイ、ハトラなどの碑文や、死海文書のアラム語文献、聖書のダニエル書の一部で使われているアラム語、オンケロスおよびヨナタンによるタルグーム(聖書の翻訳)はこの時代に属する。
- 後期アラム語(または古典アラム語、西暦200年 - 1200年[7])東西の2方言あるいはパレスチナ、シリア、バビロニアの3つの方言に大別され、ユダヤ教、サマリア人、キリスト教、マンダ教の文献が書かれた。とくにシリアのキリスト教徒の文献の言語をシリア語と称する。この時代の後半になると話し言葉としてのアラム語は大部分がアラビア語によって駆逐される。
- 現代アラム語
話者の減少
現代のアラム語を話す住民の居住地として、シリアの首都ダマスカス周辺の村々が知られていたが、2011年に発生したシリア内戦を契機にアラム語を話す住民が離散。言葉を引き継ぐ世代交代が難しくなっていることに加え、シリア国内にいるアラム語の専門家の数も減り続けており、近い将来、シリア国内からは消えてしまう可能性がある[10]。
- ^ The Aramaic Text in Demotic Script: The Liturgy of a New Year's Festival Imported from Bethel to Syene by Exiles from Rash – On JSTOR
- ^ Manichaean Aramaic in the Chinese Hymnscroll
- ^ 「アラム語」- ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
- ^ Creason (2004) p.391
- ^ Kaufman (1997) p.114-119
- ^ Creason (2004) p.392によると 950BC-600BC
- ^ Creason (2004) p.392 では700年までとする
- ^ Jastrow (1997) p.334
- ^ Jastrow (1997) p.347
- ^ “キリストが使った言語、内戦の影響で消滅の危機 シリア”. AFP (2019年7月20日). 2019年7月21日閲覧。
- ^ Kaufman (1997) p.119
- ^ Kaufman (1997) pp.119-120
- ^ セム祖語の形は Huehnergard (2004) p.142 に従う
- ^ a b アラビア語の ḍ ẓ(ظ ض)が本来どう発音されていたかには議論がある
- ^ 9世紀以降に今の音(ʃ)に変化した
- ^ Huehnergard (2004) p.144
- ^ Kaufman (1997) pp.120-121
- ^ Creason (2004) p.398
- ^ Creason (2004) p.394
- ^ Creason (2004) pp.399-400
- ^ a b Creason (2004) pp.402-403
- ^ Kaufman (1997) p.123
- ^ Creason (2004) pp.418-419
- ^ Creason (2004) pp.404-408
- ^ Creason (2004) p.411
- ^ Creason (2004) p.422
- ^ Creason (2004) p.421
- ^ AFPBB News 2008年5月19日【動画】キリストが話していた「アラム語」、21世紀に直面する消滅の危機
- ^ 川又一英「アラム語を話す村マールーラ」、国立民族学博物館(監修)『季刊民族学』89号、1999年7月20日
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