アメリカ先住民 起源と歴史

アメリカ先住民

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 16:08 UTC 版)

起源と歴史

一般に、アメリカ州への先住民族の移住は1.アメリンド、2.ナ・デネ、3.エスキモー・アレウトの3波が存在したと考えられている。

  1. インディアン/インディオの祖先は、約2万5000年前にシベリアに進出したモンゴロイドである。当時は最終氷期の最盛期で、現在のベーリング海は陸地のベーリンジアになっており、ユーラシア大陸からアラスカに歩いて移民できた。ベーリング海峡が海に戻った1万4000年前より前に、彼らはアラスカまで進出したはずだが、考古学的証拠は乏しく正確な時期は特定できない。約1万5000年前、古モンゴロイドはカナダを超えアメリカ合衆国本土へ渡り、クローヴィス文化の担い手のパレオインディアンとなった。彼らがインディアン/インディオの直接の祖先であり、1000年で南米南端まで広がった。近年では最初期のアメリカ先住民(アメリンド)はアメリカ西海岸を氷床を避けて南下していったとする見方が有力である。ただし論争はあるものの、クローヴィス以前の可能性がある遺跡がいくつか見つかっており、パレオインディアン以前の住民がいた可能性もある。インディアン/インディオの遺伝的多様性はクローヴィスより古い起源を示唆しており、彼らがインディアン/インディオの祖先の一部となった可能性もある。
  2. ナデネ語族を話すディネはアメリカ大陸における移住拡散の第2波と考えられる。ハプログループQに加え、ハプログループC2 (Y染色体)を中頻度に保有する[15][18][19]
  3. エスキモー・アレウトは、おそらく比較的最近にシベリアからアラスカに進出し、グリーンランドまで拡散した。寒冷な気候に適応して進化した新モンゴロイドである。
  4. また、紀元前にヨーロッパから北米に移住があったとする見方もあり[20]、遺伝子からも、欧州に多いY染色体-RmtDNA-Xが北米東部でかなりの頻度で観察される[15][18][21][22][23]ことから、有史以前のある時期にヨーロッパからの直接移住が存在した可能性がうかがえる。
  5. 加えて南米原産のサツマイモがコロンブス以前のポリネシアから発見されていることから、ポリネシア人が南アメリカ大陸から持ち込んだと考えられ、南アメリカ大陸と交流があったと思われるが、ポリネシア人がアメリカ先住民の遺伝子プールに与えた影響などは不明である。

なお、インディアンの神話伝説では「亀の島」(アメリカ大陸のこと)が水の中から隆起した時に、その中心から現れた人類の祖先こそインディアンであると伝えている[24]

大航海時代以降は、ヨーロッパ人との混血、アフリカ黒人との混血が進んだ部族も多い。純血の民族はメキシコグアテマラエクアドルペルーボリビアなどに多く存在する。しかしブラジルアルゼンチンウルグアイなどのスペイン人と激烈な戦いを繰り広げた地域では、純血な先住民はスペインによる侵略により、大幅に数を減らしている。アメリカ大陸にいた先住民はヨーロッパ人の持ち込んだ伝染病、奴隷制度、レイプ、戦争による殺戮によって、1491年に西半球には約1億4500万人の人々が住んでいたが、1691年には、アメリカ先住民の人口は90-95%、約1億3千万人も減少したとされる[25]

アメリカ合衆国においては白人入植者によってインディアン戦争に代表される北米植民地戦争がおこなわれた。この戦争は白人、主にキリスト教徒によって行われた大量虐殺民族浄化強制移住であった。これらの戦争の影響により、インディアンは今日でも貧困アルコール依存症などの問題に苦しみ続けている。また、インディアンはブラックヒルズなど白人に奪われた土地の返還を求めて闘い続けているが、アメリカ合衆国政府や政府を支持する人々は土地を返還するつもりはない[26][27][28][29][30][31][32][33][34][35]


原語表記

  1. ^ : East Indian
  2. ^ : American Indian
  3. ^ : Red Man
  4. ^ : Red Indian
  5. ^ : Uncle Tomahawk
  6. ^ : Amerind
  7. ^ : First Nations
  8. ^ : First Peoples
  9. ^ : Indigenous Peoples of America
  10. ^ : Aboriginal Peoples
  11. ^ : Aboriginal Americans
  12. ^ : Amerindians
  13. ^ : Native Americans
  14. ^ : Native Canadians
  15. ^ : Native Canadian
  16. ^ : Native American
  17. ^ : Indian
  18. ^ : Indian American
  19. ^ : early Americans

注釈

  1. ^ NFLチームの「ワシントン・レッドスキンズ」のレッドスキンズ: Redskins)は、「赤い肌の連中」という意味であり、インディアン権利団体はこの名称の変更を要求して抗議を繰り返していた。2022年より同チームは「ワシントン・コマンダース」に改称した。
  2. ^ トム・ソーヤーの冒険』にも出てくる。
  3. ^ 黒人達が「ブラック・パワー運動」のなかで、「白人にこびへつらう黒人」のことを「アンクル・トム」と呼んだのに引っ掛けて、インディアン達も「レッド・パワー運動」のなかで、「白人にこびへつらうインディアン」のことをこう呼んだ。
  4. ^ テレビ西部劇の『ローン・レンジャー』で、主人公の白人ガンマンの相棒を務めるインディアン青年の名前。
  5. ^ 植物の育たない極地において、肉と魚を生で食べることでビタミンとミネラルを摂取できる。
  6. ^ この主張自体は1920年代から既に存在していた。
  7. ^ 彼らの言語に促音は存在しないので「イヌイト」のほうがより正確である。
  8. ^ この「ネイティブ・アメリカン」とする場合の表記は、一般的には先頭に「大文字の「N」が使用される。

出典

  1. ^ Página no encontrada”. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月12日閲覧。
  2. ^ アメリカ先住民
  3. ^ アメリカ内務省BIA公式規定より
  4. ^ アメリカインディアン
  5. ^ インディオ
  6. ^ 大修館書店刊『ジーニアス英和辞典 改訂版』(1994年)
  7. ^ スチュアート・ヘンリ「民族呼称とイメージ―「イヌイト」の創成とイメージ操作」『民族学研究』第63巻2号、1998年9月
  8. ^ Hoynes, Paul (2021年11月19日). “Cleveland Indians will officially become Cleveland Guardians on Friday”. cleveland.com. https://www.cleveland.com/guardians/2021/11/cleveland-indians-will-officially-become-cleveland-guardians-on-friday.html 
  9. ^ a b インディアン管理局 (BIA) の公式な質疑応答テキストによる
  10. ^ クリスティーナ・ベリー『名前には何があるの?インディアンとポリティカル・コレクトネス
  11. ^ ニュース - 古代 - アラスカで氷河期の子どもを発見 - ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 2011年2月25日
  12. ^ 今関恒夫, 「初期アメリカ人の社会的出自」『同志社アメリカ研究』 10号 p.20-41 1974年, ISSN 04200918, doi:10.14988/pa.2017.0000008725, 同志社大学アメリカ研究所
  13. ^ ただし北米東部に関して、古くからコーカソイドが混血しているとする見方がある(バリー・フェル(著)、喜多迅鷹・元子(訳)『紀元前のアメリカ』(1981)草思社)
  14. ^ 寺田和夫『人種とは何か』、岩波書店
  15. ^ a b c Zegura, Stephen L. et al 2004, High-Resolution SNPs and Microsatellite Haplotypes Point to a Single, Recent Entry of Native American Y Chromosomes into the Americas
  16. ^ Bortolini, Maria-Catira et al 2003, Y-Chromosome Evidence for Differing Ancient Demographic Histories in the Americas
  17. ^ Hammer, Michael F. et al 2005, Population structure of Y chromosome SNP haplogroups in the United States and forensic implications for constructing Y chromosome STR databases
  18. ^ a b Malhi, Ripan Singh et al 2008, Distribution of Y Chromosomes Among Native North Americans: A Study of Athapaskan Population History
  19. ^ Matthew C. Dulik et al 2012, Y-chromosome analysis reveals genetic divergence and new founding native lineages in Athapaskan- and Eskimoan-speaking populations PNAS May 29, 2012 vol. 109 no. 22
  20. ^ バリー・フェル(著)、喜多迅鷹・元子(訳)『紀元前のアメリカ』(1981)草思社
  21. ^ Bolnick, Deborah A. et al 2006, Asymmetric Male and Female Genetic Histories among Native Americans from Eastern North America
  22. ^ Learn about Y-DNA Haplogroup Q” (Verbal tutorial possible). Wendy Tymchuk – Senior Technical Editor. Genebase Systems (2008年). 2010年6月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。22 June 2010閲覧。
  23. ^ Salas A, Lovo-Gómez J, Álvarez-Iglesias V, Cerezo M, Lareu MV, Macaulay V, et al. (2009) Mitochondrial Echoes of First Settlement and Genetic Continuity in El Salvador. PLoS ONE 4(9): e6882. doi:10.1371/journal.pone.0006882
  24. ^ 『太ったインディアンの警告』(エリコ・ロウ、NHK出版)
  25. ^ McKenna, Erin, and Scott L. Pratt. 2015. American Philosophy: From Wounded Knee to the Present. Bloomsbury. p. 375.
  26. ^ [1] Counting the Dead: Estimating the Loss of Life in the Indigenous Holocaust, 1492-Present David Michael Smith University of Houston-Downtown
  27. ^ 『American Holocaust』(David Stannard,Oxford University Press, 1992)
  28. ^ [2]
  29. ^ [3]
  30. ^ [4]
  31. ^ [5]
  32. ^ Frank, JW; Moore, RS; Ames, GM (2000). “Historical and cultural roots of drinking problems among American Indians”. Am J Public Health 90 (3): 344–51. doi:10.2105/ajph.90.3.344. PMC 1446168. PMID 10705850. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1446168/. 
  33. ^ Brown, Dee (1971). Bury My Heart at Wounded Knee. New York: Henry Holt 
  34. ^ Gilbert Quintero "Making the Indian: Colonial Knowledge, Alcohol, and Native Americans." American Indian Culture and Research Journal, 2001, Vol. 25, No. 4, pp. 57–71
  35. ^ Barbash, Fred; Elkind, Peter (1980年7月1日). “Sioux Win $105 Million” (英語). The Washington Post. ISSN 0190-8286. https://www.washingtonpost.com/archive/politics/1980/07/01/sioux-win-105-million/a595cc88-36c6-49b9-be4f-6ea3c2a8fa06/ 2021年12月22日閲覧。 





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