VR感覚とは? わかりやすく解説

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VR感覚

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/26 12:31 UTC 版)

VR感覚(ブイアールかんかく、: Phantom Sense)は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いたバーチャルリアリティ(VR)体験中において、ハプティクスデバイスを使用せずに、主に視覚聴覚のみが再現されているにもかかわらず、それ以外の感覚錯覚として生じる現象を指す[1][2][3][4][5][6][7][8]ファントムセンスV感(ブイかん)、VR感度とも呼ばれる。

このうち触覚は「ゾワゾワする感覚(tingling)」や「圧力感」などと表現されることがある[2][3][6][7]

この用語は主にソーシャルVRコミュニティで用いられる俗称であり、学術的に確立された定義は定まっていないと考えられる[4][5]

幻肢Phantom Limb)および幻肢痛Phantom Pain)と関連付けられることも多く[4][8]、英語圏では主にファントムセンス(Phantom Sense)、あるいはファントムタッチ(Phantom Touch)などと呼称される[1][2][3][4][6]

この疑似触覚現象に対する呼称は「Phantom Sense」[1][2][3][8][9]「Phantom Sensation」[3]「Phantom Touch」[2][3][6]「Virtual Touch」[3]「Phantom Tactile Sensation(PTS)」[3]「Phantom Touch Illusion(PTI)」[7]などと多岐にわたり、統一されていないと考えられる。

現行の研究は触覚や身体所有感(Sense of Body Ownership)に関するものが主流であり、それ以外の嗅覚・味覚・痛覚・温度感覚などの異なるメカニズムが関与する可能性のある感覚や、あるいは適性の高いユーザーがバーチャルセックス中に感じるとされる性的快感[9][10][11]に関する体系的な研究は少ないとされる[5][11]

また、鏡に写る自身のアバターを視認することで身体所有錯覚が生じる現象[2][8]が報告されており、この身体所有錯覚で生じるVR感覚はソーシャルVRコミュニティでは「鏡感度」というスラングで呼称される[要出典]

実態と統計調査

VR感覚は、現状ではすべてのユーザーが確実に体験できるものではない。

その経験率は統計や母集団によって若干の差異が見られるが、約7割のユーザーが落下感を経験する一方で、最も一般的とされる触覚については、どの統計でも4割程度と半数に満たない[3][6][12][13]。温度感覚や嗅覚、味覚などの経験者は更に少なく[12][13]、中には痛覚を経験したとするユーザーも存在する[1][14]。また、尻尾や猫耳といった現実には存在しない部位の感覚を有するユーザーも18%程度報告されている[12][13]

AlexdottirとYangの調査[6]では、VRChatユーザー40人のうち41%が「ファントムタッチ」を経験したことがあると回答している。

また、2007人[15]を対象として行われた2023年のソーシャルVRライフスタイル調査[13]では、触覚を体験できるユーザーは43%とされており、これは2021年に行われた同氏の調査[12]における45%、およびAlexdottirとYangの報告[6](41%)ともおおむね一致している。

VR感覚の体験の有無や強度の差には個人差があり、複合的な要因が関与していると考えられている[6]

ユーザーがVR感覚を最も体験しやすい部位は顔や頭だとされており、続いて指・手・胸や腹部・足・非実在部位の順に報告されている[6][12][13]。細かい比率は調査によって異なるが、上半身から下半身にかけて、すなわち神経終末が密に分布している部位ほど感覚を生じやすいという傾向は共通しており、これは皮質ホムンクルス(en:Cortical homunculus)の分布とも類似している[6]

感覚ごとの相関については、「似た感覚同士には一定の相関がある」とする報告[12]と、「強い相関は認められない」とする報告[16]が混在しており、さらなる検証が求められる。

また、VR感覚の経験率とVRのプレイ時間のあいだには弱い相関しか認められておらず、プレイ時間が500~1000時間を超えると経験率の増加が頭打ちになると報告されている[12][13]。この傾向は、Oyanagiらの「同一アバターの継続使用によって生じる身体所有感の強化は、おおよそ14日間で頭打ちになる」とする研究[17]と類似している。一方で、AlexdottirとYangによる研究では、VRの使用期間や頻度とVR感覚の発現に相関は認められないが、VR感覚を誘発させる特定の行動を継続的に行うことが影響している可能性が示唆されている[6]。いずれにしても、VR感覚の発現は、アバターへの身体所有感の獲得が大きく関与するとされている[3][6][8][9]。→「#原理

原理

クロスモーダル現象

視覚と触覚、聴覚と嗅覚、味覚と嗅覚など人間の感覚に五感が相互に作用し合う現象のこと。VRにおいては、飲み物や食べ物を顔に近づけた時、においや味を知覚したり、実際の室温は変わらなくても、火の近くに行くと温かくなったように感じることがあったりなどする[18]

共感覚

実際に関連する脳の部位が反応していて、脳は本当にその感覚を感じている。

危険性

主に触覚や痛覚を感じる人に対し、鈍器や刃物などを突き立てた際、しびれ、脱力、意識喪失などが発生する恐れがある[19]

脚注

  1. ^ a b c d Phantom sense” (英語). VRChat Wiki. 2025年7月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f Järvelä, Jerry (2023年). “Online identity in VRChat”. www.theseus.fi. 2025年7月18日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j Chen, Qijia; Spapé, Michiel M.; Jacucci, Giulio (2024-04-26). “Understanding Phantom Tactile Sensation on Commercially Available Social Virtual Reality Platforms”. Proc. ACM Hum.-Comput. Interact. 8 (CSCW1): 141:1–141:22. doi:10.1145/3637418. https://dl.acm.org/doi/10.1145/3637418. 
  4. ^ a b c d Nem, Virtual Girl (2024年2月28日). “VRにおけるファントムセンスとは?VR感覚の謎めいた世界を解明しよう”. VIVERSE Blog - Latest News & Announcements. 2025年7月18日閲覧。
  5. ^ a b c アバターで肉体をアップデート!?『VR感覚』のメカニズムを東大のVR教育研究センター特任研究員に聞いてみた | バーチャルライフマガジン”. vr-lifemagazine.com (2021年4月14日). 2025年7月18日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l Alexdottir, Sasha; Yang, Xiaosong (2022-10). Phantom Touch phenomenon as a manifestation of the Visual-Auditory-Tactile Synaesthesia and its impact on the users in virtual reality. IEEE. pp. 727–732. doi:10.1109/ISMAR-Adjunct57072.2022.00218. ISBN 978-1-6654-5365-3. https://ieeexplore.ieee.org/document/9974405/. 
  7. ^ a b c Pilacinski, Artur; Metzler, Marita; Klaes, Christian (2023-09-18). “Phantom touch illusion, an unexpected phenomenological effect of tactile gating in the absence of tactile stimulation” (英語). Scientific Reports 13 (1): 15453. doi:10.1038/s41598-023-42683-0. ISSN 2045-2322. PMC 10507094. https://www.nature.com/articles/s41598-023-42683-0. 
  8. ^ a b c d e Asshoff, Rasmus (2022). Welcome to VRChat : An ethnographic study on embodiment and immersion in virtual reality. https://urn.kb.se/resolve?urn=urn:nbn:se:su:diva-206758 
  9. ^ a b c Krell, Felix; Wettmann, Nico (2023). “Corporeal Interactions in VRChat: Situational Intensity and Body Synchronization” (英語). Symbolic Interaction 46 (2): 159–181. doi:10.1002/symb.629. ISSN 1533-8665. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/symb.629. 
  10. ^ 「バーチャルセックス」体験したらすごかったし人類を滅ぼしかねないと思った話 【バーチャル美少女ねむの寄稿】(1/2)”. ねとらぼ (2021年5月31日). 2025年7月18日閲覧。
  11. ^ a b 髙橋, 佑基 (2025). “VRChat における若年層ユーザーのバーチャルセックスの実態”. 日本デジタルゲーム学会 年次大会 予稿集 15: 139–144. doi:10.57518/digrajproc.15.0_139. https://www.jstage.jst.go.jp/article/digrajproc/15/0/15_139/_article/-char/ja/. 
  12. ^ a b c d e f g バーチャル美少女ねむ; Bredikhina, Liudmila (2021). “ファントムセンス(vr感覚)の実態調査”. バーチャル学会発表概要集 2021: 29–29. doi:10.57460/vconf.2021.0_29. https://www.jstage.jst.go.jp/article/vconf/2021/0/2021_29/_article/-char/ja/. 
  13. ^ a b c d e f ソーシャルVRライフスタイル調査2023 (Nem x Mila, 2023)|バーチャル美少女ねむ/Nem⚡メタバース文化エバンジェリスト”. note(ノート) (2023年11月6日). 2025年7月23日閲覧。
  14. ^ Yuan, Ye; Steed, Anthony (2010-03). “Is the rubber hand illusion induced by immersive virtual reality?”. 2010 IEEE Virtual Reality Conference (VR): 95–102. doi:10.1109/VR.2010.5444807. https://ieeexplore.ieee.org/document/5444807/. 
  15. ^ メタバース住人の生活実態を可視化する大規模調査レポート「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」公開 サンプル数2,000で過去最大規模に”. valuepress. 2025年7月23日閲覧。
  16. ^ Kunitake-Sukaneki (2020). “Vr空間における人体の各種擬似感覚(vr感覚)の関係性分析”. バーチャル学会発表概要集 2020: 20. doi:10.57460/vconf.2020.0_20. https://www.jstage.jst.go.jp/article/vconf/2020/0/2020_20/_article/-char/ja/. 
  17. ^ Oyanagi, Akimi; Narumi, Takuji; Aoyama, Kazuma; Ito, Kenichiro; Amemiya, Tomohiro; Hirose, Michitaka (2021). Yamamoto, Sakae; Mori, Hirohiko. eds. “Impact of Long-Term Use of an Avatar to IVBO in the Social VR” (英語). Human Interface and the Management of Information. Information Presentation and Visualization (Cham: Springer International Publishing): 322–336. doi:10.1007/978-3-030-78321-1_25. ISBN 978-3-030-78321-1. https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-030-78321-1_25. 
  18. ^ クロスモーダルとは 関連企業や最新ニュースも | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞”. www.nikkei.com. 2024年5月8日閲覧。
  19. ^ みたらし (2018年10月28日). “VRで断頭台に……刃が落とされた瞬間ユーザーに起きた“異変””. MoguLive. 2024年5月8日閲覧。



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