A2牛乳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/13 15:00 UTC 版)
A2牛乳(A2ぎゅうにゅう)とは、その成分中に含まれるβ-カゼインの種類がA2型である牛乳のことである[1]。a2ミルク・カンパニー等の企業が仕入れ、オーストラリア、ニュージーランド、中国、米国、日本[2]などで販売されている。またイギリスにおいても2012年から2019年までの間販売されていた[3][4]。牛乳以外でも母乳や他の家畜の乳においてはA2型のベータカゼインを含むため、A2ミルクという場合はこれらを指している場合もある[5][6]。
a2ミルク・カンパニーや、ヤギの乳を生産する企業の中にはA1型のタンパク質が有害であるという主張をするものもあるが[7]、A1型のタンパク質が健康に害を及ぼすという直接的な科学的根拠はまだ広く受け入れられていない[8]。
A1型とA2型の違いはβ-カゼイン中のアミノ酸配列で1つのアミノ酸が異なる点にある。a2ミルク・カンパニーによって開発された遺伝子検査により、乳牛がA2型とA1型のどちらのβ-カゼインを含む乳を出すのか判定することができる[9]。
歴史
1980年代、数名の医学者がカゼイン由来のものを含むペプチドが消化に悪影響もしくは良い影響をもたらす可能性について研究を始めた[10]。
1990年代初めにはβ-カゼインのA1型とA2型の違いに着目した研究が疫学的観点から始められ、ニュージーランドの動物実験ではA1型ベータカゼインと慢性疾患との相関関係が認められた[11]。この研究は科学界だけでなく、メディアや企業の注目も浴びた。もしBCM-7が本当に人体に悪影響を及ぼすのであれば、公衆衛生上の問題になるだけでなく、ビジネスチャンスも生まれるからである[11]。
牛乳は87%の水と13%の成分(乳脂肪、乳糖、ミネラル、タンパク質など)で構成される。カゼインは牛乳に含まれるタンパク質の一種で、そのうち30~35パーセントがβ-カゼインである。β-カゼインの変異型のうち特に主要なものがA1型とA2型であり、その違いはアミノ酸配列の67番目にある。この67番目のアミノ酸がヒスチジンであればA1型、プロリンであればA2型となる[11]。
研究によると、消化酵素によってβ-カゼインはちょうど67番目で切断されるため、A1型とA2型では異なる消化のされ方をする。アミノ酸7残基からなるペプチドであるβ-カソモルフィン 7(BCM-7)は、A1型β-カゼインが消化酵素によって分解された結果放出されるが、67番目のアミノ酸が異なるA2型β-カゼインからは放出されない[11]。
ヒトにおける研究では、BCM-7が人体の消化器官で生成されるという結果は出ていない[12]。BCM-7は牛乳の発酵過程やチーズの製造過程で生成される可能性もあるが、一方で同じ過程がBCM-7を破壊する可能性もある[4]。
A1型とA2型の違いはウシがヨーロッパへ北上した5千年から1万年前に発生した突然変異によって生まれたと考えられており、その過程で67番目のアミノ酸がヒスチジンに置き換わり、品種改良によって西側諸国のウシに普及していったと考えられている[11][13]。
A1型とA2型のβ-カゼインタンパク質の割合は、ウシの群れごとに、また国や地域によっても異なっている。アフリカやアジアのウシがA2牛乳のみを産生する一方で、西側諸国においてはA1牛乳を産生するウシが一般的である[11]。A1β-カゼインはフランスを除くヨーロッパ、アメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランドの牛乳に広くみられる[4]。ジャージー種の7割以上はA2のみを含む牛乳を産生するが、ホルスタイン等の46~70パーセントはA1型とA2型が混ざった牛乳を産生する[14]。
A2コーポレーション
A2コーポレーションは2000年に設立されたニュージーランドの会社で、A1β-カゼインを含まないA2牛乳を産生するウシを特定する遺伝子検査を商業化させた[11][15][16]。2003年には同社のウェブサイト上で「A1型β-カゼインは成人男性の心臓疾患に対するリスクファクターとなる可能性があり、子どもの糖尿病にも関係する可能性がある」と述べ、さらに同社CEOはA1β-カゼインを統合失調症や自閉症とも関連付けた[17]。さらに同社はオーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)に対して一般的な牛乳に対して警告するよう要請した[11]。
同社は当初自社の牛乳がA1タンパク質を含まないと宣伝していたが、2003年にニュージーランド商業委員会が検査したところA1タンパク質が含まれていることがわかり、「A1タンパク質を含まない」と表記することが禁止された[1]。
2014年4月にA2コーポレーションはA2ミルク・カンパニーと社名を変更し、オーストラリアの牛乳シェア8%を有している[18][19]。
「A2ミルク」はA2ミルク・カンパニーの商標である[20]。
脚注
- ^ a b “Advertising of A2 milk changes following Commerce Commission warning | Commerce Commission”. New Zealand Commerce Commission (2003年11月21日). 2025年6月13日閲覧。
- ^ 浜野琴星 (2025年5月20日). “「A2牛乳」長期保存OK、プリンも登場 商品増やし販路拡大”. 日本経済新聞. 2025年6月13日閲覧。
- ^ “A2 Milk exits UK market”. Marcus Stead (2019年11月6日). 2025年6月13日閲覧。
- ^ a b c European Food Safety Authority (3 February 2009). “Review of the potential health impact of β-casomorphins and related peptides”. EFSA Journal 7 (2): 231r. doi:10.2903/j.efsa.2009.231r.
- ^ Jung, Tae-Hwan; Hwang, Hyo-Jeong; Yun, Sung-Seob; Lee, Won-Jae; Kim, Jin-Wook; Ahn, Ji-Yun; Jeon, Woo-Min; Han, Kyoung-Sik (31 December 2017). “Hypoallergenic and Physicochemical Properties of the A2 β-Casein Fractionof Goat Milk”. Korean Journal for Food Science of Animal Resources 37 (6): 940–947. doi:10.5851/kosfa.2017.37.6.940. PMC 5932946. PMID 29725217.
- ^ Pasin, PhD, Gonca (2017年2月9日). “A2 Milk Facts - California Dairy Research Foundation”. cdrf.org. 2021年5月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月12日閲覧。
- ^ “Why the A2 Protein Makes Goat Milk Such a Game Changer”. The Good Goat Milk Company (2017年8月15日). 2022年7月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月12日閲覧。
- ^ “ファクトブック A2ミルク “いま、わかっていること、まだわかっていないこと””. 一般社団法人Jミルク (2024年8月). 2025年6月11日閲覧。
- ^ Woodford, Keith (2010). Devil in the milk – Illness, health and politics A1 and A2 milk (Updated ed.). Craig Potton Publishing. pp. 21. ISBN 978-1-877333-70-5
- ^ Millward, C; Ferriter, M; Calver, S; Connell-Jones, G (2008). Ferriter, Michael. ed. “Gluten- and casein-free diets for autistic spectrum disorder”. Cochrane Database of Systematic Reviews (2): CD003498. doi:10.1002/14651858.CD003498.pub3. PMC 4164915. PMID 18425890.
- ^ a b c d e f g h Truswell, A.S. (2005), “The A2 milk case: a critical review”, European Journal of Clinical Nutrition 59 (5): 623–631, doi:10.1038/sj.ejcn.1602104, PMID 15867940
- ^ Clemens, Roger A. (2011). “Milk A1 and A2 Peptides and Diabetes”. Milk and Milk Products in Human Nutrition. Nestlé Nutrition Institute Workshop Series. 67. pp. 187–195. doi:10.1159/000325584. ISBN 978-3-8055-9586-5. PMID 21335999
- ^ Swinburn, Boyd (13 July 2004). “Beta casein A1 and A2 in milk and human health”. Report to New Zealand Food Safety Authority. オリジナルの23 January 2019時点におけるアーカイブ。 2014年8月17日閲覧。.
- ^ "The A-B-C of milk" (Press release). Dairy Australia. 21 April 2011. 2014年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月3日閲覧。
- ^ Australian Broadcasting Corporation. 31 March 2003 Transcript of "White Mischief" Archived 8 August 2014 at the Wayback Machine., an episode Archived 14 July 2014 at the Wayback Machine. of Four Corners, an investigative journalism series.
- ^ Staff, New Zealand Herald. 14 May 2001 A2 protein milk supply on horizon
- ^ Staff, New Zealand Herald. 28 April 2003 A2 milk launched in NZ, outside Fonterra's structure
- ^ Press Release, A2 Corporation. 31 March 2014 A2 changes name
- ^ Adams, Christopher (2014年6月7日). “Lion relaunch a bid to slow A2 growth”. The New Zealand Herald (Auckland) 2014年6月20日閲覧。
- ^ “A2 MILK Trademark of A2 Corporation Limited – Registration Number 4693969 – Serial Number 85453431”. Justia Trademarks. 2017年2月8日閲覧。
参考文献
- “ファクトブック A2ミルク “いま、わかっていること、まだわかっていないこと””. 一般社団法人Jミルク (2024年8月). 2025年6月11日閲覧。
関連項目
外部リンク
- A2牛乳のページへのリンク