結晶運動量とは? わかりやすく解説

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結晶運動量

(結晶波数 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/17 21:33 UTC 版)

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固体物理学における結晶運動量(けっしょううんどうりょう、: crystal momentum)または擬運動量(ぎうんどうりょう、: quasimomentum、準運動量とも)[1]とは、結晶格子中の電子に関する運動量に似たベクトル量。格子中で電子が持つ波数ベクトル k によって以下のように定義される。

分散系、すなわち群速度位相速度が異なる系における波束。この図は1次元実数変数の波を示しているが、実際の電子波束は3次元複素数の波である。

結晶運動量と、測定可能な物理量である速度との間の対応関係は以下のようになる[9]

これは波の群速度の式と等しい。ハイゼンベルクの不確定性原理のため、電子について k を正確に定義するのと同時に結晶内の位置を確定することはできない。しかし一方で、電子が(多少の不確定性はあれど) k を中心とする運動量の分布を持ち、(多少の不確定性はあれど)特定の位置を中心として振幅を持つような波束を形成することは可能である。そのような波束の中心位置は波の伝播にともなって上式の v で結晶中を運動する。現実の結晶で起きている電子の運動とはこのようなものである。しかし、電子が特定の方向に決まった速さで進むことができるのは短い時間のみで、やがて結晶中の不完全な部分と衝突することでランダムに運動方向が変わる。この衝突は電子散乱と呼ばれ、通常格子欠陥や表面、あるいは結晶を構成する原子のランダムな熱運動(フォノン)によって引き起こされる[10]

電場や磁場に対する応答

結晶運動量は電子の半古典的動力学においても重要な役割を果たす。この理論では、電子は運動方程式

に従う(CGS単位系[8]。これらの式は格子構造を持たない自由空間において電子が従う式と寸分違わない。その意味で、結晶運動量と真の運動量とのアナロジーがもっとも効果を発揮する局面はおそらくここだと言える。結晶運動量はこの種の計算に大きな利点があり、電子の運動軌道を計算する際、上記の式を用いるなら外場だけを考えればいいのに対して、真の運動量に基づく運動方程式では外場のほかにあらゆる格子イオンからのクーロン力とローレンツ力を計算に取り入れなければならない。

応用

ARPES

角度分解光電子分光 (ARPESでは、結晶試料に光を照射することで結晶から電子を放出させる。この相互作用の過程を通して、結晶運動量と真の運動量の2つの概念を合わせて用い、それによって結晶のバンド構造に関する情報を直接得ることができる。つまり、結晶中で電子が持っていた結晶運動量は結晶外で真の運動量へと変わり、真の運動量は電子の放出角度 θ と運動エネルギー Ekin を測定して以下の式に代入することで推定できる。

ここで p は真の運動量 p の結晶表面に平行な成分、m は電子の質量である。興味深いことに、結晶表面に垂直な方向については界面で結晶対称性が失われるため、この方向の結晶運動量は保存されない。したがって、有用なARPESデータが得られるのは結晶表面に平行な方向に限られる[11]

脚注

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注釈

  1. ^ より正確に表現すると、ハミルトニアンが運動項とポテンシャル項の単純な和であるような状況では、無限の周期ポテンシャルを持つハミルトニアンは格子並進の演算子 T(a)交換可能となる[4]
  2. ^ この定理は、ハミルトニアンが格子並進の演算子と交換可能であるという前述の事実から直接導くことができる[5][6]
  3. ^ 例えば、自由粒子に対する並進演算子が、量子力学的には波数ベクトルで、古典的には正準運動量で表されることからそのような定義を導ける[7]
  4. ^ この性質は、離散対称性を持つ格子では自由空間のようにネーターの定理から運動量保存則を導くことができない、という事実から導かれる。
  5. ^ その一方、自由粒子では指数関数項だけで運動エネルギーが決まる。

出典

参考文献

論文

書籍




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