細胞質での増殖と運動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 15:42 UTC 版)
他の多くの細菌の場合、エンドサイトーシスによって取り込まれたエンドソームが細胞内のリソソームと結合すると、その内部に取り込まれていた細菌が殺菌されてしまうが、赤痢菌の場合は、リソソームと結合する前にエンドソームから抜け出す能力を備えているため、細胞質に逃げ出すことによって殺菌を逃れることが可能である。このような殺菌回避は赤痢菌の他に、リステリアやレンサ球菌に見られる。ただし赤痢菌の場合、この殺菌回避機構がどのような分子メカニズムによるものかはよく判っていない。赤痢菌は、このようにして感染した上皮細胞の細胞質に移行し、そこで増殖する。なお通常、細胞では細胞質に異物がある場合には、オートファジーによって異物を排除しようとする機構が働くが、赤痢菌はicsBと呼ばれる菌体表面のタンパク質によってオートファジーを抑制することで、排除されずに細胞内で増殖することが可能である。 赤痢菌は鞭毛を持たないため、細胞外では運動性を持たない(鞭毛による遊泳ができない)が、細胞質内では細胞骨格を構成するアクチンを利用して、活発に運動することが可能である。この機構には、III型分泌機構によって分泌される菌体表面タンパク質の一つ、icsA(またはVirGと呼ばれる)が関与している。icsAは赤痢菌菌体の片方の端に局在しており、アクチンを再構成し重合させる働きを持つ。このタンパク質の働きによって、icsAがある側ではアクチンの繊維が重合して積み上げられ、それを足場にする形で推進力を得て、赤痢菌は細胞質を移動する。このとき、赤痢菌が移動した跡にアクチンの繊維が残って彗星の尾やロケットのように見えるため、この現象はコメットテイル、アクチンロケットなどとも呼ばれる。アクチンロケットによる細胞質内の移動は、赤痢菌以外にもリステリアやリケッチアなどの細菌で見られる。 赤痢菌はアクチンを利用して感染細胞内を移動するだけでなく、感染した細胞から隣接する細胞にアクチンロケットを伸ばして隣接細胞に貫入し、最終的にはその細胞内に侵入する。これによって赤痢菌は周辺の細胞に感染を広げていく。
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