砂川政教分離訴訟
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最高裁判所判例 | |
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事件名 |
財産管理を怠る事実の違法確認請求事件 空知太神社事件 |
事件番号 | 平成19(行ツ)260号 |
2010(平成22)年1月20日 | |
判例集 | 民集第64巻1号1頁 |
裁判要旨 | |
(富平神社について)市有地内に神社が鎮座する違憲状態解消のための無償譲渡なので合憲。 (空知太神社について)市有地を宗教団体へ無償提供する行為は、日本国憲法の定める政教分離に反しており違憲である。 | |
大法廷 | |
裁判長 | 竹﨑博允 |
陪席裁判官 | 藤田宙靖、甲斐中辰夫、今井功、中川了滋、堀籠幸男、古田佑紀、那須弘平、田原睦夫、近藤崇晴、宮川光治、櫻井龍子、竹内行夫、金築誠志 |
意見 | |
多数意見 |
(富平神社について)竹﨑博允、藤田宙靖、甲斐中辰夫、今井功、中川了滋、堀籠幸男、古田佑紀、那須弘平、田原睦夫、近藤崇晴、宮川光治、櫻井龍子、竹内行夫、金築誠志 (空知太神社について)竹﨑博允、藤田宙靖、甲斐中辰夫、中川了滋、古田佑紀、那須弘平、田原睦夫、近藤崇晴、宮川光治、櫻井龍子、竹内行夫、金築誠志 |
意見 |
(富平神社について)無し (空知太神社について)甲斐中辰夫、中川了滋、古田佑紀、竹内行夫 |
反対意見 |
(富平神社について)無し (空知太神社について)今井功、堀籠幸男 |
参照法条 | |
憲法20条1項・89条 民事訴訟法149条1項・2項、地方自治法242条の2第1項3号 |
砂川政教分離訴訟(すながわせいきょうぶんりそしょう)は、北海道砂川市が神道の二つの神社に土地を無償で提供していることが日本国憲法の政教分離に反するとして、2004年に提訴、2010年に合憲と違憲判断が下された事件。
概要
この裁判では形式上は砂川市内に鎮座する二つの神社、(富平神社・空知太神社)について別々に争われたが、原告・被告や最高裁の判決日時は全て同じである。前者は神社が鎮座する私有地を神社を管理する町内会に市が無償譲渡した。後者は市が町内会に対し、市有地を無償貸与していたが、敷地内は鳥居が建てられ、また、町内会会館内部に祠が建てられた。しかし、そのような土地利用は公共の土地である以上、日本国憲法に定められている政教分離の原則に反するものではないかと訴訟になり、前者は一審(札幌地裁)・二審(札幌高裁)ともに合憲と判断され、後者は一審・二審共に違憲と判断し、鳥居等の撤去を命じた。原告、被告が共に最高裁に上告した。
富平神社に関する判決
最高裁は、前者については市有地内に神社が鎮座する違憲状態の解消の為の行為であるので裁判官の全員一致で合憲と判断し、判決が確定した。
この土地は、町内会の前身である部落会が実質的に所有していたが、1935年に小学校の教員住宅建設を目的に寄贈されたものであり、教員住宅が取り壊されたため1976年以降は当該部落会・町内会の用途に使用するために管理を委託していたものである。最高裁は、この土地を無償譲渡することは、公用の廃止された普通財産を寄附者の包括承継人に譲与することを認める市の条例の趣旨や、社寺等の財産権及び信教の自由を尊重しつつ国と宗教との結び付きを是正解消するために過去に実施された無償譲渡の事例から考えて、相当性を欠くということはできないとした。
空知太神社に関する判決
まず、本判決は、「国公有地が無償で宗教的施設の敷地としての用に供されている状態が、前記の見地から、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて憲法89条に違反するか否かを判断するに当たっては、当該宗教的施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地としての用に供されるに至った経緯、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべき」[1]と述べる。これは、従来の政教訴訟で必ず適用されてきた目的効果基準と異なる総合衡量基準と称されている。
最高裁は、「後者については小学校の敷地拡張に協力した住民への感謝の意、そして公共的な意味合いで始まったものとしても、市が特定の宗教団体に便宜を図っていると一般人の目線から見て判断されてもやむを得ないものであり、前述の過去と勘案しても、日本国憲法の定める政教分離の原則に反しており違憲である」と判示した[1]。しかし、利用提供が行われるに至った事情は、それが違憲であることを否定するような事情として評価することまではできないとしても、解消手段の選択においては十分に考慮されるべきとした上で、鳥居等の撤去は氏子たちの信教の自由を侵害する行為であるとして、日本国憲法施行前日に神社・仏閣が鎮座する国有地が無償譲渡等された例を挙げ、撤去以外の方法での違憲状態の解消を求め、原判決を破棄して札幌高裁へ差し戻した[1]。
原告概要
原告は日本キリスト教会の教会員である[2]。また、原告側代理人は石田明義弁護士[3]。
最高裁判決への反応
日本キリスト教協議会(NCC)は声明を発表し、「1997年の最高裁大法廷愛媛玉串料違憲判決に次ぐ二例目の最高裁大法廷違憲判決を、当然のことではあるが、評価するとともに、これまで闘って来られた二人の原告と弁護団に敬意を表するものである」としている[4]。
神社本庁の小間沢肇渉外部長は「歴史的かつ現実の国民生活の実情を無視するもので、無用な混乱を招くことが懸念される」との声明を発表した。
その後
違憲判決の後、空知太神社の施設を1箇所に集約し、その敷地を適正な賃料を払って砂川市から賃貸してもらうように変更された。その措置が合憲であるかについても最高裁まで争われたが、合憲とされた[5]。
経緯
- 富平神社事件
- 上記記載の通り、平成22年(2010年)1月20日の最高裁判決で合憲とされた。
- 空知太神社事件
- 上記記載の通り、違憲とされた。
- 【差戻し控訴審】札幌高判平成22年(2010年)12月6日
- 【差戻し上告審】最大判平成24年(2012年)2月16日
- 2010年の違憲判決の後、敷地を適正な賃料で賃貸することとした結果、合憲との判断が示された。
脚注
- ^ a b c 最高裁判所大法廷判決 平成22年1月20日 民集第64巻1号1頁、平成19(行ツ)260、『財産管理を怠る事実の違法確認請求事件』。
- ^ 2010年01月31日号 : 砂川訴訟で最高裁「違憲」判断 - 神社への市有地無償提供に政教分離違反 クリスチャン新聞
- ^ 石田明義「北海道砂川市・空知太神社政教分離住民訴訟」法学セミナー673号30-33頁
- ^ 北海道砂川市における政教分離裁判最高裁大法廷違憲判決への声明
- ^ 岡山大学大学院法務研究科教授 田近肇「判例における政教分離原則」 宗務時報 No.120(発行日:2015年10月30日、編集・発行:文化庁文化部宗務課) (PDF) 11頁
参考文献
- 季刊『Ministry』収録「「社会通念」の暴威-砂川政教分離訴訟」森本あんり キリスト新聞社
関連項目
外部リンク
固有名詞の分類
- 砂川政教分離訴訟のページへのリンク