本居宣長・石塚龍麿
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「上代特殊仮名遣」の記事における「本居宣長・石塚龍麿」の解説
上代特殊仮名遣の研究はまず本居宣長によって端緒が開かれた。宣長の著した『古事記』の注釈書、『古事記伝』には、第一巻の「仮字の事」ですでに「同じ音の中でも、言葉に応じてそれぞれに当てる仮字が使い分けられている」ことが指摘されている。 さて又同音の中にも、其言にひて用る仮字異にして各定まれること多くあり。其例をいはゞ、コの仮字には普く許古二字を用ひたる中に、子には古字をのみ書て許字を書ることなくメの仮字には普く米賣二字を用ひたる中に、女には賣字をのみ書て米字を書ることなくキには伎岐紀を普く用ひたる中に、木代には紀をのみ書て伎岐をかゝず、…(中略)…右は記中に同言の数処に出たるを験て此彼挙げたるのみなり。此類の定まりなほ余にも多かり。此は此記のみならず、書記萬葉などの仮字にも此定まりほのゞゝ見えたれど、其はいまだ徧くもえ験ず。なほこまかに考ふべきことなり。然れども此記の正しく精しきには及ばざるものぞ。抑此事は人のいまだ得見顕さぬことなるを、己始て見得たるに、凡て古語を解く助となることいと多きぞかし。(本居宣長『古事記伝』) また、宣長は『古事記伝』再稿本においてこれが音の区別によるものであると考えた記述を残したが、のちに削除してしまった。 凡て此類いかなる故とは知れねども古おのづから音(こゑ)の別れけるにや この宣長の着想をさらに発展させたのが彼の門弟・石塚龍麿による『仮名遣奥山路』(1798年頃発表)であった。これは万葉仮名の使われた『古事記』・『日本書紀』・『万葉集』について、その用字を調査したものであり、エ・キ・ケ・コ・ソ・ト・ヌ・ヒ・ヘ・ミ・メ・ヨ・ロ・チ・モの15種について用字に使い分けがあると結論づけた。しかし、当時は本文批判が盛んでなく、調査に使われたテキストに誤記が含まれていたことや仮名の使い分けが音韻の違いに結びつくという結論付けがなされていなかったこと、それに石塚の著作が刊行されずに写本でのみ伝わっていたこともあり、注目を集めることはなかった。 石塚龍麿を受けて書かれた草鹿砥宣隆『古言別音抄』(1848序)は、これらの仮名遣いの違いが、今では同音だが古言では音が異なっていたと明言し、音の違いに基づくことをはっきりと認識している。 なお、『仮名遣奥山路』で示されている区別のうち、エの2種類については他の学者によっても指摘され、ア行エ /e/ とヤ行エ /je/ の違いであることがわかっている。
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