平家一門の運命の回顧
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/13 15:06 UTC 版)
「敦盛 (能)」の記事における「平家一門の運命の回顧」の解説
敦盛は、栄華を極めた平家が没落していった運命を回顧する。 地謡〽しかるに平家、世をとつて二十余年、まことにひと昔の、過ぐるは夢のうちなれや、寿永の秋の葉の、四方(よも)の嵐に誘はれ、散り散りになる一葉(いちよう)の、船に浮き波に臥して、夢にだにも帰らず、籠鳥(ろうちょう)の雲を恋ひ、帰雁列(つら)を乱るなる、空定めなき旅衣、日も重なりて年月(としつき)の、立ち帰る春の頃、この一の谷に籠もりて、しばしはここに須磨の浦シテ〽後ろの山風吹き落ちて地謡〽野も冴えかへる海ぎはに、船の夜(よる)となく昼となき、千鳥の声もわが袖も、波に萎るる磯枕、海士(あま)の苫屋(とまや)に共寝して、須磨人にのみ磯馴松(そなれまつ)の、立つるや夕煙、柴といふもの折り敷きて、思ひを須磨の山里の、かかる所に住まひして、須磨人になり果つる、一門の果てぞ悲しき さて平家は、天下をとって二十年余りになったが、それも本当に一昔のことで、夢のように過ぎた。寿永年間の秋、木の葉が四方から吹く嵐で散り散りになるように、平家は木の葉のような船に乗り、夜も船上で眠り、夢でさえ都に帰ることができなくなった。籠の鳥が雲を恋しく思うように都を思い、北へ帰る雁が列を乱すように心が乱れ、定めのない旅を続け、日数も重なって月日が過ぎ、まためぐってきた春の頃、この一の谷に籠もって、しばらくはここ須磨の浦に落ち着くこととなった。[敦盛](秋となると)背後の山から風が吹き下ってきて――野も寒さで冴え返り、海岸には船が集まっているが、昼夜聞こえる千鳥の声も、私の袖も波や涙に濡れている。海士の粗末な家に一緒に住み、須磨の田舎人となじみ、夕方塩を焼く煙の中、柴を折り敷いて、物思いをする。須磨の山里の、このような田舎に住んで、須磨人になってしまった、平家一門の末路は悲しいものだ。
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