実際のフィリップス曲線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 04:19 UTC 版)
「フィリップス曲線」の記事における「実際のフィリップス曲線」の解説
右のグラフは、米国経済のフィリップス曲線である。縦軸が物価上昇率、横軸が失業率で、どちらも単位は100ベーシスポイント(1%)である。1960年代後半は、失業率の低下とインフレ率の上昇という典型的な短期における右下がりの関係が表れている。 1990年代はインフレ率の低下と失業率が低下する時代でニューエコノミーとも呼ばれた。期待インフレ率の低下によってフィリップス曲線が漸次、下方にシフトしていったと考えられ、単純にプロットするとむしろ左下がりの関係が見られることとなっている。 失業率に影響を与えるのは、主に、実現したインフレ率そのものではなく予想されたインフレとの乖離である。予想を上回ってインフレが進行した分が、失業率を低下させることになる。よって、実現したインフレ率と失業率のグラフにおいて、フィリップス曲線は期待インフレ率によって上下にシフトする。また、供給ショックなど、その他の要因によってもフィリップス曲線はシフトする。たとえばオイルショックのような供給ショックは、失業率悪化と物価上昇を同時にもたらし、フィリップス曲線を右上方向へシフトさせる要因となる。 フィリップス曲線上の動きと、フィリップス曲線のシフトとの区別は重要である。たとえば景気悪化局面においては、失業率の悪化とともにインフレ率の低下が起きるが、そのインフレ率の低下を受けて人々のインフレ期待も低下していくことになり、フィリップス曲線の下方シフトが発生する。その結果、実現したインフレ率と失業率の間には時計回りのスパイラルが描かれることになり、この時計回りの動きの中で左下がりの部分が観察される(右の1990年代のプロットはこの時計回りの動きの典型となっている)。 また、1980年代以降の先進諸国では、インフレ率を低位に安定させる金融政策が目指されたことにより、期待インフレ率が漸減していったため、フィリップス曲線は次第に下方にシフトしていった。その結果、実現したインフレ率と失業率の間にはきれいな右下がりの曲線が描けなくなっている。しかし、これらはフィリップス曲線のシフトの結果であり、物価上昇と失業のトレードオフ関係が無くなったことを意味していない。
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