向井豊昭とは? わかりやすく解説

向井豊昭

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 17:39 UTC 版)

向井 豊昭(むかい とよあき、1933年11月14日[1] - 2008年6月30日[1])は、日本小説家

来歴

1933年東京都生まれ[1]。祖父の向井夷希微は詩人[1]石川啄木との交友があった。

空襲を避けるため、疎開先の下北半島川内町(現むつ市)で育つ[1]。大揚鉱山で働きながら、青森県立大湊高等学校定時制川内分校に通う[1]。在学中は陸上競技部で活躍するも、1954年に結核にかかり闘病生活に入る[1]。結核完治後、玉川大学文学部教育学科(通信教育課程)で教員免許を取得し[1]、1962年から青森県の小学校教諭として勤務する[1]。しかし、同年8月に北海道へ転出し、静内町立御園小学校、日高町立三岩小を経て、新冠町立新冠小学校に勤務する[1]。1965年、個人雑誌『手』を発行し、「御料牧場」が『文学界』同人誌評で高く評価される[1]

1987年、小説を書くために小学校教諭を退職[1]1995年『BARABARA』で第12回早稲田文学新人賞受賞[1]。以後、『早稲田文学』を中心に小説、エッセーなど精力的な執筆活動を続けた。1999年、『BARABARA』で第2回四谷ラウンド文学賞を受賞[1]

2002年、photographer's galleryの若手写真家とのコラボレーションで行なった自作朗読が伝説として語り継がれている。2006年、BARABARA書房を設立[1]。『怪道をゆく』、麻田圭子との共作『みづはなけれどふねはしる』を「0円+冗費税」という価格で刊行した。2007年、手書きの個人誌『Mortos』発刊(限定30部)[1](同誌は第4号(2008年6月)を終刊号とした[1])。2008年、7年ぶりに商業ベースでの単行本『怪道をゆく』が、早稲田文学会/太田出版より出版された。

2008年6月30日朝、肝臓癌のために死去[1]。74歳没。最後の作品は、口述筆記で残した「島本コウヘイは円空だった」[1]

作風・エピソードなど

  • 奇妙な文体とシュールな物語、真摯な問題意識のアンバランスが特徴的。笙野頼子らのマジック・リアリズム町田康中原昌也らのパンク文学に比べる向きもある。
  • アイヌを扱うことが多く、政治的マイノリティを題材とした文学としても知られる。「BARABARA」には、知里真志保からの引用がみられる。
  • 批評意識の強い作風。デビュー作の「BARABARA」は蓮實重彦絓秀実小森陽一高橋源一郎荒川洋治らに評価され、当時の『早稲田文学』掲載作品では異例なことに、新聞の文芸時評の対象となった[2]
  • 自身、エッセーにて、平岡篤頼クロード・シモン『三枚つづきの絵』を解説した評論「フランス小説の現在」(『早稲田文学』1984年9月号)に影響されたと語るとおり、ヌーヴォー・ロマン以降の文学的遺産をよく吸収し、独自に換骨奪胎した作風。
  • 柄谷行人が『早稲田文学』誌上に講演録「近代文学の終わり」を発表した際、自身の「文学を教える」教員としての経験に基づき、異議を表明した(「アイデンティティへの道」『早稲田文学』2004年9月号)。同時期に「近代文学への終わり」へ反論を提示した作家として、笙野頼子がいる[2]
  • 小熊秀雄が持つ「北海道の風土が生んだ反逆と諧謔の精神」の賛同者として知られる。大塚英志が『WB』誌上にて小熊転向説を打ち出した際、『文藝にいかっぷ』に「小熊秀雄への助太刀レポート」、「続・小熊秀雄への助太刀レポート」を著し、反論した。
  • エスペランティストであり、エスペラント文学作品の翻訳も行った。

作品リスト

単行本

  • 鳩笛(1974年5月、北の街社)
  • ここにも(1976年、私家版)
  • 北海道―詩集(向井夷希微、向井恵子との共著、1982年5月、文林堂印刷)
  • BARABARA(1999年3月、四谷ラウンド)
  • DOVADOVA(2001年7月、四谷ラウンド)
  • 怪道をゆく(2006年8月、BARABARA書房)
  • みづはなけれどふねはしる(麻田圭子との共作、2006年12月、BARABARA書房)
  • 怪道をゆく(2008年4月、早稲田文学会[発行]・太田出版[発売])
  • 向井豊昭傑作集 飛ぶくしゃみ(2014年1月、未來社
  • 骨踊り 向井豊昭小説選(2019年1月、幻戯書房

単行本未収録作品

  • うた詠み(小笠原克ほか[編]『北海道文学全集 第21巻 さまざまな座標2』、立風書房、1981年9月) ※『文学界』同人雑誌推薦作。
  • ええじゃないか(『早稲田文学』1996年9月号)
  • まむし半島のピジン語(『早稲田文学』1997年2月号)
  • 新たなるわれら迷信探偵団(『早稲田文学』1997年4月号)
  • 武蔵国豊島郡練馬城パノラマ大写真(『早稲田文学』1998年1月号)
  • あゝうつくしや(『早稲田文学』2000年3月号)
  • エロちゃんのアート・レポート(『早稲田文学』2002年1月号、3月号、5月号、7月号、9月号、11月号に連載) ※艶かしくも憎めないコールガールの一人称で書かれた異色の散文。
  • モッコ憑き(『ユリイカ』2002年5月号) ※「エロちゃんのアート・レポート」の系譜に位置づけられる。
  • 箱庭(『ユリイカ』2002年12月号) ※「エロちゃんのアート・レポート」の系譜に位置づけられる。
  • ゴドーを尋ねながら(池澤夏樹ほか[編]『21世紀文学の創造 9 ことばのたくらみ―実作集―』 p.155-182、岩波書店、2003年1月)
  • ト!(『早稲田文学』2004年5月号)
  • アイデンティティへの道(『早稲田文学』2004年9月号) ※柄谷行人「近代文学の終わり」への反論。
  • ゲ!(『早稲田文学』2005年3月号)
  • ドレミの外(『早稲田文学0』、2007年5月)
  • やあ、向井さん(『Mortos』創刊号、2007年10月) ※平岡篤頼の想い出が主題となっているエッセー。
  • 日本国憲法第二十一条(『Mortos』2号、2007年11月)
  • 飛ぶくしゃみ(『Mortos』3号、2007年11月) ※小熊秀雄「飛ぶ橇」を下敷きとした小説。
  • バカヤロー(『Mortos』3号、2007年11月)
  • 日本国憲法第二十一条(『WB』vol.11_2007_winter) ※『Mortos』2号よりの転載。
  • 続・小熊秀雄への助太刀レポート(『文芸にいかっぷ』第25号、2007年12月)
  • 青之扉漏(『早稲田文学1』、2008年4月)
  • 新説国境論(『Mortos』4号、2008年6月)
  • いのちの学校ごっこ(『Mortos』4号、2008年6月)
  • 思想は地べたから(『Mortos』4号、2008年6月)
  • わっはっはっはっはっは!(『WB』vol.13_2008_summer)
  • 島本コウヘイは円空だった(『Mortos』補遺)
  • 島本コウヘイは円空だった(『早稲田文学2』、2008年12月) ※『Mortos』4号よりの転載。解説は池田雄一
  • ぺ、ぺ、ぺ、ぺ、ぺ、ぺ(『新ひだか文藝』第3号、2008年12月)
  • 飛ぶくしゃみ(『文藝にいかっぷ』第26号、2008年12月) ※『Mortos』3号の改稿版。
  • パパはゴミだった。(『幻視社』4号、2009年12月)※有志が未発表作品を、遺族と『早稲田文学』の許可を得て同人誌に収録したもの。
  • 四〇代バンバンザイアットホームカウンセリングコーポレーション(1)(『幻視社』4号、2009年12月) ※有志が未発表作品を、遺族と『早稲田文学』の許可を得て同人誌に収録したもの。
  • 六花(『幻視社』4号、2009年12月) ※有志が未発表作品を、遺族と『早稲田文学』の許可を得て同人誌に収録したもの。
  • ト書きのない戯曲(『文藝にいかっぷ』第27号、2009年12月) ※編集部に預けられていた遺稿。戯曲形式。

研究論文

  • 林浩治「棒ほど願って針ほど叶う―向井豊昭の反逆―」(『戦後非日文学論』 p.204-214、新幹社、1997年11月)
  • 林浩治「向井豊昭とBARABARAな価値観」(『まにまに』 p.173-182、新日本文学会出版部、2001年2月)
  • 中山昭彦「〈アイヌ〉と〈沖縄〉をめぐる文学の現在―向井豊昭と目取真俊―」(小森陽一ほか[編]『岩波講座 文学 13 ネイションを超えて』 p.165-188 、岩波書店、2003年3月)
  • 嵐大樹「わっはっはっはっは 向井豊昭さんを悼む」(『新ひだか文藝』第3号)
  • 原田照子「旧邸の夏」(『文藝にいかっぷ』第26号)※向井豊昭の訃報をテーマにした小説。
  • 東條慎生「見えないものこそ、見つめなければならないのだ――向井豊昭メモ」(『幻視社』4号<向井豊昭特集>)
  • 岡和田晃『向井豊昭の闘争 異種混交性(ハイブリディティ)の世界文学』(未來社、2014年7月)
  • 山城むつみ「カイセイエ――向井豊昭と鳩沢佐美夫](「すばる」2018年3月号)

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 向井 豊昭 (むかい・とよあき)”. 青森県立図書館. 2024年12月31日閲覧。
  2. ^ a b 『向井豊昭の闘争 異種混交性(ハイブリディティ)の世界文学』

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