動物を使った臓器の作製
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 17:13 UTC 版)
「人工多能性幹細胞」の記事における「動物を使った臓器の作製」の解説
臓器を欠損している動物で、臓器をつくらせる研究も進んでいる。例えば、膵臓ができないように遺伝子操作したマウスの胚に、ラットのiPS細胞を注入する。その胚を育てると、膵臓をもつマウスが生まれた。そのマウスのもつ膵臓の細胞を調べるとラットのiPS細胞由来の細胞のみからできていた。膵臓ができないマウスの発生のうち、膵臓部分を補うようにラットの細胞が膵臓をつくっていた。つまり、マウスの発生を利用して、ラットの膵臓をつくり出せたことになる。ちなみに、このようにマウスとラットの両方の細胞をもつ動物をマウスとラットのキメラという。 もう少し大型の動物での研究も進んでいる。例えば、膵臓のできないブタに、別のブタの細胞を注入することで、本来膵臓ができなかったブタに膵臓ができた。しかし、ヒトへの移植を考えたときには、ヒトのiPS細胞をブタなどの胚に注入する必要がある。そうするとブタとヒトの細胞が混ざった動物ができることになるが、「そういう動物を作製すること」は倫理的に許されるのか議論されている。日本では、2014年「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が改正されて、動物とヒトの細胞が混ざった胚を使った研究は認められたが、その胚を胎内に戻すこと、その動物を誕生させることは禁止されている。日本では認められていないが、世界では研究が進んでおり、ヒトの細胞が混ざった動物作製の研究が進んでいる。 倫理的な問題ももちろんあるが、他に解決すべき問題もいくつかある。ブタはブタにとっては無害だがヒトに対しては有害なウイルスを自身のゲノムの中にいくつかもっており、ブタの胎内で育ったヒトの臓器をヒトへ移植したときに、そのウイルスがヒトへ感染する可能性があることが危惧されている。ゲノム編集といわれる技術が、それを解決する糸口になるといわれている。ゲノム編集とは、ゲノムの遺伝子操作をより簡潔にできる技術で、ブタに感染しているウイルスを無害にできる可能性がある。ブタのゲノムにある複数のウイルスを同時につぶしたブタを作製したと報告されている。 再生医療は日本がリードをしている技術であるだけに、規制により研究が遅れてしまっていることが危惧される。いずれにしても、動物とヒトの細胞がまざった動物をつくることが許されるのかどうか倫理的な議論がいそがれる。
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