光異性化の機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/06 20:08 UTC 版)
アゾベンゼンの光異性化の反応速度は非常に速く、ピコ秒 (10−12秒) の時間スケールで起こる。熱異性化の速度は化合物によりさまざまで、アゾベンゼン型分子では数時間、アミノベンゼン型分子では数分、擬スチルベン型分子では数秒程度の時間スケールで起こる。 異性化反応の機構には2通りの経路が考えられてきた。ひとつは、N=N 二重結合のπ結合が解けて N-N 単結合となり、そこで回転 (rotation) が起こり異性化する経路、もうひとつは、N=N-Ar の結合角が、直線型の遷移状態を通りながら立体反転 (inversion) する経路である。トランス体からシス体への異性化は、S2状態(ππ*励起状態)で起こる回転、シス体からトランス体への異性化は、S1状態(nπ*励起状態)で起こる立体反転によるものとされてきた。異性化反応の各々について、どの励起状態が直接的な役割を果たしているかという点は未だに議論の対象となっている。しかし、Diau らによる、フェムト秒時間分解蛍光分析と、計算化学とをあわせた研究は、S2状態はまず内部転換により S1状態に変わり、それから C-N=N-C の4原子が同時に直線に並んだ遷移状態を経由して異性化する「協奏的な立体反転 (concerted inversion)」の経路を、新しい可能性として示した。この機構では S2状態が異性化に直接関わってはおらず、π-π* 吸収から異性化への量子収率が低いという実験結果を説明できる。
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