レプトン質量依存性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 07:55 UTC 版)
「異常磁気モーメント」の記事における「レプトン質量依存性」の解説
2ループ以上の頂点補正では、光子の真空偏極によって電子、ミュー粒子、タウ粒子の3種類のレプトン対生成が起こるため、3種類の閉じたレプトンループを持つファインマン図が含まれる。これより、異常磁気モーメントの式中にレプトン質量比(me/mμなど)に依存する項が現れる。これを考慮すると、例えば、電子の異常磁気モーメントは a e Q E D = A 1 u n i v e r s a l + A 2 ( m e / m μ ) + A 2 ( m e / m τ ) + A 3 ( m e / m μ , m e / m τ ) {\displaystyle a_{e}^{\mathrm {QED} }=A_{1}^{\mathrm {universal} }+A_{2}(m_{e}/m_{\mu })+A_{2}(m_{e}/m_{\tau })+A_{3}(m_{e}/m_{\mu },m_{e}/m_{\tau })} と書ける。ここで、第1項はどのレプトンに対しても等しい値を持つ、すなわち、レプトン質量に依存しない普遍的な項である。第2項、第3項はレプトンの質量比に依存する項で、2ループ以上の計算において現れる。第2項は電子の頂点関数にミュー粒子ループの補正が存在する図、第3項はタウ粒子ループの補正が存在する図に対応している。第4項は2種類の質量比に依存する項で、3ループ以上の計算において現れる。 実際には、電子の異常磁気モーメントに対して、me/mμやme/mτに比例する項の寄与は非常に小さい。一方、ミュー粒子の異常磁気モーメントの場合は、mμ/meに比例する項の寄与は比較的大きく、mμ/mτに比例する項の寄与は非常に小さい。これは、電子と比べてミュー粒子の異常磁気モーメントの計算が複雑な原因の一つである。 上式の各項は電磁相互作用の結合定数(微細構造定数)αによって摂動展開される。 A 1 u n i v e r s a l = A 1 1 − l o o p ( α π ) + A 1 2 − l o o p ( α π ) 2 + A 1 3 − l o o p ( α π ) 3 + ⋯ {\displaystyle A_{1}^{\mathrm {universal} }=A_{1}^{\mathrm {1-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)+A_{1}^{\mathrm {2-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{2}+A_{1}^{\mathrm {3-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{3}+\cdots } A 2 = A 2 2 − l o o p ( α π ) 2 + A 2 3 − l o o p ( α π ) 3 + A 2 4 − l o o p ( α π ) 4 + ⋯ {\displaystyle A_{2}=A_{2}^{\mathrm {2-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{2}+A_{2}^{\mathrm {3-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{3}+A_{2}^{\mathrm {4-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{4}+\cdots } A 3 = A 3 3 − l o o p ( α π ) 3 + A 3 4 − l o o p ( α π ) 4 + A 3 5 − l o o p ( α π ) 5 + ⋯ {\displaystyle A_{3}=A_{3}^{\mathrm {3-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{3}+A_{3}^{\mathrm {4-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{4}+A_{3}^{\mathrm {5-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)^{5}+\cdots } シュウィンガーによって導出された電子の1ループ異常磁気モーメントは上のA1の第1項に対応している。 a e Q E D 1 − l o o p = A 1 1 − l o o p ( α π ) = α 2 π {\displaystyle a_{e}^{\mathrm {QED\,1-loop} }=A_{1}^{\mathrm {1-loop} }\left({\frac {\alpha }{\pi }}\right)={\frac {\alpha }{2\pi }}} また、レプトン質量に依存しない普遍項A1は、どのレプトンに対しても共通の値を持つ。例えば、1ループのQED頂点補正を表すファインマン図は1種類だけであるので、当然、光子の真空偏極は存在せず、レプトンループを考慮する必要はなくなる。これより、QEDの範囲においては、電子、ミュー粒子、タウ粒子の1ループの異常磁気モーメントは厳密に等しくなる。つまり、 a e Q E D 1 − l o o p = a μ Q E D 1 − l o o p = a τ Q E D 1 − l o o p {\displaystyle a_{e}^{\mathrm {QED\,1-loop} }=a_{\mu }^{\mathrm {QED\,1-loop} }=a_{\tau }^{\mathrm {QED\,1-loop} }} である。
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