ホジャ文字 (Unicodeのブロック)とは？わかりやすく解説

ホジャ文字 (Unicodeのブロック)
	Khojki
範囲	U+11200..U+1124F; (80 個の符号位置)
面	追加多言語面
用字	ホジャ文字
主な言語・文字体系	シンド語; グジャラート語; パンジャーブ語; サライキ語; ヒンディー語; アラビア語; ペルシャ語;
割当済	65 個の符号位置
未使用	15 個の保留
Unicodeのバージョン履歴
7.0	61 (+61)
9.0	62 (+1)
15.0	65 (+3)
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ホジャ文字（ホジャもじ、英語: Khojki）は、Unicodeのブロックの一つ。

解説

16世紀～19世紀ごろに、現在のパキスタンのシンド州において南アジアのニザール派・イスマーイール派が宗教文献の記録のためシンド語の表記に用いられたホジャ文字(「シンド文字」や「ホジャ・シンド文字」とも呼ばれる^[1])を収録している。この文字体系は周辺地域に広がり、グジャラート語、パンジャブ語、サライキ語、及びヒンディー語と関連のあるいくつかの言語の表記に用いられ、また、アラビア語及びペルシャ語の表記にも用いられた^[1]。なお、ホージャ文字の使用は過去1世紀にわたって減少しているが、南アジア出身のニザール派・イスマーイール派のムスリムが居住する地域では現在どこでも使用されている^[1]。

Khojki（デーヴァナーガリー文字：खोजक khojakī）という名称は、ペルシャ語の敬称هجاوخ khwājah（主人、君主）に由来しており、これはサンスクリット語のठाकुर ṭhākura の翻訳であり、南アジアでニザール派・イスマーイール派の伝統に初期に改宗したヒンドゥー教徒であるローハーナー共同体(Lohānā community)の敬称として用いられている^[1]。

Khojki文字は、シャーラダー文字に関連する商業用文字群であるランダー文字系のシンド語支族に属する、ブラーフミー文字をベースとした文字であり、イスマーイール派文学を記録するための典礼用文字として開発されたローハーナーキー文字(Lohānākī)の改良版と考えられている^[1]。ニザール派・イスマーイール派の伝承によると、ホジャ文字はローハーナー共同体で積極的に活動していたイスマーイール派の宣教師、ピル・サドルッディーン（サドル・アッディーン）(Pir Sadruddin (Ṣadr al-Dīn))によって発明されて広められた。

ホジャ文字は、宗教共同体で用いられる正式な典礼用文字として開発された2つのランダー文字のうちの1つであり、もう1つはグルムキー文字で、シク教の聖典を記すために発展した^[1]。

ホジャ文字はブラーフミー文字から派生した所謂ブラーフミー系文字（インド系文字）の一つであり、音素文字のうち子音字単独では暗黙の随伴母音/-a/を伴って発音され、別の母音にする際に母音記号を付加することで発音を切り替えるアブギダに分類される。ラテン文字などと同様に左から右への横書き(左横書き)である。単語毎に分かち書きをするが、通常のスペースではなくU+1123A 𑈺 KHOJKI WORD SEPARATORを用いる。

符号位置の順序はおおむね伝統的なホジャ文字の順序に従っている。

Unicodeのバージョン7.0において初めて追加された。

収録文字

「ラテン文字転写」の列はブラーフミー系文字のラテン文字への翻字方式の一つであるISO 15919（及び一部はIAST）に従う。

コード	文字	文字名（英語）	用例・説明	ラテン文字転写
独立母音字
U+11200	𑈀	KHOJKI LETTER A	短母音[a]を表す。	a
U+11201	𑈁	KHOJKI LETTER AA	長母音[aː]を表す。	ā
U+11202	𑈂	KHOJKI LETTER I	短母音[i]を表す。	i
U+11203	𑈃	KHOJKI LETTER U	短母音[u]を表す。	u
U+11204	𑈄	KHOJKI LETTER E	長母音[eː]を表す。	e
U+11205	𑈅	KHOJKI LETTER AI	長母音二重母音[ai̯]を表す。	ai
U+11206	𑈆	KHOJKI LETTER O	長母音[oː]を表す。	o
U+11207	𑈇	KHOJKI LETTER AU	二重母音[au̯]を表す。	au
子音字
U+11208	𑈈	KHOJKI LETTER KA	子音[k]を表す。	k
U+11209	𑈉	KHOJKI LETTER KHA	子音[kʰ]を表す。	kh
U+1120A	𑈊	KHOJKI LETTER GA	子音[ɡ]を表す。	g
U+1120B	𑈋	KHOJKI LETTER GGA	子音[ɠ]を表す。
U+1120C	𑈌	KHOJKI LETTER GHA	子音[ɡʱ]を表す。	gh
U+1120D	𑈍	KHOJKI LETTER NGA	子音[ŋ]を表す。	ṅ
U+1120E	𑈎	KHOJKI LETTER CA	子音[c]を表す。	c
U+1120F	𑈏	KHOJKI LETTER CHA	子音[cʰ]を表す。	ch
U+11210	𑈐	KHOJKI LETTER JA	子音[ɟ]を表す。	j
U+11211	𑈑	KHOJKI LETTER JJA	子音[ɟʱ]を表す。	jh
U+11213	𑈓	KHOJKI LETTER NYA	子音[ɲ]を表す。	ñ
U+11214	𑈔	KHOJKI LETTER TTA	子音[ʈ]を表す。	ṭ
U+11215	𑈕	KHOJKI LETTER TTHA	子音[ʈʰ]を表す。	ṭh
U+11216	𑈖	KHOJKI LETTER DDA	子音[ɖ]を表す。	ḍ
U+11217	𑈗	KHOJKI LETTER DDHA	子音[ɖʱ]を表す。	ḍh
U+11218	𑈘	KHOJKI LETTER NNA	子音[ɳ]を表す。	ṇ
U+11219	𑈙	KHOJKI LETTER TA	子音[t]を表す。	t
U+1121A	𑈚	KHOJKI LETTER THA	子音[tʰ]を表す。	th
U+1121B	𑈛	KHOJKI LETTER DA	子音[d]を表す。	d
U+1121C	𑈜	KHOJKI LETTER DDDA	子音[ᶑ]を表す。
U+1121D	𑈝	KHOJKI LETTER DHA	子音[dʱ]を表す。	dh
U+1121E	𑈞	KHOJKI LETTER NA	子音[n]を表す。	n
U+1121F	𑈟	KHOJKI LETTER PA	子音[p]を表す。	p
U+11220	𑈠	KHOJKI LETTER PHA	子音[pʰ]を表す。	ph
U+11221	𑈡	KHOJKI LETTER BA	子音[b]を表す。	b
U+11222	𑈢	KHOJKI LETTER BBA	子音[ɓ]を表す。
U+11223	𑈣	KHOJKI LETTER BHA	子音[bʱ]を表す。	bh
U+11224	𑈤	KHOJKI LETTER MA	子音[m]を表す。	m
U+11225	𑈥	KHOJKI LETTER YA	子音[j]を表す。	y
U+11226	𑈦	KHOJKI LETTER RA	子音[r]を表す。	r
U+11227	𑈧	KHOJKI LETTER LA	子音[l]を表す。	l
U+11228	𑈨	KHOJKI LETTER VA	子音[ʋ]を表す。	v
U+11229	𑈩	KHOJKI LETTER SA	子音[s]を表す。	s
U+1122A	𑈪	KHOJKI LETTER HA	子音[h]を表す。	h
U+1122B	𑈫	KHOJKI LETTER LLA	子音[ɭ]を表す。	ḷ
従属母音記号
U+1122C	𑈬	KHOJKI VOWEL SIGN AA	長母音[aː]を表す。	ā
U+1122D	𑈭	KHOJKI VOWEL SIGN I	短母音[i]を表す。	i
U+1122E	𑈮	KHOJKI VOWEL SIGN II	長母音[iː]を表す。	ī
U+1122F	𑈯	KHOJKI VOWEL SIGN U	短母音[u]を表す。	u
U+11230	𑈰	KHOJKI VOWEL SIGN E	長母音[eː]を表す。	e
U+11231	𑈱	KHOJKI VOWEL SIGN AI	長母音二重母音[ai̯]を表す。	ai
U+11232	𑈲	KHOJKI VOWEL SIGN O	長母音[oː]を表す。	o
U+11233	𑈳	KHOJKI VOWEL SIGN AU	二重母音[au̯]を表す。	au
各種記号
U+11234	𑈴	KHOJKI SIGN ANUSVARA	アヌスヴァーラ。直後に音節が後続する子音字に付き、直後の子音と同じ調音点の鼻音が挿入されることを表す。日本語における「ん」に相当する。	ṁ
U+11235	𑈵	KHOJKI SIGN VIRAMA	ヴィラーマ。殺母音記号。母音/-a/を発音せず子音のみが読まれることを表す。レンダー上は、子音連続を表す場合次の文字と縦に並べて繋がったような合字を形成するための不可視の制御文字として機能する。
U+11236	𑈶	KHOJKI SIGN NUKTA	ヌクター。子音字を拡張して新たな発音を表す際に用いられる。
U+11237	𑈷	KHOJKI SIGN SHADDA	シャッダ。子音字を重子音として読むことを表す。
約物
U+11238	𑈸	KHOJKI DANDA	ダンダ。句点。ラテン文字などにおけるピリオド(.)に相当する。韻文では半詩節の終わり（パダ）を表す。	.
U+11239	𑈹	KHOJKI DOUBLE DANDA	段落の終わりを表す記号。韻文においてスタンザ（詩節）の終わりを表す。
U+1123A	𑈺	KHOJKI WORD SEPARATOR	単語境界を表す。
U+1123B	𑈻	KHOJKI SECTION MARK	節記号。文の終わりを示す^[2]。
U+1123C	𑈼	KHOJKI DOUBLE SECTION MARK	段落などの大きなテキストの塊を区切る^[2]。	§
U+1123D	𑈽	KHOJKI ABBREVIATION SIGN	省略記号。略語を表す。
記号
U+1123E	𑈾	KHOJKI SIGN SUKUN	アラビア語の翻字に使用される^[2]。母音/-a/を発音せず子音のみが読まれることを表す。
子音字
U+1123F	𑈿	KHOJKI LETTER QA	アラビア語において子音[q]を表す。	q
独立母音字
U+11240	𑉀	KHOJKI LETTER SHORT I	字母`U+11202 𑈂 KHOJKI LETTER I`が長母音[iː]を表す場合に短母音[i]を表す^[3]。	i
従属母音記号
U+11241	𑉁	KHOJKI VOWEL SIGN VOCALIC R	音節主音化した短母音としてのR（IPA:[ɹ̩]）を表す。	r̥^[4]

小分類

このブロックの小分類は「独立母音字」（Independent vowels）、「子音字」（Consonants）、「従属母音記号」（Dependent vowel signs）、「各種記号」（Various signs）、「約物」（Punctuation）、「記号」（Sign）、の6つとなっている^[2]。本ブロックでは、Unicodeのバージョン更新時の文字追加が隙間を埋める形で行われた影響で、同一の小分類に属する文字が飛び飛びの符号位置に割り当てられていることがある。また、収録文字が1文字しかない小分類については小分類名が単数形で表現されているが、本記事では単数形か複数形かによる小分類名の表記ゆれについては別の小分類として扱わず、同一の小分類として扱うこととする。

独立母音字（Independent vowels）

この小分類にはホジャ文字のうち、頭子音のない母音の音節を表す際に用いられる独立した母音字が収録されている。

子音字（Consonants）

この小分類にはホジャ文字のうち、基本的な子音字が収録されている。

従属母音記号（Dependent vowel signs）

この小分類にはホジャ文字のうち、子音字に結合する母音記号が収録されている。

各種記号（Various signs）

この小分類にはホジャ文字のうち、母音字や子音字に結合する発音記号などの様々な記号が収録されている。

約物（Punctuation）

この小分類にはホジャ文字で用いられる句読点などの約物類が収録されている。

記号（Sign）

この小分類にはホジャ文字のうち、さまざまな記号類が収録されている。

文字コード

ホジャ文字(Khojki)^[1] Official Unicode Consortium code chart (PDF)
	0	1	2	3	4	5	6	7	8	9	A	B	C	D	E	F
U+1120x	𑈀	𑈁	𑈂	𑈃	𑈄	𑈅	𑈆	𑈇	𑈈	𑈉	𑈊	𑈋	𑈌	𑈍	𑈎	𑈏
U+1121x	𑈐	𑈑		𑈓	𑈔	𑈕	𑈖	𑈗	𑈘	𑈙	𑈚	𑈛	𑈜	𑈝	𑈞	𑈟
U+1122x	𑈠	𑈡	𑈢	𑈣	𑈤	𑈥	𑈦	𑈧	𑈨	𑈩	𑈪	𑈫	𑈬	𑈭	𑈮	𑈯
U+1123x	𑈰	𑈱	𑈲	𑈳	𑈴	𑈵	𑈶	𑈷	𑈸	𑈹	𑈺	𑈻	𑈼	𑈽	𑈾	𑈿
U+1124x	𑉀	𑉁
注釈 1.^バージョン16.0時点

履歴

以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。

バージョン	コードポイント^[a]	文字数	L2 ID	ドキュメント
7.0	U+11200..11211,11213..1123D	61	L2/11-021	Anshuman Pandey (31 January 2011), Final Proposal to Encode the Khojki Script (WG2 N3978) (英語)
9.0	U+1123E	1	L2/14-133	Anshuman Pandey (5 May 2014), Proposal to Encode the Khojki Sign SUKUN (WG2 N4575) (英語)
15.0	U+1123F	1	L2/21-103	Anshuman Pandey (26 May 2021), Proposal to encode the Khojki letter QA (英語)
	U+11240	1	L2/21-104	Anshuman Pandey (15 June 2021), Proposal to encode the Khojki letter SHORT I (英語)
	U+11241	1	L2/21-110	Anshuman Pandey (15 June 2021), Proposal to encode the Khojki vowel sign VOCALIC R (英語)
^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。

出典

^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f Anshuman Pandey (2011年1月31日). “Final Proposal to Encode the Khojki Script (WG2 N3978)” (英語). Unicode. 2025年7月26日閲覧。
^ ^a ^b ^c ^d “The Unicode Standard, Version 16.0 - U11200.pdf” (PDF). The Unicode Standard (英語). 2025年7月26日閲覧.
^ Anshuman Pandey (2021年6月15日). “Proposal to encode the Khojki letter SHORT I” (英語). Unicode. 2025年7月26日閲覧。
^ IASTではṛと表記される。

ホジャ文字 (Unicodeのブロック)とは？わかりやすく解説