ヒメ目
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/27 00:02 UTC 版)
ヒメ目 | ||||||||||||||||||
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ヒメ Aulopus japonicus
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本文参照
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ヒメ目(学名:Aulopiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。3亜目15科で構成され、少なくとも47属261種が記載される[1]。ヒメやマエソなど海底付近で暮らす底生魚と、ミズウオ・ボウエンギョなど深海の中層を遊泳する魚類をともに含んだグループである。
分布・生態
ヒメ目の魚類は全世界の海洋に分布し、生息深度はごく浅い沿岸域から深海まで幅広い[1]。ヒメ科・エソ科・アオメエソ科・チョウチンハダカ科は底生性で、残るグループには中層あるいは海底付近を遊泳する漂泳魚が多く含まれる[1]。雌雄同体の種類が特に深海に住むものに多く、個体分布密度の低さへの適応例と考えられている。
エソ科魚類はその多くが漁獲対象とされ、主に練製品として利用される。
形態
ヒメ目の仲間は一般に細長く、円筒形の体型をもつ[2]。形態学的な共通点としては、口が大きく鋭い歯をもつこと、脂鰭(あぶらびれ)をもつ種類が多いこと、浮き袋を欠くことが挙げられる[1][2]。
第二咽鰓骨は外側後方に長く伸びるなど[1]、鰓弓の構造は特殊化が進んでおり、他の硬骨魚類にはみられない本目の特徴となっている。仔魚の腹膜には色素沈着が認められる[3]。
分類
現生のヒメ目魚類はヒメ亜目・ナガアオメエソ亜目・ミズウオ亜目の3亜目に分けられ、15科47属261種で構成される[1]。FishBaseでは2025年3月時点で17科47属290種が認められている[4]。他に絶滅したグループとして Ichthyotringoidei 亜目と Halecoidei 亜目が知られ、それぞれ3科10属以上および1科3属が記載されている[1]。1990年代以降、ヒメ目内部における科・属の位置付けや、亜目間での単系統性の評価について、さまざまな変遷が重ねられている[1]。
- ヒメ亜目 Aulopoidei (Synodontoidei)
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ホタテエソ Pseudotrichonotus altivelis(ホタテエソ科) -
ニシアカエソ Synodus intermedius(エソ科) -
ヒトスジエソ Synodus variegatus(エソ科) -
3科9属からなり、84種を含む。かつて含まれていたナガアオメエソ科は独自の亜目となった。
- エソ科 Synodontidae
- 2亜科4属70種で構成され、三大洋に幅広く分布する[1]。FishBaseでは4属81種が認められている。雌雄異体である。マエソ・ワニエソ・オキエソなどは練製品の原料として漁獲対象となる。
- ヒメ科 Aulopidae
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4属12種を含み、Aulopus 属は大西洋、Hime 属は太平洋に分布する[1]。FishBaseでは4属15種が認められている。背鰭の起始部は体の前方にあり、鰭条数は14-22本。本科はかつて単独でヒメ亜目 Aulopoidei を構成していた。Hime 属の設置を認めず、Aulopus 属に含める意見もある[5]。
- Aulopus 属
- Hime 属
- Latropiscis 属
- Leptaulopus 属
- ホタテエソ科 Pseudotrichonotidae
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1属2種を含み、背鰭の鰭条数は33本で、脂鰭を欠く。最大長は約9 cm[1]。FishBaseでは1属4種が認められている。
- ホタテエソ属 Pseudotrichonotus
- ナガアオメエソ亜目 Paraulopoidei
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- ナガアオメエソ科 Paraulopidae
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1属10種で、主にインド太平洋に分布する底生魚の一群である[1]。FishBaseでは1属14種が認められている。最大で35cmほどに成長し、背鰭の鰭条数は10-11本[1]。
- ナガアオメエソ属 Paraulopus
- ミズウオ亜目 Alepisauroidei
- 4科22属83種で構成される。かつて独立の Enchodontidae 亜目として分類されていた白亜紀の絶滅群、Cimolichthyidae 科および Enchodontidae 科の2科は本亜目に含められる。またアオメエソ亜目およびボウエンギョ亜目は本亜目に含まれる[1]。
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シンカイエソ Bathysaurus mollis(シンカイエソ科)。水深2,375mにて撮影 - Ipnopoidea 上科
- 4科が分類される。
- チョウチンハダカ科 Ipnopidae
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チョウチンハダカ科の1種(Ipnopidae sp.)。長く発達した鰭を用いて海底に直立する姿。胸鰭の鰭条はアンテナのように細長く、浮遊生物の捕捉に役立てられている -
2亜科に6属31種を含む。眼が小さく、板状の網膜しか残っていない種類もある。イトヒキイワシ属は胸鰭・腹鰭・尾鰭が著しく長く伸びる。Bathysauropsis 属は独自の科とされていたが、現在はチョウチンハダカ科の亜科とされている[1]。
- Ipnopinae
- イトヒキイワシ属 Bathypterois
- ソコエソ属 Bathyphlops
- チョウチンハダカ属 Ipnops
- 他2属(Bathymicrops ・Discoverichthys)
- Bathysauropsinae
- Ipnopinae
- ボウエンギョ科 Giganturidae
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1属2種を含む。いずれも遊泳性の深海魚で、眼球が大きく突出した管状眼をもつ。胃は伸縮性に富み、大型の獲物を飲み込むことが可能となっている。胸鰭の位置が高く、鰓よりも上にある。尾鰭の下側の鰭条が長く伸びる。本科魚類は発生機序に特徴があり、前上顎骨・頭頂骨・後側頭骨などいくつかの骨格を欠く[1]。
- ボウエンギョ属 Gigantura
- オニアオメエソ科 Bathysauroididae
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オニアオメエソ B. gigas のみ、1属1種が分類される[1]。
- オニアオメエソ属 Bathysauroides
- シンカイエソ科 Bathysauridae
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1属2種。頭部は強く縦扁し、平べったくなっている。深海で底生生活をし、雌雄同体である。
- シンカイエソ属 Bathysaurus
- Chlorophthalmoidea 上科
- 1科が分類される。
- アオメエソ科 Chlorophthalmidae
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アオメエソ属の1種 Chlorophthalmus agassizi (アオメエソ科) -
三大洋の深海に分布する底生魚で、2属17種を含む[1]。FishBaseでは2属21種が認められている。眼が大きく、雌雄同体である。マルアオメエソなどの食用種を総称して「メヒカリ」と呼ぶこともある。
- アオメエソ属 Chlorophthalmus
- ハシナガアオメエソ属 Parasudis
- Notosudoidea 上科
- 1科が分類される。
- フデエソ科 Notosudidae
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3属17種からなり、北極および南極周囲の寒冷な海に生息する[1]。仔魚は上顎に歯をもち、ヒメ目の他の魚類には見られない特徴となっている。
- フカミフデエソ属 Ahliesaurus
- フデエソ属 Scopelosaurus
- Luciosudis
- Alepisauroidea 上科
- 5科が分類される。
- デメエソ科 Scopelarchidae
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ヒカリデメエソ Benthalbella infans (デメエソ科) -
5属18種を含み、北極海と地中海を除くすべての海から知られている[1]。眼は大きく管状で、真上を向いている。舌の上に鉤のついた強靭な歯をもつ。全身に鱗がある。
- シロデメエソ属 Scopelarchoides
- デメエソ属 Benthalbella
- デメエソダマシ属 Scopelarchus
- ヒレナガデメエソ属 Rosenblattichthys
- ヤリエソ科 Evermannellidae
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ミナミヤリエソ Coccorella atrata(ヤリエソ科) -
3属8種を含む。頭部と体には鱗がない。眼の大きさはさまざまで、ほとんどの種類は管状になっている[1]。
- マダラヤリエソ属 Evermannella
- ムカシヤリエソ属 Odontostomops
- ヤリエソ属 Coccorella
- ムナビレハダカエソ科 Sudidae
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1属2種を含む。胸鰭は長く、下顎は湾曲する[1]。
- ムナビレハダカエソ属 Sudis
- ハダカエソ科 Paralepididae
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ハダカエソ Lestrolepis japonica(ハダカエソ科) -
7属27種から成り、極圏を含む全海洋を分布範囲とする[1]。FishBaseではNelson(2016)におけるLestidiidaeを本科に含め、11属67種が認められている。背鰭は体幹の中央から起始し、臀鰭の基底は長い。
- クサビウロコエソ属 Magnisudis
- クラノセナメハダカ属 Stemonosudis
- クロナメハダカ属 Lestidiops
- ナメハダカ属 Lestidium
- ハシナガナメハダカ属 Dolichosudis
- ハダカエソ属 Lestrolepis
- ヒカリエソ属 Arctozenus
- ヒレナガハダカエソ属 Uncisudis
- 他3属(Macroparalepis ・Notolepis ・Paralepis)
- ミズウオ科 Alepisauridae
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ミズウオ Alepisaurus ferox(ミズウオ科) -
1属3種。鱗を欠き、鰭条が非常に長く発達する。
- ミズウオ属 Alepisaurus
- キバハダカ科 Omosudidae
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1属1種。鱗は無く、巨大な牙を持つ。Nelson(2016)ではミズウオ科に分類されている。
- キバハダカ属 Omosudis
- ミズウオダマシ科 Anotopteridae
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1属3種から成り、世界中の深海に生息する。背鰭を持たない。Nelson(2016)ではハダカエソ科に分類されている。
- ミズウオダマシ属 Anotopterus
系統
Davis and Fielitz(2010)による分子・形態双方のデータからの系統解析では、以下のような系統樹が得られている[6]。この場合、ボウエンギョ亜目・アオメエソ亜目は単系統とならない。
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出典・脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 『Fishes of the World Fifth Edition』 pp.266-276
- ^ a b 『新版 魚の分類の図鑑』 pp.72-73
- ^ 『Origin and Phylogenetic Interrelationships of Teleosts』 pp.144-145
- ^ “Order Summary for Aulopiformes”. www.fishbase.se. 2025年3月26日閲覧。
- ^ Baldwin CC, Johnson GD (1996). Interrelationships of fishes. San Diego: Academic Press
- ^ Matthew P. Davis, Christopher Fielitz (2010). “Estimating divergence times of lizardfishes and their allies (Euteleostei: Aulopiformes) and the timing of deep-sea adaptations”. Molecular Phylogenetics and Evolution 57 (3): 1194–1208. doi:10.1016/j.ympev.2010.09.003.
参考文献
- Joseph S. Nelson 『Fishes of the World Fifth Edition』 Wiley & Sons, Inc. 2016年 ISBN 978-1-118-34233-6
- Joseph S. Nelson, Hans-Peter Schultze, Mark V. H. Wilson 『Origin and Phylogenetic Interrelationships of Teleosts』 Verlag Dr. Friedrich Pfeil 2010年 ISBN 978-3-89937-107-9
- 上野輝彌・坂本一男 『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 2005年 ISBN 978-4-486-01700-4
- 岡村収・尼岡邦夫監修 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2
外部リンク
- FishBase‐ヒメ目 (英語)
- ヒメ目専門・ヒメ目一覧表
- ヒメ目のページへのリンク