ホルスの4人の息子とは? わかりやすく解説

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ホルスの4人の息子

(ドゥアムテフ から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/21 09:21 UTC 版)

ホルスの4人の息子。左からイムセティ、ドゥアムトエフ、ハピ、ケベフセヌエフ。

ホルスの4人の息子(ホルスのよにんのむすこ)とは、エジプト神話の4柱の神々で、本質的には4つのカノプス壷を人格化したもので、身体はミイラになっている[1]

概要

古代エジプトにおいて人は、死後にバーカーに別れ、肉体が保存されていれば生き返ると考えた。そのための保存方法がミイラである。この時、内臓が残っているとミイラが腐ってしまうため、取り出されカノプス壺に保存された。

このカノプス壺を守るのが「ホルスの四人の息子」、「王の棺の守護者たち」、「ホルスの化身」と呼ばれた神々である。

彼らの姿は、壺の蓋部分の装飾で表される。各々担当する内臓と方角、彼らを守護する女神がいる。

  • イムセティ (Imsety) は、人間の姿をしており肝臓を守る。またイシスに守られる。南向き。
  • ドゥアムトエフ (Duamutef) は、ジャッカルの姿をしており胃を守る。またネイトに守られる。東向き。
  • ハピ (Hapi) は、ヒヒの姿をしており肺を守る。またネフティスに守られる。北向き。
  • ケベフセヌエフ (Qebehsenuef) は、ハヤブサの姿をしており腸を守る。またセルケトに守られる。西向き[2][3]

解説

ツタンカーメンのカノプス壷を納めた箱。四方を女神が守っている。

当時、心臓には魂が宿るとされたため、ミイラを作る際に身体に残された。また心臓は、死者の審判において必要な部位と信じられた。

は、鼻水など様々な粘液の発生源と見なされていたため、鼻から棒を差し込み、かき混ぜて液状にして吸い上げて捨てた。

カノプス壺に保存されるのは、(と腸の一部)と肝臓の大部分とである。これらを切除して防腐処理をし、それぞれ別々の壷に保管した。この方式から逸脱したミイラが作られた時代もあった。第21王朝の時代には、防腐処理した内臓をミイラの体内に戻してから包帯を巻き、カノプス壷は象徴として空のまま置かれた[1]。ただ干乾びた内臓を正確に判別することは困難であり、不明な点は多い。

ホルスの4人の息子についての初期の記述は、ピラミッド文書英語版に見られる[4]。彼らはその王の友人であり、はしごを使って王の魂が東方の天に昇るのを助けるとされていた[5]。当時、ファラオが死ぬとラーが梯子を降ろして霊を太陽の船に迎え、冥界を旅すると考えられた。

彼らがホルスと結び付けられたのはエジプト古王国時代で、単に息子であるだけでなくホルスの魂だとされていた。王またはファラオはホルスの現世の姿であり、またホルスに守られているとされていた。しかし、死んだファラオは新たなファラオの父であることからホルスの父オシリスと見なされ、その内臓はホルスの一部あるいはむしろホルスの子と見なされた[6]。そしてイシスが彼らの母と見なされた[7]

4人の息子と対応する4つカノプス壷は、男女双対の原則からそれぞれ特定の四柱の女神が守護するとされた。これが死者を守護する四柱の女神で、イシス、ネフティス、ネイト、セルケトである。

また彼らは4方位にも対応付けられており、ハピは北、イムセティは南、ドゥアムトエフは東、ケベフセヌエフは西とされた[8]

エジプト中王国時代の古典的なホルスの4人の息子の描写としては、棺の東側の面にイムセティとドゥアムトエフを描き、棺の西側の面にハピとケベフセヌエフを描いていた。東側の側面には一対の目が描かれることがあり、棺の中のミイラも日の出の方角である東を向くように置かれており、そちらが棺の正面とされることがある。

エジプト第18王朝まで、カノプス壷の蓋はその王の頭部の像になっていたが、それ以降は動物の頭部の像になった。対して棺や石棺に描かれるホルスの4人の息子は、当初から動物の形で描かれるのが一般的だった。

ハピ

ハピ (Hapi)
ヒエログリフで表示
ホルスの4人の息子の頭部の形状をした蓋を持つカノプス壷大英博物館

ホルスの息子たちに4種類の動物が関連付けられた理由は定かではないが、ここでは、それらの動物が他のエジプト神話でどういう意味を持っているかを解説する。

ヒヒは月とトートと関係が深い。トートは知恵と知識の神である。またヒヒは、日の出のときに太陽に向かって手を挙げて鳴くとされており、それが礼拝しているように見えるとされていた。

ジャッカルまたは黒犬アヌビスや防腐処理と関係が深い。また同じくジャッカルの姿で描かれる「道を切り開く者」ウプウアウトは、死者の魂を導くとされた。

ハヤブサはホルス自身と関係が深く、セケルというミイラの姿をした冥界の神とも関係が深い。

そして人間はオシリス自身か、狩猟神オヌリスと関係すると見られる。

ホルスの4人の息子は、単なるカノプス壷の守護者という役目を越えた属性を持っている。死者の書の第148章では天国への4つの梯子として言及されており、同じく第17章では、アヌビスが呼び出した7つの天の精霊のうちの4つとして言及されており、この記述を通して北極星周辺のおおぐま座の星とも結び付けられている。

脚注

出典

  1. ^ a b Aufderheide 2003, p. 258.
  2. ^ Aufderheide 2003, p. 237.
  3. ^ British Museum, Synopsis of the Contents of the British Museum, R. & A. Taylor 1855, pp.201ff.
  4. ^ Assmann 2005, p. 357.
  5. ^ Eyma 2003, p. 218.
  6. ^ Assmann 2005, p. 467.
  7. ^ Griffiths 1961, p. 49.
  8. ^ Lurker 1974, p. 104.
  9. ^ Faulkner 2004, p. 521.
  10. ^ a b c d Faulkner 2004.
  11. ^ Faulkner 2004, p. 520.
  12. ^ Faulkner 2004, p. 522.
  13. ^ Faulkner 2004, p. 523.

参考文献

  • Aufderheide, Arthur C. (2003), The Scientific Study of Mummies, Cambridge University Press 
  • Assmann, Jan (2005), Death And Salvation In Ancient Egypt, Cornell University Press 
  • Eyma, Aayko (2003), A Delta-Man in Yebu: Occasional Volume of the Egyptologists' Electronic Forum No. 1, Universal-Publishers 
  • Griffiths, John Gwyn (1961), The Conflict of Horus and Seth from Egyptian and Classical Sources: A Study in Ancient Mythology, Liverpool University Press 
  • Lurker, Manfred (1974), Lexikon der Götter und Symbole der alten Ägypter, Scherz 
  • Faulkner, Raymond Oliver (2004), The Ancient Egyptian Coffin Texts, David Brown Book Company 
  • Raymond Oliver Faulkner, The Egyptian Book of the Dead: The Book of Going Forth by Day, Chronicle Books 2000

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