大赤浮草
オオアカウキクサ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/05 13:42 UTC 版)
| オオアカウキクサ | |||||||||||||||||||||||||||
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       オオアカウキクサ
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| 保全状況評価 | |||||||||||||||||||||||||||
| 絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト) | |||||||||||||||||||||||||||
| 分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | |||||||||||||||||||||||||||
| Azolla japonica (Franch. et Savat.) | |||||||||||||||||||||||||||
| 和名 | |||||||||||||||||||||||||||
| オオアカウキクサ | 
オオアカウキクサ(Azolla japonica)は、アカウキクサ科に分類される水生シダ植物。浮遊性の水草で、水田や湖沼などに生育する。
分布
日本の本州(宮城県以南[1])、四国、九州などに分布[2]。生育地の消失や農薬の使用などによって、各地で個体数が減少している[3]。
分類
アカウキクサ科の各種は形態的に類似しており、大胞子と小胞子をつけることが少ないため、分類が困難となっている[4]。アカウキクサ科唯一の属であるアカウキクサ属は、さらにアカウキクサ節(Sect. Rhizosperma)とオオアカウキクサ節(Sect. Azolla)に細分され、オオアカウキクサは後者に分類される[4]。アカウキクサ節に分類されるアカウキクサとも形態的に類似するが、アカウキクサの全形が三角形に近くなることや、小胞子嚢の集まり(マスラ)にあるグロキディウムという突起の先端が尖る、根毛が脱落しない、などの特徴によって区別できる。
オオアカウキクサ節内の分類にも諸説あり、特に日本ではオオアカウキクサを独立した種 A. japonica として扱うが[4]、ニシノオオアカウキクサ(A. filiculoides)の変種[5]やシノニム[6]として扱う考えもある。
また日本のオオアカウキクサは数タイプに分けられることが知られており、形態の違いや酵素多型、ランダム増幅多型DNA法などによる解析によって「但馬型」「大和型」などの複数のタイプがあることが判明した[3][7]。このうち大和型については、北米などにも分布しているニシノオオアカウキクサ(A. filiculoides)と同種であるとされた。
但馬型と大和型は、植物体全体の形状(大和型がやや小型)や、マスラにあるグロキディウムの形状(大和型にはグロキディウムの隔壁がほとんどない)によって形態的にも区別される[8]。また酵素多型などによる分析でも区別できる。
形態、生態
1個体当たりの全長は1-4cm[9]。茎は短く、羽状に分枝して、長さ約2mmほどの葉を密生する[10]。葉は赤緑色から青緑色で[2]、互生する[11]。根は茎から垂れ下がって水中に伸び、根毛は早期に脱落する[2]。根の長さは約1-1.5cm[11]。大胞子と小胞子を持つ異形胞子性で、4-7月に大小二つの胞子嚢果を形成する[11]。またちぎれた植物体からも新しい葉を次々と形成し、条件さえ整えば急速に個体群を拡大させる。日本では気温が20℃程度となる6月頃から急激に繁殖するが、気温が25℃を超える7月には繁殖力がやや劣るとされる[11]。
生育適温は20-30℃、生育に最適なpHは4.5-7.5とされる[9]。酸性条件や弱アルカリ性条件では生育が悪くなるとされるほか、高密度、高温条件でも生育が悪くなる[9]。
アカウキクサ・イベント
アカウキクサ・イベントとは、今からおよそ4900万年前に、アカウキクサ類の一種が北極海周辺で爆発的に発生したことで、気温が大きく低下したとする仮説である。この仮説は、北極海などの海底堆積物の分析によって推定されており、始新世の初期には3500ppm ほどであった二酸化炭素の濃度が、アカウキクサ・イベントにより 650 ppmまで減少したとされる[12]。
利害
オオアカウキクサは、窒素固定細菌であるシアノバクテリアの1種、Anabaena azollae(アナベナ)と共生しており、1haのオオアカウキクサによって、空気中から1日あたり約3kgの窒素固定を行っている[13]。この特徴から、稲作を行う際にオオアカウキクサを繁殖させ、それを漉き込んで緑肥として利用することもある[13]。例えば中国南部や東南アジアでは、伝統的に緑肥や飼料として用いられていた[8]。また水面を覆うため、他の雑草が繁茂することを抑制する効果もあるとされる[13]。
ただし一方で、水面を覆うことで水温を低下させ、水中を貧酸素状態にするため、害の強い水田雑草として扱われることもある[9]。実際に1959年には、佐渡島でオオアカウキクサが大繁殖し、約120haもの被害面積を出したため、農薬等で駆除された[11]。
またアイガモ農法にオオアカウキクサなどのアカウキクサ類を利用することもある。これはアイガモ―アゾラ農法とも呼ばれ、アカウキクサ類が作物の肥料となる上にアイガモの飼料ともなり、雑草を抑制する効果もあるということで、多くの人々の関心を集め、普及が進められている[8]。しかしその農法では、外来種であるアメリカオオアカウキクサ(A. cristata)やニシノオオアカウキクサ(A. filiculoides)、またそれらを人工的に掛け合わせて作出された雑種(アイオオアカウキクサ)などを用いることもある[14]。そのため、オオアカウキクサなどの在来種と競合する恐れや、交雑による遺伝子汚染が懸念されている。また在来種を用いる場合でも、地域変異があることが判明しているため、安易に導入することで自然植生が撹乱されるおそれが指摘されている[15]。なお、アメリカオオアカウキクサは特定外来生物に指定された。
脚注
- ^ 横山, 潤、中井, 静子、嶋田, 哲郎「伊豆沼から新たに記録されたアカウキクサ属植物」『伊豆沼・内沼研究報告』第4巻、2010年、19-24頁、doi:10.20745/izu.4.0_19。
- ^ a b c 光田重幸「しだの図鑑」(1985年、保育社)p.33
- ^ a b SUZUKI, TAKESHI; WATANABE, IWAO; SHIRAIWA, TAKUMI (2005). “Allozyme Types of Water Fern Azolla japonica and its Relatives (Azollaceae) Growing in Japan. APG :”. Acta phytotaxonomica et geobotanica 56 (1). doi:10.18942/apg.KJ00004622914.
- ^ a b c 矢原 & 川窪 (2002) p.176
- ^ Lumpkin, T. A.; Plucknett, D.L (1987). “Azolla: Botany, physiology, and use as a green manure”. Economic Botany 34: 111–15. CRID 1361699994102104704. doi:10.1007/bf02858627.
- ^ Hussner, A. (2006): NOBANIS – Invasive Alien Species Fact Sheet – Azolla filiculoides. – From: Online Database of the North European and Baltic Network on Invasive Alien Species – NOBANIS www.nobanis.org, Date of access 2010/10/09.
- ^ 矢原 & 川窪 (2002) p.178
- ^ a b c 矢原 & 川窪 (2002) p.183
- ^ a b c d 劉, 翔、高山, 耕二、山下, 研人、中西, 良孝、萬田,正治 、稲永,厚一「飼料資源としてのアカウキクサ (Azolla) の栽培条件と栄養価値」『日本草地学会誌』第44巻第3号、1998年、266-271頁、 CRID 1390282680730792320、doi:10.14941/grass.44.266_1。
- ^ 埼玉県環境防災部みどり自然課 2005, p. 76.
- ^ a b c d e 渡辺, 巌「アカウキクサ-ラン藻の共生による生物的窒素固定とその利用」『日本土壌肥料學雜誌』第52巻第5号、1981年、455-464頁、 CRID 1390001206555440128、doi:10.20710/dojo.52.5_455。
- ^ Pearson, P.N.; Palmer, M.R. (2000). “Atmospheric carbon dioxide concentrations over the past 60 million years” (PDF). Nature 406 (6797): 695–699. doi:10.1038/35021000. PMID 10963587 2008年3月14日閲覧。.
- ^ a b c 杉野, 守; 芦田, 馨 (1984). “河内産オオアカウキクサの生態”. 近畿大学農学部紀要 17: 1-11. CRID 1050282677527170560.
- ^ 矢原 & 川窪 (2002) p.184
- ^ 矢原 & 川窪 (2002) p.186
参考文献
- 矢原, 徹一、川窪, 伸光、種生物学会 編『保全と復元の生態学 野生生物を救う科学的思考』文一総合出版〈種生物学研究 ; 第24/25号〉、2002年。 ISBN 978-4-8299-2170-8。
- 光田, 重幸『しだの図鑑』保育社、1986年。 ISBN 9784586310111。
- 埼玉県環境防災部みどり自然課 編『埼玉県レッドデータブック2005植物編』埼玉県、2005年。 NCID BA73995884。
固有名詞の分類
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